嘘は誰の為に 8
ボウガンが先に地面を蹴ると床が大きくひび割れていき、バラバラになっていく床の破片がまるで空中に浮かんでいくように見えた。
見えただけ。
決して浮かんでいるわけでもないが、しかしまるで電力や重力を操作しているように高く浮かんでいく破片。
ボウガンは全身を震わせて周囲に衝撃波のような波を作り出し、破片を壁目掛けて人とバス。
レクターはその破片を一つ一つ回避していき、ボウガンはそのステップを見るとますます嬉しそうな表情を浮かべる。
「おいおいおい!お前どこから俺が吸血鬼だって知ったんだ?」
「え?吸血鬼だったの!?」
「お前!ボケているのか、真剣に見抜いたのかどっちだ!?」
「………体の再生能力とか?昨日負った怪我に対してもう違和感なく戦えているし、俺でも痛み止めを打っているような状況なのに、治療する暇があったとは思えないから?」
レクターはボウガンに殴りかかっていく過程でそう答えるが、ボウガンはその攻撃を受け止めながらも高笑いを続けていた。
「ハッハッハッ!面白い坊やだ!いるんだよなぁ………武術に才能の全てを費やしたような才能の塊がなぁ!」
レクターは腰を落とし、ボウガンが喋っている最中に腰目掛けて右拳を深く叩き込む。
「ガイノス流武術!突貫【覇】」
純粋な右ストレートの攻撃ではあるが、魔導機によって力を増幅させ、体重を乗せた鋭い一撃はボウガンの上半身を吹き飛ばしながら、拳圧のような見えない力がボウガンの体を壁まで吹き飛ばし、壁を崩壊させる。
太陽光を全身に受けるボウガンの下半身、しかし本来なら吸血鬼は太陽光に当たると灰になってしまうはずだ。
ボウガンの体は灰になるどころか立ちどころに再生を始めていき、上半身がものの十秒で回復していった。
「やれやれ……服もきちんと再生してくれたらいいんだけどなぁ」
(服の上からでも分かっていたけど、脱ぐとまたすごい筋肉だな。アベルさんとかガーランドさんと比較にならないよねぇ。ボディビルダーのように見せる筋肉じゃなく、レスラーのような戦う筋肉の付け方)
正直レクターやソラは細身であり、アベルやガーランドはゴッツイ筋肉の付けた方であるが、ボウガンの場合は後者に当たる筋肉の付け方。
最もその筋肉の度合いレベルはアベルやガーランドの比較にならない。
まさしく化け物。
(むう……羨ましいなぁ。ソラも最近は随分筋肉が付いて来ているし、アベルさんの息子だしその内アベルさんみたいになっていくんだろうなぁ)
「あぁ?お前なんでそんな落ち込んでんだぁ?」
「吸血鬼って太陽光で灰になるんじゃなかったけ?」
「吸血鬼は大きく分けて『眷属用』と『戦闘用』があるんだよぉ………俺はぁ!」
ボウガンが目の前から姿を消して風がレクターまでたどり着き、レクターは全身の神経が逆立って感じて直ぐに体が横に大きく移動する。
レクターの真後ろの壁が崩壊して天井までが壊れていく、ボウガンは一瞬で端から端までの距離を移動していた。
「俺は戦闘用の吸血鬼。戦闘用の吸血鬼は眷属を増やすことを苦手にしている代わりに………弱点が無い」
(太陽光の元でも歩いている理由?それって………)
「反則じゃん!再生能力もあって!その上弱点が無いって!!」
「そうでもないさ。吸血鬼にとっての再生能力は『人を食った数』がイコールで『再生能力』なるからな」
「という事は………?」
「そういう事さ……俺は人を食ったことがある」
レクターはボウガンに「何人?」と尋ねるとボウガンは「百人以上」と悪そうな表情を浮かべ、レクターは自分が食べられる様子をありありと想像してしまう。
「お前が負けたら食べてやるよ!だから………気合入れて戦えよ!!」
ボウガンはまた消えるような速度で接近していき、レクターは突っ込んでくるボウガンの顔面に右拳をカウンターで決める。
顔面がへしゃげる音が聞こえてくるが、ボウガンはそんな攻撃に構わずレクターの腹にケリをお見舞いする。
レクターの体は大きく後方に吹っ飛んでいき、ボウガンはそれを跳躍で追いかけていき先ほど見せた地面を破壊するような一撃を見せる。
しかし、レクターは攻撃を避けると同時にそのままボウガンの背中に打撃を叩き込む。
ボウガンが相も変わらずよけようとしない体勢に疑問を抱いたレクター、その疑問の最大の点はボウガンの目線。
まるで観察するような目、攻撃を避ける度に観察されているような気がしてならない。
「そうかぁ………ガキ、お前……反射神経だけで避けているなぁ。受け身を取る時でさえお前は反射的にダメージを逸らしているんだな」
天性の才能というべき部分であり、レクターは回避から受け身を取る時でさえ反射的に行動してしまっており、それはほとんど無意識の部分の話である。
「本来回避も攻撃も人間は思考してから動き出す。だからどうやってその思考経緯上どうしてもロスが存在する。お前はその経緯の過程である『考える』を放棄しているんだな」
(いるんだよなぁ……こういう奴。馬鹿なんだろうとは思っていたが……こういうタイプの馬鹿は正直行くところまで行けばやばい奴だからなぁ……でも、俺の目的の人物じゃないしなぁ)
ボウガンは青空を仰ぐ、先ほどの戦闘でドームが破壊されすっかり青空が見えている。
太陽が眩しさで目がくらみそうになっており、しかし青空には鏡が通り過ぎ気配が見えてこない。
「妙だな………遺跡まで大した距離があるわけじゃないだろう?」
ボウガンとしてはあくまでもレクターと戦っている時間は鏡が壊されるまで暇つぶしである。
「まあいいや………殺されるなよ」
ボウガンは先ほどまで単調の動きをすっかり止め攻撃にフェイントを混ぜ込んだ戦い方に変更する。
目の前に拳を叩き込むふりをしてレクターの腰目掛けてケリを叩き込んだ。
レクターからすれば攻撃にフェイントを混ぜられただけでまともに攻撃を受けてしまう。
「ほれほれほれ!早く避けないと腰から上が吹っ飛んでしまうぞ!」
レクターはフェイントに翻弄されそうになり、同時に攻撃に集中できずにいた。
レクターはポーチから隠しておいた大きなディスクをナックルの中に差し込み、ナックル全体がオレンジ色の輝きを秘めていく。
レクターはそのまま攻撃を受けるつもりでフェイントが来るのか、来ないのかをジッと見ておりダメージを受ける事を前提に緊張を高まらせる。
ボウガンはレクターの違和感に気が付いていたが、大丈夫だろうという油断でそのまま右側から拳を叩き込む。
口の中から血が込み上げてきた。
(骨にひびが入った!でも!)
捕まえたという感覚でそのままボウガンの体目掛けて右拳を叩き込み、オレンジ色のマークがボウガンの上半身の肌に張り付いているのが見えた。
「起爆!」
爆発で上半身の右わき腹が吹っ飛び、大量の血が流れ出ていく感覚でボウガンの身動きが鈍く落ちていく。
このタイミングを見失うレクターでは無い。
「ガイノス流武術!連剛【爆撃】!」
左右の拳を連続でボウガンの上半身目掛けて何度も拳を叩き込んでいき、叩き込んでいくうちに爆発のマークが体中に刻みつけられていく。
「魔導構築術式は有機物には付着しないはずじゃ?」
「付着させる技術が無いわけじゃないよ。直接貼り付ければ爆発させることが出来るよ……その代りこのナックルも一緒に爆発するけど」
(この男………自分の拳を犠牲にするつもりで。はぁ!美味しいガキだ!)
ボウガンの上半身が吹っ飛んでいく中、ボウガンの視線に鏡の破片が通り過ぎていくのが見えた。
レクターの両拳から血が流れている姿を見てボウガンは心から思った。
(ガキ………お前の勝ちだぜ)




