夢にて 0
「しつもーん。どうして私達を使わなかったの?」
これは夢だ。
モノクロの世界、下には感触の無い水と上には灰色の雲が広がっている。
真正面に色彩のある一人の女性がいるが、彼女はこの世にいないはずの人間だ。
俺の彼女であるジュリエッタと瓜二つの少女である『堆虎』は右腕を真直ぐ上へと上げて、同時にからかうように俺にむけてくるその笑顔。
ジュリと瓜二つでありながら、はやり異世界を挟んだ同一人物だけはある。
「君がそんな性格だって知っていたら………」
「知っていたら私の事を軽蔑した?それとも嫌いになった?」
俺の顔を真正面から覗き込むの顔つきはどことなく俺を揶揄っているのが分かる。
「先に告白していたよ」
「!? もう………気前がいいわね。今の彼女がその言葉を聞いたら別れ話じゃない?」
「ジュリはそんな事で俺を嫌いになるほど短気じゃない。それは堆虎自信が知っているだろ?君とジュリは心理的な意味ではやはり同じだ」
正確はどうしても生活習慣が影響してしまうし、ジュリと堆虎では生活する環境が違い過ぎる。
ジュリは大人しく優しい女性だ。
しかし、堆虎の話し方を見ればはっきりわかる。堆虎は基本的に人見知りで慣れてくれば揶揄う余裕が出てくる上、恋心も平気で混ぜてくる。
「夢に出てくるようになってから何日だ?ここ数日何回か現れているよな?でもどうしていきなりこんなにはっきりと?」
「ソラ君が『太陽の鏡』の欠片を持っているからじゃないかな?それが原因だと思うよ」
太陽の鏡………これが俺がこの前に取り込んだ手鏡の正体。
「ソラ君の才能である『竜の旅団』はあらゆる『異能』から愛されることだからね」
「初めて聞いた。どうやって知ったんだ?今の君は俺の中にいる魂の欠片に過ぎないはずだ」
「だからだよ。君の中に居たからこそ分かるの。君の事が君以上によく分かる。『竜の旅団』は異能じゃない。あれは才能。あらゆる異能を取り込み形にする」
才能という言葉を俺はすんなり受け入れる事自体は難しいが、しかし『魔導』や『呪術』といういわゆる『異能』という言葉と俺の『竜の旅団』がすんなり入らないと思っていた。
「あなたが生まれつき持っていた才能であり、同時にこの世界で生まれるはずだった『もう一人のソラ君』が持っていた全く同じ才能。それが『ゲート』と言われる異世界を繋げる門が開いたことで二つの才能が一つになった。大きな眠りの中で成長し続け、この世界に来た時に一気に目覚めた」
「あくまでも才能って事か?だから『竜の旅団』そのものには目立つような能力が無いのか?」
「そうだね。それが才能だから。『不幸体質』や『因果律操作』みたいに周囲の場に直接影響を与えるような力じゃない。でも、そこに魔導や呪術が関われば話は別だよ」
堆虎は俺に背を向けて水面に波紋を出しながら二歩前へと歩き出し、俺の方へと振り返りながら「例えば」なんて言い始める。
「ソラ君の『竜の欠片』が『竜の旅団』が合わさった事で直接異能を奪えるようになったようにね」
「やっぱり『竜の顎』はその結果という事か………奇妙な力だと思っていたが」
「うん。あの力自体は双方には入っていない力だからね。だからコントロールが効かないの。才能が異能を得たことで半自動性を手に入れてしまった。だから、本来見ていることしかできない私が貴方の中で夢という形で現れたのもそれが理由だね」
才能が異能を得たことで半自動性を手に入れたから。
もしそれが原因なんだとして、何故『竜の顎』は『太陽の鏡』という異能を手に入れようと思ったんだ?
「どうして『竜の顎』は『太陽の鏡』を狙ったんだ?」
「簡単だよ。ソラ君苦戦したでしょ?そして、焦った。内心少しだけとは言え、ソラ君は焦ってしまった。その上私達を呼びだそうともしなかった。だから『竜の顎』はその焦りに答えを出した。「もっと上の力を求めたい」という本能を見出した」
俺は一歩前に出て「俺は求めていない!」と声を荒げるのだが、堆虎は涼しそうな表情をしていた。
「表ではね。でも裏では違う。ソラ君は烈火の英雄の強さに多少の焦りを感じてない?ソラ君は今まで連戦を重ねていたりして万全な態勢では挑めなかったでしょ?でも、今回は違ったはずだよ。直前に戦闘があったとしても、そこまで苦戦はしなかった。疲れ切っていないにも関わらず苦戦した。それに、相手もソラ君に対して全力じゃなかった。相手の方がはるかに疲れていたはずだよ」
それについては否定しない。
烈火の英雄の方がはるかに疲れ切っていたはずだし、俺の方がコンディションはばっちりだったはずなんだ。
その上で俺はギリギリ勝てた。
「だから深層心理の奥でソラ君は焦った。もっと上へと行きたいという想いの前にその魔導は現れたという分け。だから聞きたかったの。私達を使えばもっと楽に勝てたはず。そうすれば『竜の顎』が発動しなかった」
「君達を俺の個人的な理由で巻き込みたくない。楽しい事を共有したいとは思っても苦しい事嫌な事を共有したくない」
分かっている。
こんなの我儘だ。
「我儘だなぁ……まあいいけど。でも次はきちんと呼んでね。分かったでしょ?今度の相手は危険だって事ぐらいは分かっているでしょう?」
「分かっているよ。場合によっては皆に危険が及ぶかもしれない」
「うん。隆介君達も同じ気持ちだから遠慮なく呼んでね」
俺としてはラウンズを呼び事だけは避けたいという気持ちはあるが、今後はある程度使用することにする。
「まあこれ以上の我儘はやめておきましょうか………もういい加減疲れが私も出てきたし。でも今後はきちんと呼ぶときは呼ぶ」
俺の顔に自らの顔を近づけてくる堆虎に俺は一歩に後ろに下がる。
これ以上近づかれたら俺の心臓が飛び出そうになるのでやめてほしい。
ジュリに似ている分どうしてもドギマギしてしまう。
「あのさ………これ以上近づかれるとどうしてもドギマギしてしまう」
「分かってやっているの………」
「尚更質が悪いな。全く君がそんな性格だって知っていたら………」
「付き合ってくれた?」
「ああ………もっともっと後悔していたのにな。でも」
「もう駄目だもんね。私は本来死人。あなたは生人。本来はなれ合う事は出来ない」
ここが線引きだろう。
俺達が引くべき一線、超えてはいけない絶対の壁。
彼女の言う通り、俺と彼女は本来ならこうして話す事すら許されていない。
しかし、こうして話していられるのは『竜の欠片』のお陰でもある。聖竜から与えられしこの魔導、聖竜と近い力が与えられる。
それゆえの奇跡。
死者の魂の欠片を取り込むことで成功する秘術でもある。
俺は「また」と告げ意識を取り戻していった。




