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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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嘘は誰の為に 1

 イリーナと奈美は第六島の階段を駆け上っていき、本流の人達と一緒に寺院への道を進んで行くのだが、森林地帯へと足を延ばす。

 各寺院は山に囲まれる場所に存在しており、島によっては入り組んだ地形になっていることも多い。

 イリーナと奈美が寺院の真ん前までたどり着いたところで、ヒーリングベルとイリーナが足を止めた。


「そこに隠れている方。出てきた方が身のためですよ……」


 ヒーリングベルの厳しい声に怯んだのか、二人が自分に近づいて来ないのを嫌がったのか、ジャンは意外と大人しく姿を現した。

 ジェスチャーで自分は丸腰ですよと見せつける。


「私を騙せると思わない方が良いですよ。あなたがそこの木の陰に鞄を二つ、ポケットの中からいくつかの金属がぶつかり合う音が聞えますよ」

「あらあら………そっちのお嬢さんよりよっぽど耳が良いんだね。さすがは竜だ」

「私をその辺の竜と同じと思わないことです。それより……あなたがジャンですね。ここで待ち構えていたという事は、二人と戦う事を命じられていたという事ですか?」

「まあ、そんな感じかな?まあ、僕としてはどっちでもいいだけどね。でも、命じられた以上はここを死守しなくちゃね」


 それは嘘である。

 それはイリーナとヒーリングベルにはどうしても分かってしまう。

 鼓動の音やリズムで相手の嘘と真実が見抜けてしまう。


「あなたの目的は何ですか?」

「君だよ……ヒーリングベルさん。あなたに聞きたいことがあったんでね」


 ヒーリングベルは少しだけ考え込んだ。

 ジャンはここにヒーリングベルがやってくることが分かっていたようで、いったいどこから情報が漏れていたのかをヒーリングベルは気にしていた。


(ソラの言っていた通りですね。どうやら『あの竜』がいるという事は念頭に置いておいた方が良いですね)


 ヒーリングベルは自分の力がある程度相手にバレていると把握したうえ、警戒心を最大まで高まらせる。

 ジャンはポケットの中に手を伸ばし、奈美はそれにほんの少しだけ遅れた状態で魔導機を操作し始める。

 イリーナと奈美の前にヒーリングベルが盾になるように立ちふさがるが、ジャンが地面に落とした缶が閃光と衝撃を与える。

 ジャンは耳に付けていた耳栓機能付きのイヤホンとサングラスでやり過ごし、三人の視界と耳がふさがっている間にその場から逃げ出していく。


 先に視界と聴力を回復させたのは奈美だった。

 しかし、無暗には追わないというのはソラやアベルから教わったこと、相手が逃げた理由には二種類あるといわれていた。


「いいか奈美。敵が逃げるには二種類の理由があるんだ。一つは勝ち目がないから。二つ目が勝ち目があるからだ。よく状況を見て追う事を検討するんだ。相手に勝ち目がある段階で追えば今回のような事態になる」


 奈美はきちんと見ていた。

 ジャンが気に隠していた鞄をきっちり持ち出していたことを、前回と同じでわざと追わせようとしている。


 鞄の中身には恐らく敵対策の兵器をいくつか持ってきているはずだと予測し、奈美は事前に立てておいた作戦通りに動くした。

 この閃光手榴弾で視界と聴力を一時的に封じにかかるのも三人で予想したパターン。


(まずは敵の動き方を見る)


 奈美は魔導機に入力しておいた番号を打ち込み、青空を飛んでいる一匹の鳥の視界をジャックする。

 奈美の視界の中に鳥の視界が重なり、上からジャンの足取りを掴んだ。


「奈美ちゃん大丈夫?」

「うん。ジャンはここから東の方に走ってる。寺院の方角と考えると少し離れているといってもいいよ」

「ですか……では二人共ここからは予定通りに動きましょうか。私が単身彼を追います。奈美はここで私達に指示を。イリーナはジャンの行動進路先に………」


 ヒーリングベルが落ち着いた声色で二人に指示を出し、二人はそれに黙って頷く。

 ヒーリングベルは走って去っていったジャンを追いかけ、イリーナは一旦寺院方向に向かって走り去って行く。


 ジャンは少しだけ後ろを振り返るが、予定していた二人が無暗に追うのではなんて展開を期待していたジャンからすれば正直拍子抜けな状態だった。


「なんだ。追ってくると予想していたけど………」


 今回は森林地帯というだけあってここに物を隠す事は出来ないと踏み、事前に大型機械を隠せば自分の居場所をさらす事になると諦めた。

 一旦引き返すか、それとも寺院まで切り替えるかをふと思考してみるが、後ろから迫りくる衝撃波がジャンの体を襲い掛かった。


 追ってきたという感情のまま、鞄の中からピンク色の缶を後方目掛けて投げつける。

 スモッグがモクモクと立ち上がり、質量のある壁に変わり果てるのだが、その壁は後ろから迫ってくる衝撃波第二波を受け止めた。


 続いていて緑色の缶をスモッグの壁を超えるように山なりに投げる。

 壁の後ろの方から緑色の缶、ジャンが海洋同盟で開発した特殊仕様でありその効果は緑色の煙を吸い込むと体全身が痺れるという効果。

 この海洋同盟の山の中には痺れる粒子を放つキノコがある。

 その粒子を煙という形で使用可能レベルまで高まらせた。


「なるほど……痺れる煙ですか?最も私には通用しませんよ」


 ジャンは舌打ちしながら今度は北の方へと逃げていく。

 ヒーリングベルが追いかけているという事、それは街の方へと逃げるには不利であると証明している。

 この第六島は四つの山とその真ん中に大きな山が存在している。

 ジャンが逃げているのは南の山と真ん中の山の間に谷。


「ここから南に逃げようとすれば山を越えなくちゃいけないし、西も同じ。東は竜がいるから論外。このまま北の谷を道なりに進むしか」


 そういう想いで追いかけるのだが、ヒーリングベルはわざと距離を詰めない様な移動方法を選んでいた。

 ヒーリングベルにはヒーリングベルなりのやり方がある。

 ジャンは距離が縮まらないことに違和感を感じた。


「おかしい。竜が相手なら距離を縮められるはずだ。もしかして……竜の役目は囮?という事は今頃二人は寺院の方に?ここで多少痛みを受けてでもヒーリングベルを捕らえた方が良いかも」


 覚悟を決めるのは非常に速かった。

 足を止め、素早く身を翻すとヒーリングベルの方へと走っていく。


 ヒーリングベルはジャンが引き返すのはパターンの1つとして把握はしていたからこそ、ヒーリングベルはジャンの目をきちんと見つめた。


(覚悟ですか。私を何とか出来る策がある。それはパターンの1つ)


 ヒーリングベルが目だけを真上に向け、鳥を見つめると鳥はヒーリングベルの真上を二かい旋回した。

 わざと慌てたような素振りを見せ、少しだけ身を後ろへと下げる。

 ジャンはヒーリングベルの後方にピンク色の缶を投げて退路を断ち、赤い缶をヒーリングベルの周りに投げつける。


(視界を封じる事、そして…………この体中に走る奇妙な痛み。身動きを取れば痛みが走ると?)


 黙ってとどまっている限りでは痛みは発生しなかった。

 しかし、これではヒーリングベルの身動きをほんの一瞬しか留める事は出来ない。


 ジャンは鞄の中から『対ヒーリングベル対策用の透明な球体を取り出した。


「ジャン。これはヒーリングベルが姿を現したときに使用しなさい。ヒーリングベルは呪術に該当する竜。これは呪術が効かないという事だ。しかし、力業を苦手とするヒーリングベルはこういう拘束術を苦手にしている。これは対象の竜をこの中に強引に封印する」


 フォードからそう教わったジャンは、赤い煙の中で大人しくしているヒーリングベル目掛けて透明な球体を投げた。

 透明な球体は左右に開き、ヒーリングベルの体を強引に包んでいく。

 大きさを考えれば竜達の体のサイズでも無理、しかし、この球体には閉じ込める対象を強引に球体に変える力がある。


 実際ヒーリングベルの体が強引に変わっていく、両足と両手は真後ろに曲がっていき、羽はその両足と両手に包まれるように折りたたまれていき、首と尻尾も同じように羽を隠すように丸まっていく。

 最後に透明な球体がヒーリングベルの体を包んでいき、ガチンという音がするとヒーリングベルの体は地面に落ちていった。


「やったぞ………捕まえた!」


 ジャンはヒーリングベルの体を持ち上げる。


「力が使えないようだな」

「ええ、この拘束術は使用した段階で私の術式も封じ込められてしまいますから」

「フン。その減らず口がどこまで通用するかな?体を動かすこともできないだろう?」

「そうですね。指一本すら動かせません。となると………あなたは私を利用する方法も教えてもらっているという事ですね?」


 ジャンは笑いながら黒い缶をポケットから取り出し、缶の先端を透明な球体の柔らない部分に差し込む。

 黒い煙が球体の中に埋め尽くしていき次第に光沢を放ち始める。


 最後にジャンが球体を解除すると中から真っ黒な球体が姿を現し、拘束術式が解除されてすらなお体を動かさないヒーリングベル。


「ククク。君の力を奪う術はないけれど………君を無力化する術はあるんだよ。これで………君は脱落だ」


 ジャンはヒーリングベルの体を地面に落とすと、ドスンという音と地面に食い込んで大人しくしている黒い球体がそこにはあった。


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