二話〈ビューポイント:ウィロウ〉
ウィロウはオクトリアの書斎へとやってきた。聖十字騎士団がなくなってから、騎士団すべてを受け入れたのは他でもないオクトリアだった。
「予定の時間より早いね。さすが若くして団長になっただけはある」
「そういう話はいい。俺を呼んだのには理由があるんだろ?」
「話が早くて助かるよ。キミにはやってもらいたいことがあるんだ。私の式守としてね」
「いいのか? 俺がアナタの式守になってからそんなに時間は経ってないぞ?」
「正直、実力で言えば式守の中でキミがトップだからな。キミに任せるという選択肢しかない」
「それは、冥利に尽きると言えばいいんだろうな。で、そのやってもらいたいことってなんだ?」
「スリエル直属の部下を倒したい。だが魔女たちは私も含めて動けないんだ。そこで式守になんとかしてもらおうってわけだ」
「強いんだろ、スリエルの部下は。俺がなんとかできると本気で思ってるのか?」
「キミならなんとかしてくれるかな、っていう希望的観測はあるかな」
「逆に言うと希望的観測しかできないわけか」
そんなことを言いながらも、ウィロウは迷わず「わかった」と言った。
「まったく考えなかったみたいだけど大丈夫?」
「問題ない。どうせ誰かがやらなきゃならないんだろ。だったら俺がやるさ」
「キミは自己犠牲の精神の上に成り立っているのかな? だとしたらやめておいた方がいい。もう少し自分に優しくなれ」
「自己犠牲だなんて思っちゃいないさ。俺を信用して任せてくれるんだろ? だったらやらない方がおかしい」
「なるほど、私は少し勘違いをしてたみたいだ。まあいいさ、この件はキミに任せるよ」
「勘違いの部分は触れないでおく。で、スリエルの部下はどこにいるんだ? 当然場所はわかってるんだろ?」
「ここから北へ行くと国境に関所がある。そのもう少し前にラストールという要塞都市があるんだ。ヤツはそこにいる」
「名前は?」
「ディーン=グリフィス。サウスレギオンではたくさんの逸話を残している英雄的存在だ」
「聞いたことがあるな。歴史の教科書にも載っている。様々な魔獣を倒しただけでなく、兵士を使役して魔獣の大群を退けた。確か二百年くらい前に死んでるはずだ」
「スリエルが死んだ人間を使役してるっていう話は前にしたな。これもその一環だ。ただ問題なのは、生き返らせた人間が生前よりも強力な力を持っているということだ。普通の兵士なんかじゃまったく歯が立たない。魔操師でも相手にはならないだろうね」
「そんな相手とやらせようってのがそもそもの問題なんだがな」
「手はある。これを持っていけ」
オクトリアは黒い腕輪を差し出してきた。小さな宝石が一つ埋め込まれている。
「これは?」
「私の魔導力が込められている。これがあれば普段の数倍、いや数十倍の力が出せるようになるはずだ」
「そんなものがあるなら楽勝……というわけにもいかないのか」
「ご明察。ディーンはラストールの全域を支配している」
「ああ」と、頭を抱えそうになった。
「敵はディーンだけじゃないってことか」
「敵はラストールという要塞都市。そのすべてだ」
オクトリアは笑っていたが、それを見ても笑う気にはなれなかった。何千何百という兵士がいる場所に単独で乗り込み、そして大将だけを討ち取れというのだ。その難しさたるや、想像するだけでため息が出てくるようだ。
「腕輪の力はせいぜい三回が限界だからな。三回使うと多分壊れる」
「五割の力なら六回くらいはいけるか」
「ま、そういうことだな。くれぐれも無理はするんじゃないぞ。死んでしまったら二度目さえない」
「一人でやらせといてそりゃないだろ」
「ああいう場所に乗り込むのならば少人数の方がいい。キミとキミの魔導書、合わせて三人ならちょうどいいだろうしな」
「まあ、やれるだけやってみる」
「外に車がある。大事に使ってくれよ、私の私物だからな」
「肝に銘じておく」
そう言って部屋を出た。それはオクトリアのためであり、自分のためであり、顔を見たこともない民衆のためでもある。できることならば自分だけでなんとかしたい。今となっては自分の上司のような存在だが、オクトリアはフランクでとてもやりやすい。この人の下にいられるのならば存在意義を見いだせるかもしれないと、ウィロウは心のどこかでそう思っていた。




