薬品管理センター攻防戦 2
「出来ないものは出来ないよ……私には出来なよ」
「出来ないわけじゃない。出来ないという思い込みが魔導機にあらわれている。言ったよな?魔導機はイメージの力をそのまま力にする。深層心理の奥で奈美は『出来っこない』という思い込みが存在しているんだ」
俺は車を運転しながら後ろで呆けている奈美に対して冷静に告げる。
奈美は涙を流しながら俺の方を見て涙を流し、魔導機を強く握りしめて呆けているが、俺はそんな奈美に俺は追い打ちをかける。
「深層心理というのはそういうものだ。お前自身が理解していないことでもお前の心はお前以上に理解しているんだ。それが魔導機にあらわれている。言っておくが………ここにいるお前以外の人間は戦う覚悟を持ってこの車に乗っている。お前はここ数時間……多分だけど皆がいるからここにいたんじゃないのか?」
奈美は何も言い返せずにおり、イリーナは止めるべきかとふと悩見始めるがケビンが前方からそれを止めた。
ケビンさんも分かっているんだ。覚悟無しでこの先の死地へと連れていく事は出来ない。
文字通りこの先は死地であり、戦場でもある。
生半可な覚悟で戦う事が出来ない。
「俺は三年前から命懸けの戦闘を繰り返しているし、ジュリだって俺やレクターほどではないにしても、士官学生としてある程度の戦場を経験している。ケビンさん何てエージェントで多くの経験を積んでいるだろう」
「そ………それはそうだけど」
「正直に言うけど、イリーナは覚悟だけならここの誰よりも早くしているはずだぞ」
東京決戦の際に世界を救うという行動をイリーナはして見せたのだ。
イリーナはこの戦いに相応しい覚悟を持って行動している。
なのに奈美だけがなんの覚悟もできずにこの場にいる。
「だったら奈美はここで降りるべきだ。竜達の旅団にも関わらない方が良いだろう。俺達はこのまま戦いに向かう。お前はどうするんだ?」
奈美は黙って後ろを向いて再び風の弾丸を創造しようとするが、手が震えて目を強く瞑っていてまるで生成できていない。
「む、無理だよ………怖いよぉ」
心が負けそうになっており、イリーナが大きな歌声で後方の車を攻撃しているが、どうやらイリーナの情報は既に彼らの手にあるらしい。
すっかり心が負けそうになっている。
ジュリが声を掛けようとする瞬間、俺は声を掛ける。
「ジュリ。ハンドルだけ握ってくれ。左に少しだけ傾けるだけでいい」
「え?う、うん」
「奈美。体を少し俺の方へと傾けろ」
この車は八人乗りで、前方は俺とジュリ、次に奈美とイリーナで最後尾にレクターとケビンさんとシャドウバイヤが据わっている。
奈美は言われた通りに体を俺の方へと傾ける。
俺は運転をジュリに任せて奈美の右腕に優しく触れる。
「出来ると思え。俺達の側にいたいんだろ?別に命懸けの戦いをしろとは言わない。お前を傷つける人間は俺が許さない。俺が命懸けで守ってやる。だから奈美も俺を………俺達を守ってくれ」
「お、お兄ちゃん?」
「守るだけでいいんだ。相手を殺す必要はない。相手の車を転倒させられればいいんだ。お前は術式を選んでそれを目的のポイントに打ち込むだけでいいんだ。それ以下の事もそれ以上の事も考えるな」
「で、でも………」
「出来るという俺の言葉を信じろ。お前自身は信じなくてもいい。でも、お前なら出来るという俺の言葉だけを無責任に信じればいいんだ。全ての責任は俺が取ってやる」
「どうして?どうしてお兄ちゃんはそんな風に戦えるの?」
「守りたいからだ………誰も失いたくない」
それだけでいい。
(私もそう思えるかな………?お兄ちゃん手全く震えが無い。温かい………これが覚悟なのかな?私もできるかな?あれ?私震えが無くなってる)
奈美の作る風の弾丸が先ほどより力強く圧縮していくのが見える。
もう大丈夫だろうし、このまま速度を緩めずに最後のカーブを曲がるカウントダウンをを心の中に呟く。
「カウント五で撃て。五…四…三…ニ…一…撃て!」
奈美が圧縮した風の弾丸は丁度後方の車両前方の車道に着弾、そのまま真上にやってきた車を破裂した空気によって反転していく。
俺は素早くハンドルを握りしめ、車を薬品管理センターの中へと突っ込んでいく。
ブレーキをかけて止まった車から素早く全員が降りる。
「よくやった。奈美とイリーナとジュリは避難誘導だ。レクターとケビンさんはさっきの車にいる二人の相手を………俺とシャドウバイヤはこのまま中へと突っ込む」
全員が黙って頷く中俺とシャドウバイヤは走って中へと入っていく。
炎で燃え盛り、薬品と火薬の匂いが混じり合う戦場へと。
レクターとケビンは薬品管理センター前道路に出ていくと、反転した車から二人の男性が姿を現した。
「はぁ……バウアーお前ちゃんと運転していたのか?」
「運転してたさ………お前がきちんと守らないからだ………」
レクターとケビンの視界内に立ち上がる二人はゆっくりと身体ごと二人の方へと向ける。
「最初の風の弾丸の威力で油断していたな」
「そりゃお前もだろ。バウアー。しかし、まさかこうして俺の目の前に怨敵が現れてくれるとはなぁ!!まさかなぁ!? ええそうだろ?」
レクターに向けて怨敵を見るかのように目で真直ぐ睨みつけるボウガン。
「バウアー!邪魔すんなよ!このガキは俺が殺すから。その代りそっちの女はお前にやるよ」
「はぁ………あれほど遺恨を捨てろって言われただろうに。勝手にしろ。巻き込まれるつもりも無い。という訳で悪いけどお嬢さん俺達は場所を映そうか。この男の戦いに巻き込まれたくないんでね」
ケビンは目だけを黙ってレクターの方へと向け、レクターはそんなケビンに対して黙って頷く。
ケビンとバウアーは黙ってその場から移動して行き、姿を消した後ボウガンは表情を更に邪悪なものに変えていく。
「いいぞ………お前を殺す手段をずっと考えていたんだ」
「ソラから聞いていた。お前が逃げ出したという事………」
「そうだ。お前を殺す為に色んな手を考え込んだんだ。この新装備を確かめさせてくれよ………」
右手には魔導シューターが、左手には日本の角が付いたようなデザインのナックルが装備されている。
二本の角が前方へと突き出され、同時に電撃を帯びているのが見えている。
レクターは腰に隠しておいた平べったいナイフのような剣を右側のナックルに、左側のナックルには小型で円状のシールドが装備する。
「何だ?何だぁ?今更騎士のつもりかぁ?」
「アンタを殺すために俺が何の準備もしていないと思う?アンタを殺すために準備してきた」
レクターの武器であるナックルは単純な武器勝負では殺傷能力が著しく低い。
ソラの剣やエリーの弓の方が殺傷能力が高い方だろう。
殴るという武器だけではこの先やっていけないという結論がレクターに新しい武器を持たせた。
右手を前に突き出す事で型を取り、ボウガンは魔導シューターを前に突き出しながら左手を下に垂らしている。
お互いに殺し合う準備を整える中、ボウガンは魔導シューターの弾丸を地面に叩きつけようとしていた。




