嘘つきの国 2
十一時半丁度にジュリ達が店に辿り着いた頃、俺達は人数分の昼食を用意していた。
しかし、俺が右にイリーナと左にケビンさんを挟む形で座っている姿を見て三人が遠い目をしていたのは何故だろう。
イリーナが席を飛び出し奈美に飛びつく勢いで近づいていき、奈美もまるでラグビー選手がタックルするような勢いでイリーナに抱き着いた。
「イリーナ!どうしてお兄ちゃんと一緒にいるの?」
「偶然第一島で出会ってね。そのまま一緒に行動していたの!」
仲いいなぁ………あの二人が付き合っているといわれたら下手をすると百合カップルと誤解されそうだ。
しかも問題はあの二人それぞれ付き合っている男性がいるという点である。
無自覚であの仲の良さで一緒にベットに入っていると百合作家辺りは妄想がはぐくまれそうだ。
「ケビンさんもいらっしゃっていたんですね。足はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、心配してくださってありがとうございます。もうすっかり良くなって再び皆さんと一緒に行動させていただきます」
微笑むケビンさんとジュリ、同時に俺とケビンさんとイリーナ以外が同時にシャドウバイヤの方を見る。
「「「居たんだシャドウバイヤ」」」
「居たのだ」
イリーナが席を立っている間にジュリが俺の隣を確保してくる。
イリーナと奈美は仲良さげにジュリの隣に、その更に隣にレクターが座り俺の真ん前にシャドウバイヤが座りこむ。
俺は大統領から得られた情報を開示、ジュリ達は各大島には鏡が備え付けてある鏡があると教えてくれた。
閑話休題。
食事の席に並べられた食事に一通り手を出し、水で口の中をリセットする。
「ソラは結局さ大統領の話を聞いてどう思ったの?その辺がよく見えてこないんだけど?」
レクターの些細な一言に俺は一瞬だけだが思案し、言葉を選ぶ。
「要するに海洋同盟は『太陽の英雄譚』を捏造しているかもしれないって事だと思うぞ。その辺に海洋同盟政府の目的があるのかもしれないって。だから……政府が本当の英雄譚を隠したい理由があるんじゃないかなって俺は予想しているけど」
皆が口を紡ぎ思考するそぶりを見せるがシャドウバイヤとレクターだけはそぶりだと断言できる。
「そんな回りくどい手段を取ってでも隠したい理由、ソラ君が気になっているのはその辺ていう事?でもそういう話なら政府の手が届く場所には情報は無いんじゃない?」
ジュリの言葉に俺は水を飲みながら黙って頷く。
その辺は俺がずっと考えていた事でもあるし、実際ある事以外には俺には手段が無い者事実。
「俺の手段だけど。ジェノバ博士の紹介で『反政府組織の本流』に接触する方法だ」
「え?危険じゃない?俺やソラやケビンさんはともかく、ジュリや奈美ちゃんやイリーナちゃんを連れていくのは抵抗を覚えるよ」
「大丈夫だよ。その辺はジェノバ博士からの事前情報もあるし、ていうか……反政府組織と言っても武力を使わない非武力派らしいからな。元々は其処が本流らしくて、前に戦った組織は其処から派生した分派らしい」
色々と組織が派生しているらしいが、そもそもは其処が発端で在り一番大きな組織でもあるらしい。
「その人達の話を聞いてから行動したいな」
「というかソラ。お前はどの程度まで関わるつもりなのだ?」
シャドウバイヤの言葉に周囲にいる人間全員が反応した。
俺自身もいつか聞かれるだろうと思っていた言葉だ。
「正直な話な。この問題はこの国の問題だと私は思うのだ。この嘘も今起きている問題もお前が抱える問題ではない気がする。今までとてお前は十分なほど抱えてきたはずだ」
「分かってはいるつもりだよ。でもだからと言って目の前で困っている人がいるかもしれない。「助けてください」と叫んでいる人がいるのに目を瞑って生きる事は出来ないよ」
「しかし、お前一人が手当たり次第に手を伸ばして、当てにされ続ければいずれは破綻するぞ」
それだって分かっていることだ。
どこかで一線を決める必要はあるし、その一線が大事なんだと理解している。
「勿論お前が組織を立ち上げてするのなら勝手にするといい、しかし、お前一人でやる事には限界がある。今回の一件だってお前一人で出来るとは思えんぞ。ここにいる人たちの力を借りるのも一個の手だ。しかし、これからも同じことをするたびに誰かを巻き込むのか?」
反論の余地もない言葉だ。
これからずっと何かに巻き込まれるたびに誰かを巻き込み、その度に誰かを悲しませる。
「ソラ……私はお前に説教をしたいわけじゃない。しかしこれからも争いに関わっていくのなら一線を引くか、組織のような物を作った方が良いだろう」
「でも、組織なんて簡単に作れないだろ?」
「………かつてこの世界には『竜達の旅団』と呼ばれていた者達が居たと聞いているな?」
「うん。確か父さんの暮らしていた北の近郊都市の人達がその祖先だったんだっけ?」
「そうだ。彼らは元をただせば二千年前の竜人戦争時に世界中を回って人々や竜達と共に世界を救った者が率いていた集団だった。世界中を旅するように回る姿からそうなずけられた。多くの竜は期待していたんだ。人間と竜の懸け橋になってくれると」
シリアスな物言いに俺達は黙り込む。
「しかし、彼らがその期待に答えることは無かった。我々竜は落胆した。多くの竜は人に崇められることで平穏を得ようとした。この際ハッキリ言おう。私を含めて一部の竜はお前に期待しているんだ。あのエアロードを変えた人間として、お前なら二代目の竜達の旅団団長として人と竜の懸け橋になってくれるのでは?とな」
「勝手な物言いだけど………なるほどなシャインフレアが姿を現したのも俺に対する一定の期待値があるからなんだな」
「そうだ。エアロードは馬鹿だから気が付かないけどな。私はとっくに気が付いていたぞ。多くの竜はお前がそういう役目を果たしてくれるのではと期待している。というのも………人と竜が分かり合えなかったからこそ、十六年前の北の近郊都市襲撃事件が起き、三十九人は犠牲になり、西暦世界の崩壊寸前まで追い詰められた。全ての切っ掛けは其処に由来する」
人と竜が交わるこの複雑な世界、その複雑差は一つのアンバランスさを生みその結果二つの世界がつながった。
それは複数の悲劇が連鎖的に引き起こされるに至る。
「人と竜の関係を我々は補正したい。しかし、今更であるがそれを変えられない人間もいるのだ。しかし、西暦世界の住人ならばそれが出来るかもしれない。そういう期待もある」
「竜に関する知識が無いから先入観無しで関係を始められるからな。実際一部の竜達は西暦世界で人間と仲良くしているって聞いたことがある」
俺がケビンさんの方を向くとケビンさんは黙って頷く。
「ええ、アメリカの調査でもイギリスで双子の竜が、南アメリカ大陸で雷に紛れる竜が確認されています。その殆どが人間との関りを持とうとしていると聞きました」
「その通り。人間との関係を変え、世界の未来を変えたいと願っている者は多い。その役目をお前に強引に押し付ける事はせん。しかし、お前がその役目を引き受けるのなら私は竜を代表してお前を支えて見せよう」
真摯な眼差しはまっすぐに俺を捉え、俺はその瞳をまっすぐに答える。
「俺にその役目が出来るとは思えないけれど………やってみるよ。俺は竜達の旅団の二代目団長を引き受ける」
するとレクターが勢いよく手を挙げて「俺も参加する!」と叫び、それを呼び水のようにジュリや奈美やイリーナ果てにはケビンさんまで参加するといい始める。
「皆………」
「一人じゃ出来ないでしょ?ソラ君がやりたいことは私達がやりたいことだよ」
ジュリの言葉は自然と俺の心に響いた。




