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レオルドは全ての仕事を片付け終わり、しつこく戦おうと誘っていたベイナードの元へと向かう。
ベイナートは暇を潰していたようで、剣の素振りをしていた。汗を大量にかき、足元には水溜りが出来ている。一体、何時間剣を振り続けていたのだろうかと気になったが、レオルドは考えていた事を口にする。
「ベイナード団長。先程の件ですが――」
レオルドが言い終わらない内にベイナードは何を言いたいかを察し、目を輝かせながらレオルドの言葉を食い気味に遮る。
「やる気になってくれたか!!!」
ぐぐっと暑苦しいベイナードが近付いて来たので、レオルドは手で押し返しながら答える。
「ええ。俺なんかでよければ」
「構わん! さあ、戦おう!」
「まずは条件があります」
「む、なんだ?」
「俺は魔法の使用ありでベイナード団長に一撃でも入れた場合は勝利、そして俺が気絶、もしくは戦闘が続行出来ない状態になったら、その時点で終了とさせてください」
「うむ! それくらいなら全然構わんぞ!」
「では、とりあえず戦いやすい場所に移動しましょう」
「おお!」
やる気満々のベイナードはレオルドに付いて行く。レオルドは審判としてバルバロトとギルバートに声を掛ける。
二人はベイナードとレオルドが戦うと知って、大いに驚いたが止める事はしなかった。ギルバートなら止めるかと思っていたのだが、レオルドの意思なので止める事はしなかった。
四人はゼアトから出て、レオルドが魔法で直した場所に着く。
流石に焼け焦げた木やへし折れた木をレオルドは直せなかったので、丁度いい空き地になっていた。
ここならばレオルドとベイナードが戦っても問題はないように思えるが、それは二人の匙加減によるといったところか。
「じゃあ、ルールはさっき説明した通りで始めます」
「よし! いつでもいいぞ!」
「それでは、始め!」
審判としてレオルド、ベイナードの二人の間に立っているギルバートが手を下ろして合図を出す。
「うおおおおおおお!」
ギルバートが手を振り下ろして開始の合図をした瞬間、レオルドはベイナードへと突撃する。対するベイナードは、雄叫びを上げながら突撃してくるレオルドに笑みを浮かべる。
一体どんな攻撃を見せてくれるのだろうと、ベイナートは楽しみで仕方がなかった。
待ち構えるベイナードはレオルドを迎え撃とうとしていたが、突然バックステップで下がる。
バックステップで下がったベイナードの前に雷が落ちる。
レオルドが最も得意とする雷魔法だ。無詠唱で発動されたから威力は低いが、ベイナードは一撃でも当たれば敗北する。
「ほう! ライトニングか!
しかも、無詠唱ときた!
ふはははははっ!
これは楽しくなってきたぞ!」
豪快に笑うベイナードにレオルドはヒクヒクと顔が引き攣っている。レオルドが放ったのはライトニングで最も得意な魔法である。
それを無詠唱で発動し、雄叫びを上げながら突撃するように見せて気付かせないようにしていたのに、それをあっさりと避けるのだから顔が引き攣るのも仕方ない。
(うっそだろ、おい……!
そりゃ、ギル並には強いと思ってたけど……
アレ、避けるのかよ!
どんな反射神経してるんだよ……)
レオルド自身、先程のライトニングで決まると思っていた手前、避けられると自信が無くなってしまう。
(ふう、落ち着け。ベイナード団長は性格はあれだが、実力は間違いなくある。今の俺じゃどうやっても勝てないのは確かだ。
でも、一撃を入れるくらいなら可能性はある。ただ、それでもとんでもなく難しいけど)
レオルドは次の作戦を練り始める。ベイナードはレオルドが次の手を考え始めている事に気がついたが、あえて手は出さなかった。
どのような方法で攻めてくるのか期待していたから。
それに手加減すると言ったのだから、それくらいは当然である。
「アクアスピア!」
レオルドはライトニングの次に鍛錬を積んだ水魔法のアクアスピアを発動させる。自身の後方に浮かばせると、レオルドはベイナードへと駆け出す。
距離を詰めてくるレオルドに対し、ベイナードは剣を構えて微動だにしない。
「さあ、どこからでも来るがいい!」
ベイナードの言葉に応えるようにレオルドは剣を繰り出す。力強い踏み込みで剣を振るうがベイナートに軽くあしらわれる。
だがそれは折り込み済みで、レオルドはすかさず後方に浮かばせていたアクアスピアをベイナード目掛けて撃ち放つ。
しかし、レオルドが魔法を使うだろうと予見していたベイナードはアクアスピアを避けてみせた。
「弾けろ!!!」
だが、レオルドは避けられる事も想定していて、次の手を打った。避けられてベイナードの後方へと飛んでいくアクアスピアを破裂させて、水飛沫を放つ。
これにはベイナードも驚いたが、有り得ないほどの速さで剣を振って水飛沫を風で弾き飛ばした。
「なっ!」
「ははははは! 今のが決まっていれば、一撃だと言うつもりだったのだろう?」
「くっ……!」
図星をつかれてレオルドは顔を歪める。自分ではいい作戦だと思っていただけに悔しいのだ。
そして、改めて思い知る。これが王国で二番手とされている強者だと。
だからこそレオルドは高揚する。自分の力はどこまで通用するのかと。今の自分なら、どこまで戦えるのかと。
レオルドはいずれ来る運命の時に備えて力を蓄える必要がある。だから、この数ヶ月でどこまで自分が成長したのか確かめる為に、レオルドはベイナードへの闘志を燃やす。





