前夜祭 1
俺が薬品管理センターの正面玄関から出ていくと、目の前に多くの人だかりと消防隊などの人達が最後の火消をおこなっている最中。
左右を確認しながら皆がどうなったのかを確認していると、シャドウバイヤが俺の服をを掴んで引っ張る。
「何?服が伸びる」
「向こうにいるぞ。角を右に曲がった先」
シャドウバイヤが指さす先を目指して俺は突き進むと、角を曲がった先に父さんとマリア(何でいるのか全く知らないが)と一緒にいた。
「父さんはともかくマリアは何でいるんだ?確か魔導都市に仕事しに帰るから旅行にはついてこれないって言ってたろ?」
「機竜様から急いで『ある物』を持っていくようにと二時間ぐらい前か?それぐらいに言われての。急いで持ってきたんじゃよ。海都と違って魔導都市は比較的近いうえに、最新鋭の飛空艇じゃったからの」
父さんも首を傾げている辺り何も知らないのだろう。
ケビンさんはマリアを知らないし、マリアもケビンさんを知らないのだから両者がお茶がいに首を傾げるのは間違いではない。
「マリア、こちらはケビンさん。アメリカのエージェント。ケビンさん。こっちはマリアという名前で俺達魔導協会所属の人だ」
お互いに頭を下げながら挨拶をしている。
「説明していませんでしたけど。俺達ウルベクト家は魔導協会最高権力集団である『第一席』の序列第十位に任命されているんです」
「それなんじゃがの。お前さん『太陽の鏡』の力を手に入れておるじゃろう?それがお前さんの順位を上に格上げされるかもしれん」
「俺の知らない所で俺の位が上がろうとしている………というか、なんで俺が太陽の鏡を手に入れたと知っているんだ?
父さんが俺の近くで「どうせ使えないだろうに」なんて言ってくるので、俺は補充しておいた鏡の姿を現す。
周囲から「おお!」という声が響き渡る。
「ソラよ……お主もう使いこなしておるのか?」
「使えるようになったのはさっきだけどな。実戦で使ったのが大きかったよ。でも……シャドウバイヤは何も役に立たなかったけどな」
「だから言っただろ?私の力でも無いモノを使いこなせ問いうのがおかしい話だ」
俺とシャドウバイヤが至近距離で睨み合っていると、父さんの後ろから俺と奈美を警戒しているエアロードが姿を現した。
「で?シャドウバイヤよ。一体何なのだ?私を呼ぶなんて」
「お前だけじゃない。そろそろ他も来る頃だろう。呼んだメンバーは全員「来る」と言ってくれているからな」
一体何を呼んだのかと尋ねたくなるところを、「チリン」という鈴の音が聞こえてきた
「ヒーリングベル?どうしてここに?」
「シャドウバイヤから呼ばれたからです……同時に第一島が隔離されたのでヴァースがここに来ることは無いでしょう」
体表がピンク色のエアロード達と同じ大きさの竜である『ヒーリングベル』と、その隣に海都オーフェンスで別れていた『シャインフレア』が並んで現れた。
「それで呼んだのはここにいるメンバーだけですか?シャドウバイヤ」
「いいや。お前とヒーリングベル、エアロード以外にもう一人呼んである。どうやら姿を現したようだな」
水が浮いているという表現をこれ以上なく表している光景を目のあたりにし、俺は海竜かな?なんて考えた。
「久しぶりだな。海竜『ヴァルーチャ』相も変わらずひねくれた目つきをしているな」
「シャドウバイヤにだけは言われたくはない。それで?我々を呼び出した理由を聞いておこうか?」
ヴァルーチャ。
海竜の名を持つウミヘビのような姿を持つ独特の竜、今は姿を小柄に抑えているが、実際の姿は蛇というには少々大きすぎるようだ。
俺はこれだけの竜が集まり、シャドウバイヤがここに集めた理由をなんとなくだが理解できた。
もとはといえばシャドウバイヤがきっかけで再建された『竜達の旅団』だ。
「私は『竜達の旅団』の二代目竜側の団長をすることにした。ちなみに人間側の団長が『ソラ・ウルベクト』だ。目的は人と竜の関係を変えていく事を当面の目標にしていきたい。それと争いやイザコザを解決もする。お前達にも参加して欲しい」
シャドウバイヤのお願いにマリアと父さんが驚く結果になったが、竜達の方はいたって冷静な立ち振る舞いをしている。
俺達が決めたこと。
エアロード以外は「別にいいが?」というぐらいの反応。
しかし、ヴァルーチャだけがその先に言葉を紡いだ。
「エアロードはどうだか知らないが………私達は人間を一方的に信用などできん。かつて人間側の団長を信用した結果が今までの流れだったはずだ。お前についていく事は別に構わん。しかし、人間を一方的に信じる事は出来ない」
ある意味辛辣な言葉。
人間に対する疑惑はいわゆる信頼が無いという意味でもある。
「お前について行くというだけだ」
「それで構わない。少しずつ人間と竜の関係を改ざんして行きたい」
シャドウバイヤとヴァルーチャの睨み合いに似た時間が終わりを迎える。
「それで?マリアはなんでここに来たんだ?」
「前にお前さんには言ったじゃろ?ウルベクト家専属の飛空艇を開発しておると……完成したからお前さんの『竜の欠片』との同調作業をしておきたいと思ってな」
「専属飛空艇?ああ、そういえばそんな話をしていたな?でもあれってほんの一か月ぐらい前の話だろ?完成が速すぎないか?」
「飛空艇自体は技術国で開発されておった最新鋭を購入したんじゃよ。問題はお前さんの『竜の欠片』と同調させるシステムそのものじゃからな。それぐらいなら一か月もかからんよ」
なるほど………で?何故エアロードは黙り込んでいるのだろう。
「何でエアロードは黙り込んでいるんだ?シャドウバイヤの話を聞いての結論すら言わないのは何で?」
俺からの問いにエアロードは両ホッペを膨らませる。
「シャドウバイヤが竜を集めていた理由も分かる。私達を勧誘した理由もわかった。お前達がやりたいことに頷くだけだ。だが………シャドウバイヤがリーダーなんだ?私ではだめなのか?」
まるで真剣に問いかけるような仕草を見せるのだが、こればかりは呼ばれた竜も、マリアや父さんですら全く同じ意見だ。
全員で、同音異義語で、全くの細部の違いなく答えた。
「「「だって馬鹿だし………」」」
「なっ!? そんな理由?」
「重要な理由だろ?団長なんだから、ある程度は賢くないといけないだろ?」
俺のしごく真っ当な言い分に対しエアロードが憤慨したように文句を呟き続けてくる。
それはまるで魔法の呪文や呪われているかのような呟き。
エアロードの不満を右から左にスルーして、俺は改めて飛空艇を見ておきたいと思ったのだが、そう思った時だった。
もしかしたら使えるかも、なんて考えた。
「マリア。その飛空艇は直ぐにでも使えるのか?今直ぐ戦場を飛び回ることが出来るのか?」
「無論じゃ。その為にはお前さんに来ても会わなくてはならんが?」
「明日の明朝に飛んでもらう事が出来るか?明日………この海洋同盟で大きな問題が起きる。そのためには多くの人の力が必要だ。ジュリ、本流に連絡を取ってくれないか?飛空艇で落ち合う事にしたい。マリアは飛空艇の同調も行うから連絡が取れる全ての人を飛空艇まで集めてくれ」
「よ、良いが………いったい何が起きるのじゃ!? お前は何を知っておる?」
「………明日この海洋同盟全域である意味戦争のような状況に陥ると思う。大統領や他の要人を守るためにも多くの人の力がいる」
戦力を集める。
まずは其処からだ。




