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レオルドはゼアトへと帰ってきた。短いようで長かった王都での生活を終えて。
帰る際には母親がレオルドを抱きしめて、別れを惜しむという一悶着があった。
「病気には気をつけるのよ? これから寒くなるから温かくして寝ること。それから、たまにでいいからお手紙を頂戴。
もしも、忘れてたら直接説教にゼアトへと行きますからね!」
「は、はい、母上」
こんな感じでグイグイと迫って来る母親に困りながらも、最後は別れを告げてゼアトへと帰るレオルドであった。
ゼアトへと戻ってきて早一週間が経過した。父親から託されたゼアトの全権。
領主代理になったレオルドは目まぐるしい毎日を送っていた。
朝は政務に昼から鍛錬、そして夕方にまた政務で就寝前に魔法の勉強。
身体を動かすのは楽ではあるが、政務は頭を使わないといけない上に手が足りない。
なにせ、屋敷に政務が務まる人間がレオルドとギルバートしかいないからだ。
急ぎ、文官を雇わねばならないとレオルドは募集を掛けた。最初は父親に頼ったが、自分の力で解決しなさいと突き返された。
なので、ゼアトの住民から文官を見つけなければならない。読み書きに四則計算が出来るものが好ましいが中々見つからない。
さらにレオルドの心労を増やすかのように問題が発生した。
王都から帰ってきてからシェリアが仕事で失敗を起こすようになったのだ。理由は至極単純で恋煩いだ。
公私混同するなと叱りたいが、シェリアはまだ思春期真っ盛りの女の子だ。だからと言って、贔屓するわけにはいかない。
シェリアはギルと二人でレオルドにゼアトへと付いてきて、屋敷の事を切り盛りしてきてくれた。
そして、今はシェリアは一番年下ではあるがメイド長という立場にある。だが、そんな立場の人間が恋煩いで仕事を疎かにするのは見過ごせない。
「ギル。シェリアのことなのだが……」
「存じております。私のほうから厳しく言っておきますので」
「いや、この際だからはっきりと言おう。シェリアを解雇する」
「なっ!? それはあまりにも性急では!」
「ギル。お前は知らないが他の使用人たちから俺に苦情が上がっている。お前にではなく俺にだ。
まあ、お前はシェリアの祖父で甘い部分もあるから仕方ないが……流石に今のままだとシェリアを排除しようと他の使用人が何か良からぬ事を企むだろう」
「私がさせません」
「お前が孫娘に甘い事は知っている。だが、今回ばかりは俺も思う所がある。シェリアは優秀なメイドだが、やはり精神的には幼い部分があった。
だから、シェリアを解雇する。そして、ジークフリートにでも押し付けよう」
「それは……」
「躊躇う必要はないだろう。王都であれだけ俺にジークのことを語ったのだ。
ジークが俺と決闘した事を知らなかったから仕方がないとは言え、お前は違うだろう?」
「その節は申し訳ございません! 今更ながら謝罪をしたところで――」
「その通りだ。今更謝罪などいらん。お前が孫娘に甘いのは知っていたしな」
運命48ではギルバートはレオルドに殺される。伝説の暗殺者であるギルバートをレオルドがどのようにして殺害したかと言えば、孫娘を人質に取って無抵抗なギルバートを殺害した。
真人の記憶で知っているのでギルバートがどれだけシェリアに甘いかは分かっていた。
それになんだかんだと言ってシェリアには世話になったレオルドは、シェリアにも幸せになって欲しいと考えていた。
果たして、これが正しい選択なのかは分からないがこのままゼアトで一生を過ごすよりも、好きな人の側にいたほうが良いだろう。結ばれるかどうかは別として。
「……坊ちゃま」
「ジーク、いや、ゼクシア男爵に一筆したためればシェリアを雇ってくれるだろう。
まあ、俺からだと怪しまれるから父上に頼むとしよう」
「重ね重ね申し訳ございません。本来であれば許されるような事ではないのに……」
「いいさ。お前にもシェリアにも世話になったからな。それよりも、文官の確保といなくなるシェリアの穴を埋める人材が必要だな。
文官はこれからも探すとして、メイドの方は父上にでも聞いてみるか」
恐らくではあるが使用人のほうも自分で見つけろと言われるのが落ちだろう。
レオルドは領主代理となってから、忙しい日々は終わらないなと溜息を零した。
少し前のニート生活が恋しいと憂いていた。
その後、レオルドはシェリアを呼び出して事の経緯を話す。最初は顔を真っ青にして何度も頭を下げたシェリアだったがレオルドの温情を知って歓喜する。
まさか、たかが使用人の一人である自分の為に主であるレオルドが粋な計らいをしてくれるとは夢にも思わなかったからだ。
シェリアはレオルドから話を聞き終わると、自室に戻り荷物を纏める。必要最低限のものだけを残して仕事へと戻った。
これで、いつでもジークの元へと向かえるとはしゃぎながら。
おかげで、手に付かなかった仕事も別人のようになっていた。あまりの変わりように他の使用人も驚いていたが、元に戻ってくれたのならそれでいいと肩の荷が降りた。
一先ず、一つ目の問題が解決したレオルドは背筋を伸ばして身体のこりをほぐすのであった。





