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逃げ腰になっていたレオルドだったが、撤退するという選択肢を捨てた。今更、撤退して態勢を立て直したとしても勝てるかは分からない。
仮に人数を増やしても、ギルバート、バルバロト以上の実力者などいない。無駄に犠牲者を出してしまう可能性があるので、レオルドは撤退という選択肢を捨てたのだ。
ならば、ここは覚悟を決めて前に出るしかない。
レオルドは一歩前に進んで、魔法を放つ。耐性があると言うだけで効かないという訳では無いのだ。だが、レオルドが放った魔法はミスリルゴーレムの前では意味をなさなかった。
困り果てるレオルドだったが、今こそ真人の記憶からミスリルゴーレムの必勝法を導き出す時だと閃く。
しかし、残念な事にゲームの時は防御無視攻撃や貫通ダメージと言ったものを使い、物理的に倒すのがセオリーとなっている。
そして、悲しい事にここは現実であり、誰も防御無視攻撃や貫通ダメージと言ったものを持っていない。イザベルは分からないが、恐らく持ってはいないだろう。
王家直属の諜報員なのだから、暗殺などの技術はあるかもしれないが正面からの戦いには向いていなさそうだ。
振り出しに戻ったレオルドはどうにかミスリルゴーレムを倒せないかと頭を悩ませる。今はギルバートとバルバロトの二人が注意を引いてくれているからいいが、二人もいずれは限界を迎える。
それまでにミスリルゴーレムを倒す算段を考えなければならない。
レオルドが考え事に集中していると、小石が飛んできて頭に当たる。大した痛みは無かったが、レオルドは集中が切れてしまう。
「いたっ……小石?」
目の前に落ちた小石を拾い上げるレオルドは唐突に閃く。
「そうだ……ゲームじゃない。現実なんだ。だったら、ミスリルゴーレムじゃなくて足場を崩したりすれば……!」
やっと現実に戻ってきたレオルドは得意の土魔法を使って、ミスリルゴーレムの足場を崩す。ミスリルゴーレムもこれには対処出来ずに体勢を大きく崩した。
突然の事であったのに、ギルバートとバルバロトは示し合わせたかのように連撃を叩き込む。
しかし、まだまだミスリルゴーレムは倒し切れない。だが、進展はあった。体勢を崩す所までいったのだ。ならば、倒す事も不可能ではない。
「関節部ならばどうですかな?」
ズドンッとギルバートのかかと落としがミスリルゴーレムの肘部分に決まる。果たして結果はどうなのかとレオルドは見守るが、残念な事に破壊出来ていない。
「なら、追撃するだけだ!」
ギルバートがかかと落としを決めた肘にバルバロトが剣を叩き込む。これならばと思われたが、まだ破壊出来ない。
このままでは駄目だと思われた時、今まで大した動きを見せていなかったイザベルが動いた。
「あまり、やりたくはありませんが状況が状況ですね。少々、本気を見せましょう」
イザベルが跳躍して高く舞い上がると一気に急降下。落下地点はミスリルゴーレムの肘部分。ギルバートとバルバロトが攻撃を与えていた箇所だ。
イザベルも実力はあるのだろうが、破壊する事は出来ないだろうと決めつけていたレオルドだったが、予想を大きく裏切られる。
ピシッと今まで聞いた事のない音が聞こえる。レオルドはその音の発生した箇所を確かめると、イザベルが攻撃した肘部分に亀裂が入っていた。
今は驚いてる場合ではない。レオルドは声を張り上げて、ギルバートとバルバロトに指示を出す。
「ギル、バルバロト! イザベルが突破口を開いた今こそ攻め時だ!!!」
レオルドの指示を聞いた二人はイザベルが作ったミスリルゴーレムの肘部分にある亀裂を集中して狙う。
そうして、今まで破壊する事は不可能に思われていたミスリルゴーレムの肘が音を立てて崩れ落ちたのだ。
これならば行けると確信したレオルドはイザベルに声を掛ける。
「イザベル! もう一度頼む!」
「調査が終わった暁には報酬に期待しますからね!」
イザベルがどのようにしてミスリルゴーレムを傷付けたかは分からないが、レオルドはイザベルを軸にして攻めれば勝てると確信する。
見事に作戦はハマり、イザベルを基点とした連携攻撃はミスリルゴーレムを順調に削っていく。ギルバート、バルバロト、レオルドの三人がイザベルが作った亀裂を集中攻撃して破壊する。
単純な作業のように思えるが、最も効率が良かった。レオルドはこの時ほどイザベルの存在に感謝したことは無かった。
そして、ミスリルゴーレムの両手両足を完全に破壊して動けなくする。これで終わりではない。ゴーレムの原動力となっている核を破壊せねばならない。
レオルドは核が胸にある事を知っており、イザベルに頼んで胸を破壊する。すると、砕けた胸から丸い核が出現する。
「これで終わりだ」
核に剣を突き刺したレオルドはミスリルゴーレムが完全に停止するのを確認した。苦労したが、これで終わりである。
後は、この部屋の先に進んで転移魔法陣を復活させればレオルドの計画は実を結ぶ。
しかし、同時に世界最強の魔法使いとのフラグが建ってしまう。こればっかりはどうする事も出来ないので、レオルドは考えるのをやめた。
「さあ、この先が最深部だ。行くぞ」
レオルドは三人を引き連れて最深部へと向かった。





