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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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薬品管理センター攻防戦 10

 桟橋の中に隠れているというイリーナと奈美の予測は正しい。

 ジャンは見慣れない力に頼る事に一定の躊躇いがあったし、今はまだやるべきことがある。

 ジャンに与えられている本来の仕事をまだ彼は果たしていない。


「さて………各島のエネルギーネットワークを構築する為にはっと」


 ポケットの中から小さなノートパソコンを取り出し、倉庫の中のコンクリートの床に鉄の棒を当てる。


「さてさて……どう反応するかな?ここ以外はもう終わっているし、ここが出来れば僕も撤退出来るんだけど。各島のエネルギーのネットワークを構築する為に一定の波長に合わせてくれなんて我儘だよねぇ。もう大丈夫だと思うんだけど」


 ジャンが命令されていた仕事、明日に控えている作戦の最終準備をこの島で行う事だった。

 本来であれば別にどこでもいいのだが、ジャンはエーファ草を採取しておきたいという理由からこの場所を選んでいた。


 目の前に置かれているパソコンにはこの島に存在している未確認のエネルギーの『方向』を一定に整える作業に入っている。


「太陽の鏡を利用した第一島を隔離する計画。まさか鏡の本体が奪われていたとはね。フォードもうまい計画を考え付いたものだよなぁ」


 この島の鏡は各島の中核に存在している大きなエネルギーを集めており、本来はそのエネルギーをソラが取り込んでしまった鏡が封じているのだが、ソラがそれを取り込んでしまったので、今エネルギーは実質コントロールが聞いていない状態になっている。

 各寺院に置かれている鏡を利用してエネルギーを一か所に集め、そのエネルギーで第一島を封印する。


 所謂隔離。


 元々海都オーフェンスでの計画もギルに太陽の手鏡を入手させ、それを破壊させることで計画を円滑に進ませることだった。

 それが思いもしない所で発揮されたと発覚したのは戦艦での一件、鎧が自動で争いに出ていた時である。


 その後その事をフォードに説明すると彼は自分達の計画が円滑に進んでいると判断した。


「封印している鏡本体が失われており、既にコントロールを失っているかを各島で確認し、それが取れ次第第一島に集中させろなんてね」


 終了時刻までもう一時間がかかると記載されており、その間をここで隠れなくてはいけなかったのだが。

 倉庫の中には船が二隻、その内の一隻の後ろに隠れており物音に耳をたてていると、倉庫の中に靴音が響き渡る。


「もしかして?入ってきた?関与過ぎるでしょ」


 船の物陰から顔だけを覗き込み、出入り口に立つ塞がる二人の女性。


「間違いないの?ここにあの人がいるって?」

「うん。ここで物音がしたの。間違いないとおもう。さっきから呼吸音がこの船の裏から聞こえてくる」


(そういえば……あっちの金髪のお嬢さんは聞き耳が良いと聞いていたなぁ。油断していたな。これだけ離れていたら聞こえないと思っていたんだけど)


 イリーナの方をまっすぐ見つめる先には間違いなくジャンがおり、ジャンはどうやってこの場所を死守するのかを頭の中で思考する。

 イリーナと奈美が一緒になって近づいてくるが、ジャンはここから逃げるわけにもいかない。

 少なくとも操作が完全に終わるまではここを死守するしかない。


「出てきてください!その物陰に隠れているのは分かっています」


(しまったな。耳にイヤホンをしていたから物音にあまり注意が行かなかった。さて……勝って追い返すしかないよね。仕方ない。ここであれを使いたくなかったけど)


 ジャンはスマフォを操作しながら注意を間違いなくイリーナの方へと向ける。

 イリーナは険しい表情で、奈美は魔導機を装備した状態でゆっくりと近づいてくる。


 ジャンの右隣の壁から軋む音が聞こえてくると、イリーナと奈美はそっちの方へと視線を向ける。

 壁にヒビが入り始めるのを確認すると、イリーナは奈美の右腕を引き連れながら急いで倉庫から出ていった。


 倉庫の中に鎮座していた二隻の船が倉庫の壁とドアをぶっ壊して姿を現したのはまるでサソリに見える鋼鉄の塊が『ガシャン』という音を鳴らして現れる。

 イリーナと奈美の弱点。

 ソラ達のような大きな機械や特殊な戦い方をする人間に太刀打ちできるような力が存在せず、そういう相手にはどうしても勝てない。


「イリーナはあの人の場所が分かるんだよね?」

「え?う、うん。でも……」

「あの機械は私が引き付けるから!イリーナはあの人を追って!」

「で、出来ないよ!奈美ちゃんを置いていくなんて!」

「いいから!私なら大丈夫!足の速さには自信があるの!ね」


 奈美は機械に向けて風の弾丸を一発当てた状態でイリーナから離れていく。

 機械は奈美を標的に入れたのか、桟橋奥の方へと姿を消し、イリーナは後ろから追いかけたい気持ちが胸の奥から沸き上がってくる。


「駄目……奈美ちゃんを助けるためにもあの人を追わないと」


 イリーナは音のした倉庫の方へと戻っていく、半壊した倉庫の中には起動しているパソコンが一台だけ置かれているだけ。

 パソコンの方には見向きもしないで、音に耳を傾けると機械が姿を現した方向から靴音が聞えてきた。


 音のする方向へと走り出し瓦礫を踏み越え、服が汚れることも気にしないで走り出す。

 長い廊下の先を走って逃げようとするジャンに向けて衝撃波を生み出し、ジャンはその衝撃波を前にして体を転がしながら回避し、桟橋の方へと逃げていく。

 桟橋に姿を現すとイリーナの目の前に機械が捕まえた奈美を見つけ出した。


「奈美ちゃん!」

「さて……どうするんだい?彼女……可哀そうだなぁ」

「放しなさい!」


 ジャンは悪そうに口元を上へと持ち上げるのだが、そんな瞬間に倉庫の方からサイレンのような音が響き渡る。


「ああ、終わっちゃたなぁ。でも……僕に衝撃波を浴びせてきたお礼をしていないよねぇ?」


 ジャンはイリーナをどうやって傷つけるか、頭の中ではイリーナを虐めまわす姿を想像している。


「どうする?この子の方を先に虐めまわそうかな?」

「なら先にお前さんを殺す事になるな」

「へぇ?」


 ジャンが後ろを振り返るとジャンが操作していた機械が半壊にされており、奈美をお姫様抱っこした状態で落ち着いているアベル。

 同時にイリーナの前に立っている幼い体をしている一人の女性。


「マリアさん?それにアベルさんまで」

「フム。イリーナよ。お主少々危なっかしい場面じゃったな。儂らが来ておらんかったらどうしておったのじゃ?」


 マリアと呼ばれた背丈の低い幼い少女、彼女こそが士官学校で教職員であり、魔導士としてのソラの補佐役を命じられている女性だった。


「なんで幼女がいるんだ?」

「幼女というんじゃない!儂はこれでも二十代じゃ!」

「なんだと!? この容姿でか?驚いた。君の体を調べさせてほしい」


 マリアはムスっとした表情をし、アベルは明らかに怒りを表情をジャンに向ける。


「それで?お前はここで何をしていたんだ?」

「………僕はフォードからこの島のエネルギーを第一島に向けろと言われただけだよ。もう仕事を終えたからどうでもいいけどね」

「そのエネルギーを手に入れてどうするつもりだ?」

「さぁね………第一島で行う明日の作戦に軍が介入されても困るからとね。僕は細かい詳細は知らないんだよぉ」


 ジャンはヘラヘラとした態度をとっており、その姿はアベルに怒りのボルテージを上昇させる。


「フム?アベルよ!早くその音を捕まえるのじゃ!」


 アベルが大剣を片手で構えながら振り下ろすが、アベルでも大剣を片手で振るう事は難しかったのだろう。

 振り下ろすまでに時間がかかってしまう。

 実際、振り下ろす間にジャンは海の中へと飛び込んでいく。


「フム。逃げられたようじゃな。しかし、気になる事を言っておったな。第一島を隔離するつもりじゃな」

「ガーランドに託しておいて良かった」


 アベル達は視界の先に第一島のある方向を見つめる。


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