嘘つきの国 5
以下十年前の海洋同盟での回想。
第三島では古くから美術品を扱う一族が多く、特に鎖国時でも頻繁に外との取引が行われていた。
美術品だけではない。
様々な輸入輸出品の一部は最低限の国と取引を繰り返しており、国内の人々には黙って『禁止している』とだけ言われており、輸入も輸出もしていないといわれてきた。
そうやって国民を納得させながら国内の状態を維持する為に、同時に国外への興味関心を封じる為に鎖国を続けてきた。
そんな中第三島で暮らす美術商をしていた男性宅が何者かに襲撃されたという事件が発生し、その自宅が何者かに荒されてしまった。
荒され方や高額な美術品ばかりを狙われているという点もあり、警察は直ぐに強盗の容疑である人物に目星をつけた。
警察は早い段階で容疑者に目星をつけていた。
この第三島で美術品を扱う商人は多くいるが、実は数週間前から襲われた美術商から警察や軍に向けて護衛依頼が来ていたからだった。
しかし、警察は多忙を言い訳にして防衛は全く行わなかった。
国民の不満はすぐさまに警察へと向き、警察上層部は直ぐに容疑者の大学生五人組の捜索を命じた。
大学生の集団はあっという間に捕まり、五人は捕まった際に容疑を認め「借金に困っていた。遊ぶ金が欲しかった」「あの美術商に親が騙されて復讐してやろうと思った」と証言していた。
問題は逮捕後二日後に起きた。
五人が売り飛ばした美術品以外が国内の一般商人の手に渡ってしまい、その中に美術商が行っていた違法な輸入輸出の記録が書かれており、その紙には政府が金欲しさに関わってほしかったと書かれていた。
国内の不満は自然と政府へと向かって行き、その不満に多くの大学生が反応していくと大規模な学生運動へと発展していった。
新たな総理大臣は大学生の話を聞く前に鎮圧行動へと入っていった。
その中には小島出身者も混じっており、そう言った流れは国内に反政府運動へと発展していった。
当時国内で教育省で働いていた『エルナード・モルフォン』はその流れをただ見ていることしかできなかった。
中には自分がアルバイト時代に教えていた教え子もおり、軍には勝てないと悟った大学生達はその殆どが自殺もしくは殺されていった。
この政府の徹底的なやり方は後に批判の下にもなっていき、エルナードも反政府運動の為『本流』と名乗る組織を極秘裏に立ち上げるに至る。
しかし、急ごしらえで作られた組織の中には政府に殺されたという遺恨から、政府への復讐を願い者も多く、そう言った様々な考え方は多くの『分派』を造ってい。
特に小島出身者の中には自分達が海洋同盟に所属しながらも、小という理由から政府関係職から遠ざけられていると不満げにしている者も多い。
反政府組織『分派』の拡大は次第に『本流』でも抑えのきくものではなくなり、二年前第一島をはじめに『分派』が実力行使に動いた。
本格的な抗争に『本流』は組織の維持を選択し、救援すらも断るという徹底ぶりを見せた。
政府は本格的な『分派』の流れに苦戦を強いられ、ドラファルト島のように小島の援助の疑いも掛かっていたこともあり、政府は決断を強いられていた。
ここで政府が屈すれば今までつき続けてきた嘘が全て暴かれてしまうのは避けたかった。
しかし、このまま交戦を続けても何年かかるか分からない戦いが続くだけ。
その上厄介なのはガイノス帝国と共和国の戦争が終息に向かおうとしていることでもあった。
早めの決着を付ける手段。
その手段の為にかつての『太陽の英雄譚』を利用し、小島出身者から異能者を見つけ出し『英雄』として祭り上げ、必要が無くなったら小島ごと処理するという話だった。
その英雄として祀り上げられた人物こそ『ギルフォード・アレックス』という烈火の紙を持つ少年。
一年という速度で事態を収束した矢先、分派のリーダーであったフォードが行方不明から復帰、ギルフォードに話し合いを提案した。
その後どういう経緯があったのかは分からないが、ギルフォードは『分派は全滅した』と嘘の報告書を上げて消息を絶った。
時を時を同じくして予定より前倒しされる形でドラファルト島の襲撃事件が行われていた。
英雄の行方不明、分派の消滅という結果に終ったが、政府は『本流』を見抜くことが出来ず、結果戦争終結後に鎖国を解くと宣言を出してしまった。
そして…………一週間前以上前に分派が復活を宣言して事態が急変する。
その分派の中に『烈火の英雄』が混じっていた。
回想終了。
俺達は反政府組織の発足の流れと、烈火の英雄が反政府組織へと身を投じた流れを知る事になった。
「私がこのことを知ったのは大臣に選ばれた後の事です。本当に幸いだったのは今でも政府は私達の存在に気が付いていないという事です。気が付いていたのなら私達を襲っていたはずです」
「皆さんがうまくやってこれたのは直接的な行動に出なかったからですか?」
「ええ。私達は真正面から挑んでも勝てないだろうという確信がありました。だからこそ私達本流の目的は内部に入り込み内側から変えていく事でした」
真正面から挑むのではなく、側面から挑む。
そういえば気になることがあった。
「リーダーのフォードが行方不明だったというのは?それにフォードというのは黒髪のオールバックの男ですか?」
「そうですよ。と言ってもほんの数日の事でしたが、ドラファルト島事件後に姿を現してギルフォードとの対話を望んだというのが決着でしたから」
引っ掛かってしまった事が一つだけある。
フォードが一時とは言え行方不明だったこと、同時にドラファルト島事件の後に行方を現したこと。
「この国が嘘にまみれた国だというのは皆さんが知った事実です。それでも私はこの国を愛しています。この国を変えたいと思っています。しかし、同時に思うんですこの国の闇は私達で変えられるだろうか……と」
彼女の苦しみ、彼女が立ち向かう大きすぎる真実という名の『闇』はかつて様々な人々が立ち向かってきたものだろう。
「どんな国にだって『闇』はありますよ。『闇』の無い国何て存在しません。それこそその『闇』が結果としての日本という国を滅ぼしかけてしまったんです。でも、あなたはそれを変えられるところにいるんじゃないですか?」
そこに届かない人だっているはずだ。
その大きな『闇』に敗れ、『闇』に身を滅ぼす者、屈してしまう者だっている中、彼女は身も滅ぼさず、屈しもせず、破れないようにギリギリの所で戦っている。
いつかこの『闇』に勝てると信じて………。
「その気持ちは決して『闇』に負けていない物だと思いますよ。あなたが『闇』に敗れていたらきっと海都オーフェンスにジェノバ博士だってたどり着けなかったし、きっとこの国に俺達がたどり着けることだって無かったはずです。でも………これだけは知っていて欲しいんです。この国を変えるのはあくまでもあなた達です。俺達はその手伝いをするだけ」
俺達に出来る事は多くない。
やるべきことは変わらない。
真実を見極め、その上で敵を知り、そして立ち向かうだけ。
「あなた達が変えたいと思うのなら、俺はその手伝いをするだけです。勿論これまで以上に真実を知ったうえでの結論ですが。でも、俺はあなたの言葉を信じます」
彼女は一筋の涙を流した。
信じてもらえたことが嬉しかったのか、それとも手伝ってくれることが嬉しかったのかは俺にも分からない。
「私達『本流』から皆さんに依頼を出したい。どうか………この国に一筋の道を指示していただけませんか?私達に手を貸してください!勿論皆さんにだけは戦わせたりはしません!」
彼女は素早く立ち上がり深々と頭を下げた。
俺達としてはその気持ちを裏切る事は出来ない。
大きな爆発音がかすかにではあるのだが俺達の下にも届いていた。




