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ワイバーンがゼアトの近くに巣を作っている事を確認してから一週間が経過した。
ゼアトに駐屯している騎士団は周辺調査を行い、ワイバーン討伐に向けて着々と準備を進めている。
「報告があります!」
「うむ。聞こう」
「はい。調査隊の調べによりますとワイバーンの数は成体が二十八、幼体が四とのこと。
それと周辺の生態系に変化が生じており、普段は森の奥でしか見られなかった魔物が森の浅い場所で発見されたとのことです!」
「そうか……餌になる事を恐れて逃げてきた魔物も厄介だな」
「近くの畑や家畜に被害が出ているそうです。近隣の住民からは駆除依頼が増えるばかりです」
「ふむ……討伐隊の編成はどうなっている?」
「既に完了しています。ただ……」
「ただ? なんだね?」
「王都からの援軍は無いのかと一部の騎士達が騒いでいるようです……」
「……援軍など必要ない。我々ゼアトの騎士団で討伐するのだ」
「お言葉を返すようですが、ワイバーンの数は編成された討伐隊だけでは厳しいかと……ここは、守りに徹して王都からの援軍を待つべきでは?」
「私に意見をする気かね?」
「い、いえ! 自分はただ抑えられる被害なら抑えるべきだと思いまして……」
「いいかね? 今回の件は我々騎士団の落ち度が招いてしまったことだ。もしも、王都からの援軍を待ってワイバーンを討伐出来たとあっては、私も君も今回の件を招いた原因として罰せられる事になる。
そして、ここは国境の要であるゼアトだ。誰が管理していると思っている?
かのハーヴェスト公爵家だぞ。どのような罰が待っているか、君でも想像出来るだろう?」
上官の言葉にゴクリと喉を鳴らす部下は冷や汗が流れる。
上官の言っていることは、部下も理解していることだ。今回の件は間違いなく懲罰ものだということを。
騎士団が見回りを怠り、ワイバーンの巣作りを許してしまった事が原因なのだから。
そして、ハーヴェスト公爵家は国内でも有数の権力者であり、木っ端な騎士程度なら簡単に首を刎ねるだけの権力に武力もある。
ただし、今回の件は職務を怠った騎士のみが罰せられる事になっている。上官は自分も監督不届きで罰せられると勘違いしているので、なんとしてでも自分達の手で解決しようと躍起になっているのが哀れでしかない。
既にギルバートにより報告が終わっている為、どれだけ騎士団が躍起になっても意味はない。しかし、そんな事は知らないので誰も諌めることは出来ない。
部下は上官の言葉を鵜呑みにして、顔を真っ青にしながら部屋を出ていく。残された上官はぼんやりと天井を見上げて盛大な溜息を零した。
訓練場ではワイバーン討伐部隊が隊員同士で打ち合いをしていた。その中にはジェックスにより片腕を折られていたはずのバルバロトの姿があった。
「はあっ!」
「せいっ!」
刃を潰した模擬刀で模擬戦を行うバルバロト。片腕を折られていたとは思えない剣捌きで、相手を翻弄して倒してみせた。
倒れた相手にバルバロトは手を差し伸べる。倒れていた相手も笑いながらバルバロトの手を採る。
「はは。つい数日前まで片腕を折られていた男の動きじゃないな」
「王都から派遣された治療班が優秀だったからさ」
バルバロトの言う通り、餓狼の牙により負傷した騎士団を治癒する為に王都から派遣された治療班がバルバロトの折られた腕を治療している。
レオルドが見舞いに来た翌日に治療班が到着して、バルバロトに加えて負傷していた騎士達を治療した。
勿論、ゼアトにも回復魔法の使える治癒師はいる。ただ、骨折などを治せる腕前ではないだけだ。
ゲームであれば回復魔法を使えるキャラに回復魔法を唱えさせれば数値として見えるが、ここは現実なので回復魔法もゲームとは違う。
そもそも、回復魔法の使い手は少ない。ゲームであればヒロインの何人かは使える。ついでにジークもスキルにより使えるようになる。ちなみにレオルドは天地がひっくり返らない限りは使える事はない。
運命48の世界では回復魔法によくある、ヒール、ハイヒール、エクスヒールと言うものがある。ヒールならばかすり傷程度、ハイヒールなら裂傷など、エクスヒールで骨折などを治せる。
ただ、エクスヒールまで使える回復魔法の使い手は限りなく少ないので王都に拘束される事が多い。ゼアトにいる回復魔法の使い手はハイヒールまでだ。
だから、バルバロトの骨折を治す事は出来なかったが王都から派遣された治療班はエクスヒールが使えたので骨折も簡単に治す事が出来た。
レオルドはまだこの事実を知らないので、知った時は尻餅を着くくらい驚く事だろう。
何せ、ゲームの知識しかないのだから。ゲームと同様に回復魔法を使えば治るだろうと思っているに違いない。
バルバロトは相手を変えて模擬戦を続ける。前回、ジェックスに負けたのが悔しいバルバロトは自然と力が入ってしまう。その気迫に相手は押されてしまい防戦一方である。
「うわっ!?」
結果、苛烈な攻めを見せたバルバロトに模擬刀を弾き飛ばされた所で負ける。これには周囲の騎士達もバルバロトの気迫に息を呑んでいた。
「ふう……」
「いい仕上がりだな」
「ええ、今回は前回のようにはいきませんよ」
「はっはっは。頼もしい事だ。まあ、今回はワイバーンが相手だ。数は多いが油断をしなければ負けるような相手ではないだろう」
盛大なフラグを建てる隊長であった。騎士団壊滅の日は近いかもしれない。





