影なる者 4
美術館という場所は俺にとってあまり馴染みの無い場所で、ガイノス帝国に来てからも俺にとっては行くことはまるでなかった。
興味が無いというのもあるし、美術館や博物館にまで行って何で学ばなければならないのだろうという気持ちの方が強い。
そんな俺が学習目的で美術館を訪れるというこの状況がどこかおかしく感じる。
「ていうかなんで美術館に太陽の英雄譚に関する資料があるんだ?美術館って美術を飾る場所だろ?それだったら博物館が正しい言い方なんじゃないのか?」
「この海洋同盟には博物館は無いですよ。この国は美術館の機能の中に博物館も入れてあるんです」
面倒な造りをしていると思う。
歩き出してまだ十分ほどしか経過していないが、見慣れない風景というのはいつだってウキウキするもので、俺の隣で歩いているイリーナもどこか楽しそうにしているように見える。
「この美術館は奈美ちゃんと行こうと候補に入れておいたんです」
「奈美は美術とかあまり興味ないぞ。あいつ基本はアウトドア派で体を動かしているほうが楽しいはずだし」
「そうなんですか?奈美ちゃんあまり「こうしたい」みたいな意見をくれないから困るんです」
「それはそうだよ。あいつは人見知りする性格だし、あまり仲のいい友達はいなかったはずだ」
奈美は人見知りする性格であまり学校でも仲のいい友達はいなかったから、むしろイリーナみたいに親友まで行く同年代の友達が珍しいのだ。
イリーナは「へぇ……」と言いながらもどこか嬉しそうに微笑んでいる。
「そんなに奈美に親しい友達がいないことが嬉しいのか?」
「そんなんじゃないですよ!失礼ですね。ただ私が奈美ちゃんの親友って言われたのが嬉しくて」
「そこ?まあ珍しい方ではあるよ。奈美のあの性格もあるし、中々奈美の深層心理まで突っ込んでいける人間は珍しい」
「奈美ちゃんは最初追われていた私を匿ってくれて、その上色々と助けてくれたんです。だから少しでも恩を返そうと必死で……」
なるほどそういう経緯で仲良くなったわけだ。
「それこそ気にしなくていいんじゃない?奈美だって今でこそそんな事考えてないと思うぞ。ここに来るまでの間もずっと「イリーナに会える」て嬉しそうだったんだから。二人で行きたい場所に行って、二人で回りたい場所を回ればいいんだ」
そうやって絆を深めていけばいい。
友情に答えなんて無いし、親友の形に決まり何て無いのだから。二人が納得している形に本人たち以上に知っている人間なんていやしない。
それが本人たちが認め合っていることなら好きにさせるべきだろう。
「これから奈美の事をよろしく頼む。親友としてあいつの隣にいてやって欲しい。兄貴としてのお願いだ」
イリーナは最初こそ戸惑っていたが、頬を赤らめているとその内ハニカミながら微笑んで見せる。
「はい!」
それはいい笑顔だった。
奈美の可愛らしいクシャミと同時に寺院前のモノレール乗り場から寺院までの階段を昇っている最中のジュリが振り返る。
「誰か噂しているのかな?」
「かもしれないね。意外とイリーナちゃんだったりして」
二人で微笑みながら階段を昇っていき、レクターは一足先に寺院前まで辿り着いていた。
石で作られた寺院は丁度建物の真ん中に塔みたいになっており、レクターは丁度寺院の出入り口で中を覗き込んでいた。
「レクター君どう?寺院は開いてる?」
「開いてる開いてる!大丈夫そうだよ。観光客が結構いるし」
ジュリと奈美も同じように寺院の中を覗き込む。
中は大きなドーム状になっており、石像なんかが壁際に飾られており、その銅像に共通しているのは手鏡を持っているという点だった。
「全部手鏡を持っているね。どの石像も」
「そうね。やっぱり鏡がキーワード見たい。塔の部分には登れるのかしら?」
奈美とジュリが同時に探し出し始めるのだが、誰よりも早くレクターが発見していた。
観光客ならんでいる場所に三人で並び始め、三十分ほどして三人は最上階までたどり着いた。
先ほどの部屋よりは一回り程小さいがそれでも十分な広さを持つ部屋、そのど真ん中に人一人を映せるだけの大きな鏡が存在感を放っている。
「やっぱり鏡だね。それにこの部屋一つだけ大きな窓枠があるのも気になるし……」
レクターが窓枠を覗き込むと直線状に国会ビルが見えている。
「国会ビルが見える。それにその鏡足元が動くようになってる」
奈美が柵で遮られている鏡を外から覗き込むと、確かに足元が動くようになっていた。
外柵には位置を看板で「鏡には触れないでください」と書かれている。
「たぶん古くなっていた壊れやすいからじゃないかな?千年前の物って書かれているし、部屋に触れたら壊れるからじゃない?」
「ていうか昔壊したことがあるんじゃない?この鏡の外縁の部分に壊した後みたいなものが残っているし」
奈美がじっくり外縁を覗き込むとかすかに見える傷痕を見ながら「確かに…」と呟く。
「案外鏡を壊すことが条件だったりしてね」
レクターの言葉に戦慄を覚えるジュリ、レクターなら確かにやりかねないという恐怖感が襲い掛かった。
実際レクターは外縁をじっと見つめたり、鏡そのものをジッと見つめている。
「下の役員さんに聞けば当時の事が分かるかもしれないし戻ってみようか。そろそろ他の観光客の邪魔になりそうだし」
ジュリはいい加減ここを離れた方がよさそうだと本能で悟っており、二人を連れて最初の部屋まで戻っていく。
下の階で案内役をしている人を探し出そうとする。
「あの鏡の由来について教えてもらってもいいですか?」
「いいけれど……もしかして学生さんかしら?フフ夏休みの宿題って所?そうね………あの鏡は千年前に太陽の力を英雄に与えたとされる由緒正しい物なのよ」
「それってどうやって使ったかなんて語られたりしているんですか?」
「さあ……それは聞いたこと無いわね。何せ千年前の事だからね。でもこれと同じ鏡は大島の寺院に一個ずつあるのよ」
「もしかして……その全ての部屋に国会の方に空いた窓枠があるんじゃないですか?」
「その通りよ。すごいわ。よく見ていたわね」
ジュリはあの窓枠がどうしても気になっていた。
通気性を重要視したのなら別にあそこでなくてもいいはずであり、あそこにどうしても窓枠を設けたのは何か意味があるのではと。
そしてその窓枠に向いた直線状に国会ビルがある事に意味を見出そうとしていた。
「でもね。その意味も今ではよく分かっていないのよ。外相がどこかの島で発見した手鏡を寄贈してくれていたら何か分かったかもしれないけれど」
「手鏡?それって……?」
「外相がどこかの島で発見した手鏡よ。ほらそこの石像も持っているでしょ?すべての寺院の石像では手鏡を全部持っているのよね。私達はその手鏡が何か意味を持っているんじゃないかって想像しているの」
ジュリにはその手鏡に心当たりがあった。
ソラがアクア・レインの際に取り込んだといっていた手鏡の事だろうと、問題はその島についてだった。
「その島ってどこなんですか?」
「確か……ドラファルト島って名前だったかな?十六島の近くにある海洋同盟の中では一番端にある島よ。一年以上前に『ある事件』で人が消えた島よ」
(そういえばソラ君が『ドラファルト島の悲劇』って言っていたような)
「どうすればその『ドラファルト島』に行けますか?」
ジュリの真摯な問いに女性は顎下に指を置いて悩み始める。




