表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
85/1088

嘘は誰の為に 4

 ヴァルーチャがジュリの前に降りるほんの少し前、ジュリが落としたお菓子をマジマジと見つめたヴァルーチャの鼻孔に甘い香りが漂ってきた。

 ヴァルーチャは海に住む為、基本的に海溝の奥でも活動できるように海の中ですら匂いをかぎ分けることができる。

 その恐ろしい嗅覚はヴァルーチャの鼻に感じたことの無い匂いに多大な興味がわいてしまい、争いに対して介入しないという条件を破りそうになりながら飛びついてしまった。

 匂いのする小袋に飛びつき、ジーと見つめるヴァルーチャにどうすればいいのかがよく分からないジュリは困惑するだけ。


 リボンを口で解き袋の口の部分に口を突っ込んで甘いにおいの正体を一つだけ掴んで取り出す。

 そのまま口の中に放り込み砕きながら味を確かめる。

 甘みが口いっぱいに広がりながらも甘すぎず、サクサクとした触感と一緒にチョコチップが口の中に入り込む。


 ヴァルーチャがジュリの方に振り返り、ジーっと見つめるのだがジュリは小声で「どうぞ」と一緒にジェスチャーをするとヴァルーチャは必死になってクッキーを食べ始める。

 ものの一分で間食したヴァルーチャは改めてジュリの方へと振り返った。


「美味しかったです。人間は美味しい食べ物を食べるのですね」

「人間の食べ物を知らなかったんですか?」

「ええ、私は人間を信頼しませんから、それに私が人間とかかわっていたのも千年前の話です」


 口回りに付いたクッキーの破片を舌で舐めまわし、息を漏らしながら一旦落ち着く。


「どうして……?」

「……初代団長は人間と竜の調和までを考えてはいませんでした。彼は世界をどうにかすることだけを考えていた。私達竜は密かに期待していた。人間と竜の間の関係を改善する力になるのではと」


 しかし、初代団長は其処まで力を発揮することは出来なかった。

 その結果が初代団長の行方不明だった。


「私達は落胆しました。それ以降私達海竜一族は人間に対し期待をしないと決めたのです。あの少年がどれだけの存在なのか分かりませんが、私は直ぐに信じる事は出来ません」

「ソラ君は期待に応えてくれます。逃げるような人じゃない。それだけは私がはっきり言えることです。ソラ君が周囲の人間の期待に逃げるような人なら世界はとっくに滅んでいました」


 ジュリのまっすぐな瞳をヴァルーチャは見つめて返す。


(揺るぎ無い信頼。あの少年を信頼しているという事ですか………フム。この少女が死ねばあの少年も落胆する上、下手をすると他の竜から殺されそうですね。最初はそれでもいいとも思いましたが………もう一度人間を信じる…ですか)


 ヴァルーチャは考えて込んでいたが、その考え込む仕草をジュリはどうとらえたかと言えば。


「もしかしてお腹空いたんですか?」

「へ?」

「この戦いが終わった後ならいくらでも作りますよ。ケーキでも」

「ケ、ケーキ!?」

「チョコレート系でも、キャラメル系でも………そうだ!フルーツケーキを造ろっか?ソラ君もそれぐらいなら食べられると思うし……」


 聞いたことの無い言葉。

 海で暮らしていたら間違いなく聞くことの無い言葉の連鎖、頭の中はそれらの食べ物を連想することで忙しい。


(キャ、キャラメル系とは……?フルーツケーキとは何でしょうか?さっきより美味しい食べ物という事ですか?なるほど。エアロードやシャドウバイヤやヒーリングベルが人間と一緒にいる理由が少しだけ分かった気がします)


 竜が調理という過程をおこなわない。

 彼らは食べ物をあくまでエネルギーに変えるための手段としか思っていない為基本的にこだわらない。

 しかし、エアロードは初めて食べた人間の食べ物の衝撃を忘れていない。

 コソコソとソラの後をつけて回っていた三年間、ずっとそうやって過ごしてきたし、シャドウバイヤも手に入れた人間の食べ物に感動した。


 食事とは楽しい物だという認識はまるでバズーカ砲で叩きのめされるような衝撃で、竜に食事をする楽しさを知った者はそこそこいる。


「あなたに協力する気になりました。ただし条件が有ります」

「何でしょうか?」

「あなたの家で住まわせてください」

「へ?ええ!?」


 ジュリに過去一番尾衝撃を与えていた。



 メメは兄について行かなかった事をひそかに後悔していた。

 たった一人、親のいないメメにとって兄だけが自分を繋げる存在だったはず。


 幼かった頃、メメは同期最強と言われる兄に憧れていた。

 その頃は親との中も悪くなく、家族もいたって平和だった。


 いったい何がきっかけで兄が変わってしまったのか、兄は何を知ったのかもしかしたら『外』に出ていけば分かるかもしれない。

 だから海都オーフェンスの作戦にも協力した。

 海洋同盟に負けても劣らない人の多さ、しかしメメには何も響くことは無かった。

 兄が何を知り、何に心奪われたのかをまるで理解出来なかった。


 教えて欲しかった。


(兄さん。あなたはどこで何を知り………何を見たんですか?どうして……私に何も言ってくれなかったんですか?」


 家を出ていった兄の背、それはメメには大きすぎて届かないほどだった。

 怖かった。

 その背中を追いかけていけば、そのまま一緒に歩いて行けば自分だけ置いて行かれそうになった。


「何を見て。何を信じたのか………」


 怖いから蓋をして、見ないふりをして一心不乱に歩き続けたこの数年。


「お兄さんが信じたのは………家族じゃないんですか?」


 ジュリは立ちふさがった。



 ジュリは家の中にあった一枚の写真を手にした時、その写真に写されていたお兄さんの姿はどこか逞しいものに見えた。


「この写真が気になりますか?」

「………笑っているなっと思って。でも……」


 この写真に写されているメメは笑っているが、ジュリは戦いの中で見てきた彼女は感情を見せようともしない。

 その代りするのは苦痛の表情だけ。


 だから知りたかった。

 もしかしたらそこから始めるべきじゃないのかと、ヴァルーチャに手伝ってもらったのはこの写真の過去に向かう事だった。


「私の力は物の記憶の中へと連れていく事です。一瞬で沢山の情報がやってきます」


 その上で覗き込んだ情報の中には兄に憧れるメメ、装束宗に尽くそうとする両親、家族を想う兄。


 そして、メメが何を関下ているのかを知ることが勝利の条件だと想った。


「あなたのお兄さんが欲しかったのは家族の安全だったんじゃないですか?」

「あなたに何が分かると?」

「分かりました。この写真の記憶のお兄さんからはあなたを想う気持ちが生まれていました」


 ジュリに向かって怒りの感情を向けるメメはクナイを力一杯投げつけ、ジュリはそれを急いで回避した。

 転びそうになるジュリにメメは容赦なく蹴りをお見舞いする。


 ジュリは痛みに耐えながら転がり込む。


「あなたに何が分かる!?」

「あ、あなたのお兄さんは………この国の真実に触れた。だから………あなたを守ろうとしたんじゃないんですか?」

「……!? まだ言う。兄は何も言ってくれなかった。私に何も告げてくれなかった!!出ていく時も!ならどうして!?」


 ジュリは立ち上がりながらあえて魔導機を向けずに放り投げる。


「どういうつもりですか?武器を捨て………」

「私は戦いません。私が伝えるべきことは伝えました。私は嘘を付いたりしません。ヴァルーチャに手伝ってもらって知ったことです。嘘じゃないです!!嘘なんてつきません!あなたが知るべきなのは周囲が教える嘘ではなく兄が見せてくれた真実なのではありませんか!?」


 メメはクナイを握りしめ突き刺そうとするが、その間に水の壁が姿を現すと同時にヴァルーチャが立ちふさがる。


「あなたは真実から逃げようとしている。あなたには真実を追いかけることができたはず。しかし、両親や周囲が与える『簡単な嘘』に身を浸らせることで逃げたんじゃありませんか?ジュリが見せる真実から逃げる事であなたは楽をしようとしている」


 メメは錯乱し混乱していくのだが、ジュリはメメに写真を握らせる。


「この写真に写っているあなたの姿。嬉しそうに笑っています。これがあなたの欲しかったモノなんじゃありませんか?」


 写真に写る自らの姿、そこに嘘は無かった。

 真実の前に膝を打ち、涙を流すメメとそれを見下ろすジュリの頭上を鏡の破片が通り過ぎる中第五島の争いは静かな収束を見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ