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バルバロト含めたワイバーン討伐部隊が、ワイバーンの巣まで後少しというところまで来ていた。
調査隊により報告されたワイバーンの数は二十八頭。幼体を含めれば三十二頭ものワイバーンが生息している。
幼体の方は脅威にはならない、成体、特に雌の個体は脅威となる。幼体のワイバーンを守ろうとする為、神経質になっているのだ。近付くものは全て敵と認識しており、その凶暴性を増している。
「魔法班、弓矢班は配置に着いたか?」
「は! 既に配置は完了しております」
「うむ。では、これよりワイバーン討伐作戦を決行する。総員、突撃準備!」
馬に跨っている隊長が剣を抜いてワイバーンのいる方向に剣先を向けると、部下達へ声高らかに命令を下した。
命令を受けた騎士達は一気に駆け出す。先陣を切ったのはバルバロトで、跳躍と同時に一閃してワイバーンの首を切り落とした。
ワイバーンは仲間がやられた事で押し寄せてくる騎士達に向かって咆哮する。そして、すぐさま空へ飛び立とうと羽を動かした。だが、そこへ矢の雨が降り注ぐ。
これにはワイバーンも堪らず、苦痛の悲鳴を上げた。矢の雨から逃れる事が出来たワイバーンは上空へと逃げ、矢が飛んできた方向を睨みつける。
弓を構えている騎士を捉えたワイバーンは、攻撃された怒りのまま騎士へと襲い掛かる。しかしワイバーンが騎士へと迫ったその時、ワイバーンを悲劇が襲う。
最初に襲い掛かったワイバーンが火の玉を受けて丸焦げになってしまった。仲間が丸焦げにされるのを見たワイバーンは再び上空へと逃げる。
「逃がすな! 撃てぇ!」
魔法班を指揮する騎士が指示を出し、上空へと逃げるワイバーンに追撃を行う。火の玉が続々とワイバーンへと飛んでいくが、最初の一頭を落としてからは当たっていない。
騎士が悪いわけではなく、魔法の命中率自体があまり高くない。そもそも訓練では動かない的を相手にしているのだから、常に動き続けるワイバーンに魔法を当てるのは難しいのである。
一方でバルバロトの方は確実にワイバーンを減らしている。それにはバルバロトの奮闘もあるからだが、一番は幼体を守るワイバーンが迂闊には攻められず、騎士達に対して防戦一方であったからだ。
(ふむ……ここまでは順調だな。このまま押し切れるか)
戦況を眺めている隊長は冷静に分析していた。現状、バルバロトを要とした騎士達が、ゆっくりではあるが着実にワイバーンを倒しており、上空に逃げているワイバーンも魔法班と弓矢班が抑えている。
これならば、時間はかかるだろうが確実にこちらが勝利するだろうと踏んではいるが、どうしても不安が拭えない。
(しかし、妙だ……いくら雌のワイバーンが幼体を守るとは言え、ここまで粘るものか?
幼体も大事ではあろうが、ワイバーンは頭が悪いわけではない。逃げ出す個体がいてもおかしくないはずだが……)
その不安は的中することになる。
「グゥルアアアアアアアアアアア!!!」
けたたましい咆哮が鳴り響き、騎士達が怖気づく。
「な、なんだ!? この鳴き声は!」
「くぅ……凄い鳴き声だ!」
咆哮だけで地響きが起こる。これには騎士達も堪らず動けなくなる。ただ一人戦況を眺めていた隊長だけが咆哮の影響から外れており、何が起こったかを逸早く理解する事が出来た。
「馬鹿な! あれはレッドワイバーン!? 報告にはなかったはずだぞ!」
レッドワイバーン。ワイバーンにも種類があり、レッドワイバーンはワイバーンの上位個体である。
通常のワイバーンは成体で3、4メートル程度の大きさだがレッドワイバーンは6、7メートルの体格を誇る。見た目も違い、ワイバーンは灰色の外皮をしているがレッドワイバーンは名前の通り赤色になっている。
しかし、一番の違いは別にある。それは――
「火を吹いてくるぞ! 全員、回避!」
そう、火を吹くのだ。通常のワイバーンは足の鍵爪で引っかく攻撃と鋭い牙で噛み付くという直接的な攻撃方法しかない。だが、上位の個体であるレッドワイバーンは、先の二つに加えて火を吐くのだ。
「ワイバーンが逃げなかったのは巣のボスがレッドワイバーンだったからか! これは想定外だな……!」
どうしてワイバーンが逃げなかったのか判明したが、状況は悪い。報告にはなかったレッドワイバーンの出現で騎士達に動揺が走り、戦況が傾いてしまった。
早めに立て直さねば、勢いに押されてこちらが敗北してしまう可能性がある。いち早く隊長は、最大戦力であるバルバロトに指示を出した。
「バルバロト! レッドワイバーンを狙え! 魔法班はバルバロトの援護! 弓矢班はワイバーンへの牽制を続けろ!」
レッドワイバーンの出現に浮足立っていた騎士達は、隊長の指示の下、素早く態勢を立て直す。
バルバロトは襲い掛かってきたワイバーンへと跳躍してその頭を踏み台にすると、上空で吼えていたレッドワイバーンに斬りかかる。
「はああっ!」
しかし、バルバロトの一閃は空振ってしまう。空中では空を自在に飛べるレッドワイバーンの方が有利で、バルバロトの攻撃を難なく避けたのだ。
「くっ……!」
いくら剣の腕が立とうとも不利な空中ではどうすることも出来ないバルバロトは、もどかしさで思わず奥歯を噛み締める。
空を飛べないバルバロトは重力に引かれて地面へと落ちていく。そこへ一頭のワイバーンがバルバロトに噛み付こうとする。だが、噛み付こうとしたワイバーンに魔法が直撃して、ワイバーンは燃えながら落ちていった。
「助かる!」
「周りはお気になさらずレッドワイバーンをお願いします!」
「任せろ!!!」
地面に着地したバルバロトは再び跳躍してレッドワイバーンに迫る。





