薬品管理センター攻防戦 8
メメは体に走る痛みや気を失いそうになている自分の意識に鞭を打ち、肺から空気を吐き出して新しい空気を肺一杯に入れる。
ジュリはゆっくりと立ち上がり警戒心を高めたまま見つめる。
「なるほど……壁で周囲を囲っていたのは私の進入方法を制限する為でしたか」
「ええ、壁で囲っている場所に侵入するためにはあなたはこの壁を破壊するしかありませんから。そうなった場合あなたに幻覚を掛ける事自体は難しくありませんでした。そうなってからあなたにバレないように罠を張ってそこにあなたを導くだけでした」
「そう……あなたの賢さの危険度を少々侮っていました」
メメは足元がふらつく状態でそれでもメメはまだ体を動かすことができた。
しかし、ここで突っ込んでいけばそれこそジュリの攻撃をまともに浴びる事は必死、この状況に救いを求めることが出来るならそれはまだメメにもジュリを倒す手段が残されているという点。
それをするには自分の命を代償として支払わなくてはいけないが、メメはこの後の作戦が控えている身。
少しずつ足を後ろに下げていき、同時に目の前にいるジュリの方をきっちり睨みつける。
問題があるとすれば迷宮化しているこの施設からどうやって脱出するかであったが、その方法がメメには無いわけではなかった。
メメはプラスチック爆弾を取り付けたクナイをジュリの真上目掛けて投げつける。
投げつけたクナイの意味を見出すのにジュリは十秒ほど掛かってしまったが、しかしそれが爆弾だと理解するとジュリは急いでその場から逃げ出す。
大きな爆発が一回、ジュリが居た場所の頭上を破壊し天井を崩すとジュリもその部屋から逃げるため走り出した。
瓦礫が天井から襲い掛かり、ジュリは崩れる部屋の一番奥にメメを見付けた。
「あなたを侮っていた私の負けです。でも次は負けません」
「何をするつもりなんですか?」
「私が知っていることは少ない。でも私達幹部クラスは明日の明朝第二~六島に寺院に集まるようにと命令されています」
「………どうしてそんな話を?」
「リーダーから最低限の事を話してしまっても構わないといわれています。恐らくですが妨害させるまでが作戦なのだと思いますよ。どうします?乗りますか?」
反政府組織のリーダーであるフォードが彼らにそう命令させている。
その言葉を素直に受け取るべきか、それとも疑ってかかるのかをジュリは正直考え込んでしまっていた。
「どうせリーダーからあの少年に宣戦布告をするはずです。その際に分かるはずですよ。我々がどれだけ本気なのかという事をね」
メメは爆弾付きクナイを更に天井めざして投げつけ、施設そのものの一部を崩壊させようとする。
「それでは………」
メメはジュリの視界から逃げていった。
イリーナと奈美は正面玄関から逃げ出していく人達を誘導していき、混乱を極める正面玄関には火災を止める為にやってきた消防隊の人達が賢明な消火活動をおこなっている。
しかし、鎮火の目途がまるで立たない状況が続き、多くの野次馬で施設前の道路は埋まっていた。
そんな中一人の白衣を着た男性がコソコソと施設の中へと戻っていく姿を奈美が見つけ後ろから追いかけていく。
まだ火の手が昇っていないガラス張りの施設、施設内は色々な植物で埋め尽くされており、正直視界が悪い。
奈美は中に入ったはずの男性を探す為に左右を見回す。
「奈美ちゃん?どうしたのココに?」
「それがね。ここに研究員の人が来たような気がして………ううん。絶対来た!私この目で見たもん!」
奈美は確かにこの目で確認した。
一人の男性がこの部屋の中へと入っていく姿を。
「だったら一緒に探そう。火災が酷い所は消防隊の人達が探してくれているはずだから」
二人で植物園のような場所へと足を踏み込み、白い足場を通っていきながら色々な植物を通り過ぎていく。
「ここって植物園?」
「たぶんだけど実験とかで使う薬品用の植物をここで育てているんじゃないかな?」
「じゃあこの辺の植物は全部薬品用?」
「たぶんだけど。での時期この辺も火災がやってくるはずだよ……急いで探そう」
奈美は「う、うん」と言いながら少しだけ気がかりなことがあった。
いくらここが火災現場から離れているといっても、もうほぼ全域にわたろうとしている火災がここにだけ被害を出していないのは少しおかしいのではないか?と。
「ねえ……おかしくない?ここの施設がいくら離れていてももうこれだけ火災が起きていたらここも火災になっていてもいいんじゃ」
「確かに……何か塞いでいるモノがあるんじゃないかな。でも、だからってウカウカしていられないよ。いくら防げるといってもいずれは……」
いずれはここも火災の被害を受ける事になるだろうと。
奈美とイリーナは多少急ぎながら施設の中を調べていき、柵で区切られている場所の奥まできっちり調べ、反対側の出入り口まで移動して行く。
「ううん。こっちは鍵が反対側から掛かってる。それにこの向こう側は火災現場になっているよ」
「だったらどこかで入れ違いになったのかな?」
奈美は正直不安な気持ちになってしまった。
もしかしたら自分が見た人間は幻で本当はこの場所には誰も足を踏み入れていないのかもしれないと。
「ねえ。奈美ちゃん。あそこ………外への出入り口じゃない?よく見ると外にも植物が生えているみたいだし………あっちも探してみない?」
「でも………私が見たのは幻かもしれないし」
「ううん。奈美ちゃんが見たのは人だと思う。私は信じてるよ」
イリーナの微笑みながら奈美の右手を優しく握りしめ、二人は施設の外へと足を踏み出していく。
海が前面に広がり、施設の周囲を見慣れない植物が引き締め合っている。
「やっぱりここに生えていた………へぇ…これがエーファ草か。ふうん」
奈美が声のした方向へと足を踏み出していくのだが、それをイリーナが止めた。
イリーナには聞いた記憶のある声、美術館でイリーナ達に話しかけてきた男性の声だったからだ。
イリーナは警戒心で一歩一歩相手にバレないように近づいていく。
施設外周を左の方へと回っていき、その先に複数咲き誇る花の前に座り込むボサボサの茶髪、三白眼で植物を睨みつけるような男性を見付けた。
「一目で良いから見ておきたかったんだよねぇ。まあ……ここで遊んでいたらそれこそ怒られそうだし……そろそろ?あれ?君達どうしてここに?」
三白眼で睨みつけるような男性に一歩近づく奈美。
「あなたがここに入っていくのが見えまして……ここも危険です」
「ああ、そうですか?すいませんねぇ」
男性が奈美に近づいていくのをイリーナが遮ろうと険しい面持ちで立ちふさがった。
「ジャン・バウワーですね?現在アメリカ合衆国が追いかけているという?」
「あれ?もうそこまでバレているんだ………ああ、君達が『竜達の旅団』かな?」
イリーナと奈美は驚きで目を大きく開き、ジャンは口元を上へと少しだけ持ち上げる。
「いいや。副リーダー情報をずっと集めていてね。君達がそれっぽい話をしていたと聞いたからさ。でも………へぇ、学生の集団だと聞いていたんだけど。副リーダーは「特に警戒していく事は無いんじゃないか?」とか言っていたけど。しかし、僕の事を知っているという事は結構侮れないんじゃない?」
「ここで何をしていたのか教えていただけますか?」
「う~ん。そうだね………それで僕を見逃してくれるっていうのなら話は別かな」
「あなたの話次第です」
ジャンは笑いながら口をゆっくりと開いていく。




