前夜祭 4
太陽の英雄なんて名前を千年前の海洋同盟の母体に聞いてみても通用はしないらしい、そもそも千年以上前の話を俺は知りはしない。
だからここから語る回想は太陽の英雄の話を俺自身がかいつまんで語る勇者譚である。
そもそも太陽の英雄は当時『勇者』として語られており、その勇者こそが後に太陽の英雄という名前で語り継がれる『女性』である。
しかし、実際はたった一人で魔王に立ち向かった勇者だった。
そんな彼女は光竜であるシャインフレアと海竜であるヴァルーチャの力を借り、勇者はドラファルト島へと封印したらしい。
その封印自体がいくつ持つのか彼女自身よく分からなかった。
今回の封印は残念ながら人為的は開封だったが、彼女曰く当時聖竜から一緒に封印された『ある竜』だけはもしかしたら千年ほどで封印を抜け出してくるかもしれないとは言われたらしい。
やはりその竜が原因になっているのは確かだが、彼女自身が言うにはそもそも千年前の事件の原因は魔王自身にあるらしい。
以下回想。
そもそもこの十六の大島と無数の小島郡はそれぞれが小国と呼んでもいい国々で構成され、大小様々な争いが頻繁に起こっていた。
千年前と言えばガイノス帝国からすれば無数の国からほぼ同時に侵略を受けている真っ最中、その余波はこの諸島群にも噂として伝わっていた。
当時の国王たちはガイノス帝国が負けるだろうと予測した。
その根拠として当時のガイノス帝国は今ほど規模も大きくなく、複数の国が同時に襲い掛かっていた頃という事もあり負ける可能性が高かった。
戦がガイノス側に傾いたのは機竜や土竜達の参戦によってある場所で争いがガイノス帝国側の勝利で終ったからだった。
『ベベルバルド街道攻防戦』
今でもベベルバルド街道と言えば皇光歴の世界史に登場するぐらい有名な戦、ガイノス帝国側は一万に対し敵の軍勢は十万という十倍の軍勢に対しガイノス帝国はものの見事に打ち破った。
ベベルバルドでは今でも戦の痕跡が痛々しく残っており、その規模がよく伝わるらしい。
実際の戦でも十日も掛かった戦だったらしいが、その影響力は諸島群の国々に恐怖を与えた。
十倍の軍勢に打ち勝つガイノス帝国が万全の供えで進行してきた場合彼らに勝ち目何て存在しなかった。
しかし、実際の真実はガイノス帝国は魔王を追っている最中で、その過程で各国とのイザコザが引き起こされていた。
その最中で始まった世界大戦。
ベベルバルド街道攻防戦を切っ掛けに『第一次世界大戦』はガイノス側の勝利で終っていった。
当時の国々のトップはガイノス帝国からの進行を恐れていた。
何故なら彼らの中に魔王を匿っている国が隠れていたからだ。
それぞれの国が疑心暗鬼のまま始まった会議、まとまりも見せないまま平行線をたどっていく中、当時『彼女』はガイノス帝国側から要請を受けた。
というのも『彼女』が協力してくれるなら、ガイノス側としては事を静観させたいということだった。
ガイノス帝国も第一次世界大戦を終結させたばかりでこれ以上の争いを望んではいなかった。
しかし、魔王討伐がなされないと矛を下ろせない。
騙されたと不満を述べる竜達が納得しないとし、『彼女』はこれを了承して魔王討伐と国の統一のための戦いが引き起こされた。
光竜から『太陽の鏡』を、海竜から『漣の槍』を与えられた『彼女』は勇者となり国々を救う人間へと変貌する。
ガイノス帝国が与えた期間は一か月。
それ以上は竜側が待てない。
彼女は黙って頷きながら後に『海洋同盟統一戦』が開始された。
最後の場所はドラファルト島の空中で行われ、多くの人が見つめる中勇者はドラファルト島の中に魔王と竜を封印した。
後に摘出した大量の『魔導エネルギー』と『呪術エネルギー』を十五の塔と第一島の塔を使用した大規模封印式で海洋同盟の遥か地下に封印したらしい。
漣の槍は魔王と竜の封印に、太陽の鏡はエネルギーの封印に使われ勇者譚は幕を下ろされた。
かに見えた。
統一を急いで行く中、勇者だった彼女を国民と一緒に立ち向かった英雄として奉る結果に終る。
それでも彼女がその立場を甘んじて受け取ったのは国が統一するには都合が良かったからだ。
それで結果的に国が纏るのならという想いで受け取った立場、しかしこの立場を利用し自分が上に立ちたいという野心、自分達の島がリーダーとしてトップに立ちたいという願いが結果から見ればこの国を動かした。
統一を記念した式典の前日、勇者は一人の男性が仕込んだ毒によって殺害されてしまった。
その後男性は「英雄は統一を拒む他の国によって殺された!この悲劇を忘れていはいけない!」と国民に尋ね、国を統一かさせる片手間で海洋同盟を閉鎖的な国に変えてしまった。
自らの過ちを表にしない為、何より自分の立場が落ち付事を恐れて。
野心と恐怖の行動は千年にもわたる海洋同盟の『呪い』になった。
回想終了。
ある人は言った。
「魔導は光だ。呪術は闇なんだ。でも、人は呪いを求める。何故ならそっちの方が楽だからだ。人間は無意識に簡単な方を求めようとする。それが一番の過ちであるとも知らないで……」
まさしく今回の事態がそういう例なのかもしれない。
一つの嘘が小さな闇となり、小さな闇は小さな呪いとなった。
その呪いは大きな嘘へと変貌していった。
「それがこの国の流れ………私がついた嘘が国民に呪いを、あの男に野心と恐怖を植え付けたのかもしれない」
「それでもあなたは?」
「守りたかった。この国と国民を。それで纏るのならそれでよかった。やっと纏る機会を得たと思った。国を守るためには私が嘘を吐くしかない。私が苦しむだけで済むのならそれでよかった」
「国は嘘を吐くんじゃない。真実を隠すんだ。本当を隠す。国は国民があってこそ国であり、国民は国があってこそ国民になるんだ。向こうの世界でも国を無くした難民をテレビで見たことがあるけど……辛いよ」
居場所を失い。故郷を失い。迷い歩く人達。
「貴方の嘘がその時の人達を救ったのは事実だと思う。でも、遠い目で見ればそれが今の争いの大元にもなっている」
真実を嘘で蓋をして、嘘がバレそうになると力で強引に支配するやり方が俺は正しいとは思いたくない。
力で支配すればそれは恐怖支配と同じだ。
「小さな意識の中で何も見えなかった。消えては現れてを繰り返していくばかりだった意識の中であなたの強い言葉が私を目覚めさせた。他国で在りながらこの国を案ずるあなたの言葉や心が私のバラバラだった心をもう一度目覚めさせた」
「俺は自分の心に正直に生きているだけさ。堆虎達から受け取った命のバトン、俺はそれを未来に託して行かないといけない。ガイノス帝国だって変わることができた。日本やアメリカだって……ならこの国だって変われるはずなんだ」
俺はそう信じる。
変わりたいという気持ちがあるのなら変われるはずだ。
ジェノバ博士たちだって変わりたいと願っていたはずだし、そういう人たちがいる事を俺は知っている。
「国を変えたいという気持ちが本物なら必ず変われるはずなんだ。どんなに遅くても、どんなに早くても必ず変われるはずだ。その為に犠牲になった人たちの為にもこの国を変える手伝い位はしたい。ううん。俺が出来るのは手伝い位だから」
本当に変えるのはこの国の人達のはずだ。
「国を本当に変えるのはこの国の人達だよ。俺が出来るのは変えるための手伝いだけだ」
太陽の勇者は黙って俺の中へと帰っていった。
きっと安心したのだろう。
この国を変えたいと願う人達がいる限りこの国は変われるはずだ。




