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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
106/225

十七話

【20ターン目】





 イズミは剣を引き、剣を出した。


 ビオスフティスは銃を出してきた。


 おそらくこれが通常なのだ。こういう起伏のない単調な勝負。だがこの単調な作業に慣れてはいけない。


 例えば相手が円匙を出したなら、自分のスクラップが半分にされてしまう。


 例えば相手が鎚を出し、高得点を重ねたのなら、今度は自分が追う立場に立たされる。


 その時になって慌てていたのでは勝つこともままならない。だからこういう時に心を少しだけ落ち着ける。


 そして、次のカードを引いた。




 山札:162

 イズミの手札0   スクラップ28  得点16

 ビオスフティスの手札3  スクラップ26  得点12






【21ターン目】





 剣を引いた。剣ばかりではスクラップを増やすことはできないが、こればかりは運なのでどうすることもできない。


 逆に、ビオスフティスはしたり顔で鎚を出してきた。選んだカードは円匙。一気に点数を捲くられた。


「これで逆転だな。いやー、点数が蓄積すると楽しくなってくるな」

「追い返しますよ、そのうち」

「すぐに、とは言わないんだな」

「すぐに追い越したら面倒なことになると思うので」

「追われるのはイヤか?」

「当然です。後ろから迫って来られると、どうしても自分のペースを保てる自信がない」

「マイペースなんだな。嫌いじゃないぞ、そういうの」


 ビオスフティスが「ははっ」と笑った。


 しかし、イズミにも策はある。そのためには「必要なタイミングで鎚を引く」というのが重要になる。それができるかどうかが運であることも、イズミはよく理解していた。




 山札:158

 イズミの手札0   スクラップ30  得点16

 ビオスフティスの手札3  スクラップ24  得点22






【22ターン目】






 杖を引き、杖を出した。そこまでは非常に順調だった。


 ビオスフティスが出したカードは円匙。そのせいで、イズミのスクラップが半分になってしまった。


 焦るな、と小さく深呼吸した。


 我慢はいずれ実を結ぶ。クインク家で、両親も兄弟も皆そう言う。我慢し続けることが美徳というわけではないことはわかっている。だが、我慢することが大事であることもわかっている。


 焦るな、惑わされるな。そう、自分に言い聞かせた。




 山札:150

 イズミの手札0   スクラップ18  得点16

 ビオスフティスの手札3  スクラップ24 得点22






【23ターン目】





 ようやくツキが回ってきた。そう言わんばかりに、今引いたばかりのカードを場に出した。


 出したカードは鎚。少なくなってしまったスクラップから円匙を出し、ビオスフティスの得点を追い越した。


 そしてビオスフティスもまた鎚を出してきた。選択したカードは鎚。点数的にはまだイズミが一点上回っていることになる。


 しかし、気を抜くことができない。


 このゲームでの点数配分は剣が2、銃と鎚が3、盾が4、杖が5、円匙が10。定期的に鎚を使っているビオスフティスは、ある程度自分のスクラップになにが入っているかを知っている。その上で、得点が低い鎚を選んだ。


 常に高得点を出さなければいけないルールはない。スクラップに杖があるにもかかわらず、わざと鎚を選んだ可能性は低くないのだ。


「さあ、考えて考えて、納得がいく答えを出すがいい。ブラフなのかどうなのかは、私しかわからないんだからな」


 自分から「仕掛けているぞ」と言っているようなものだ。無理矢理読み合いという要素を相手に押し付けていると言ってもいい。


「考えても仕方がないことは考えません。次、行きますよ」


 ビオスフティスがため息をついた。


 イズミはこれを見逃さなかった。


 逆である、という思考が降って湧いたのだ。


 逆。読み合いを強制しなければならない状況なのではないか、と考えたのだ。


 そうなればビオスフティスのスクラップに高得点を量産する要素は少ないはず。


 それが正しいかどうかは置いても、自分を信じる以外の道が用意されていなければ、あとは従うしかないのだ。




 山札:148

 イズミの手札0   スクラップ16  得点26

 ビオスフティスの手札3  スクラップ26  得点25






【29ターン目】





 銃を引き、銃を出す。確実にスクラップが溜まっていく。


 だがビオスフティスは鎚を出してきた。選択したのは盾。


 これで点数は追い抜かれてしまったが、確実にわかることがある。


 ビオスフティスのスクラップは剣と銃にまみれているということが、だ。


 読み合いを無理矢理引き起こし、後半でまくる自信があるのならば、ここも鎚や銃で十分なのだ。


 なぜ盾を出したのかを考える。


 盾を出すのが一番リスクが低いからだ。


 円匙でスクラップを吹き飛ばされてしまえば盾が消滅する。ここ数ターンの間に盾が来たと考えていい。


 もしも杖があったのならば、吹き飛ばされないようにここで出すはずだ。


 それがわかっていても、イズミの胸中は焦りでいっぱいだった。


 鎚が出てこないのだ。


 いくらスクラップを増やしても、鎚が出てこなければ点数を増やせない。


 ビオスフティスの手札は、ここ数ターンで一枚になっていた。きっとあれは盾ではない。確証はないが、なんとなくそんな気がしていた。


 スクラップを吹き飛ばされたくなくて鎚を使ったのなら、どこかで盾を出していてもおかしくないだ。


 あとは完全に自分の運に任せるだけ。鎚さえ引ければ勝てるはずだ。


 山札が三分の一しかないことを除けば、希望の光はまだ消えていない。




 山札:110

 イズミの手札0   スクラップ24  得点26

 ビオスフティスの手札1  スクラップ40  得点29






【31ターン目】






 杖を引き杖を出す。ここでもまたスクラップが溜まっていく。


 ビオスフティスは剣を出した。


 が、杖というカードがここで驚異になるとは思わなかった。


 杖を出すということは、山札が六枚削られるということ。これにより、山札が三分の一を割ってしまったのだ。


 序盤は杖を出すことに戸惑いはなかった。けれど、後半になればなるほど、杖というカードの驚異が顕になっていく。


 このゲームにおいての最大の毒が杖であることに、今始めて気がついたのだった。




 山札:90

 イズミの手札0   スクラップ32  得点26

 ビオスフティスの手札1  スクラップ48  得点29


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