侵略者《インベーダー》 1
翌朝ほど良い太陽の温かさと実家では感じたことの無いフカフカのベット、奈美はその感じたことの無い心地よさに眠気から逃げられそうになく、きっとシャドウバイヤが顔面を叩かなければ昼過ぎまで寝ていたに違いない。
シャドウバイヤはそのまま羽ばたかせてどこかへと消えていき、奈美は目を擦りながら寝間着から簡単なTシャツと短パンに着替えて一階ロビーまで降りていく、すると外の方から何かがぶつかり合うような音が聞こえてきた。
その音のする方向へと歩いていくと、駐車場に作られた臨時戦闘用施設から来るのだと分かり、興味半分で中を覗いてみた。
すると、ソラが木剣を握りしめて思いっきりレクターの頭めがけて振り下ろし、レクターはその攻撃を足蹴りで軌道を逸らす。
激しい攻防戦の衝撃が奈美の目の前までやってくる。
「す、凄い……」
息を漏らしながら目の前で繰り広げられている戦いという名の模擬戦、レクターの拳がソラの顔のすぐ左を通り過ぎ、ソラは嫌な汗を額に滲ませる。
しかし、ソラも負けじと木剣を三連続で横なぎに振るが、レクターはその攻撃をバックステップで回避するのだが、ソラは其処までを読み切り最後にとどめにと縦に強く振り下ろす。
レクターは両手で床を強くつかみながら右足で攻撃を弾き、そのままソラの顔面にケリをお見舞いする。
ソラはそれを何とか体を逸らして回避するが、レクターはとどめにと身体を両腕で吹っ飛ばし、そのままレクターの体に馬乗りになる。
「一本! 俺の勝ち」
「やっぱり単純な技術勝負だとお前には勝てないよ。はあ、ていうか足技ばっかり使うなよな」
「それも戦法でしょ? それより……入ってきたら」
奈美は体中をビクンとさせながら身を物陰から乗り出し、ソラが大きなため息を吐き出す。
「もっとちゃんと見ていてよかったんだぞ」
「だって……何か口を挟めそうにない状態だったんだもん。真剣に戦っている感じでなんか……」
奈美が近づいていくと、ソラとレクターは近くに置いてある飲み物に手を伸ばす。
「お兄ちゃん剣道続けていたんだね」
「向こうだと剣術じゃないけどな。奈美………実は三年前の事だけどな。剣道場を止めたのは師範代から『中学からは学校の剣道部に入った方が良い」と言われたからなんだ」
「え? でもお兄ちゃん剣道部に入らなかったじゃん」
「入学期間は六月まであったし、なんか自由だったから少し悩んでいただけだ。林間学校の後に師範代の所に相談に行く予定だった」
しかし、その前にこの世界から居なくなってしまっただけである。
「俺が説明不足だったのが悪かった。すまなかったな」
ソラが奈美の頭に手を置いて優しく撫でていると奈美は大粒の涙を流し始め、ソラに強く抱きしめる。
「ごめんなさいお兄ちゃん! ずっとずっと……謝りたかったの! 言い過ぎたって、何も知らなかったって謝りたかった」
「俺の方こそ済まなかったな。三年も待たせてしまって」
兄弟は三年ぶりの仲直りだった。
俺達は四人で話す機会を得た。
朝食の席の場、端っこの目立たない席を空けてもらい、エアロードとシャドウバイヤの力で隔離して初めて行われた会合ともいうべき席。
俺は興奮する父さんを足で踏みつけ、何とか押さえつけていると最大級の爆弾を真っ先に母さんが落とした。
「母さん再婚することにしたの」
俺がコーヒーを吹き出す番である。
父さんがニヤニヤしているので俺がアッパーでも決めるかどうかを悩んでいると、母さんの言葉を真に受けた奈美がまるで裏切られたみたいな顔で俺の方を見る。
「お兄ちゃんが連れてきたの!? その為に異世界に言ったの!?」
「誤解するな! この人は俺達の世界を挟んだもう一人の父さんだ! 母さんからすれば死んだ父さんがいるみたいな状況なんだよ! 母さんも冗談じゃなくても変な事なんて言わないでくれ!」
「あら? 私変な事を言ったのかしら?」
「言っただろ!? 毎回毎回弁護する人間の気持ちになってくれ!」
だから嫌なんだ。
俺はおおよその説明をしたのち、母さんたちが再婚するつもりであるという事を説明した。
奈美もようやく納得をしたのか、していないのか分からない様な表情をしていると、俺は「今直ぐ納得することじゃない」とだけ言っていた。
「今直ぐ認めて欲しいわけじゃない。双方が納得いっている話だし、ゆっくりでいいから認めて欲しいってだけだ」
「要するにこの人は私のお父さんって事?」
「そう言う事だな」
俯いたまま立ち止まってしまう奈美、俺はショックを受けたであろう奈美にどう声をかけたらいいのかと悩んでしまう。
「じゃあ奈美にとってもお父さんだってことだよね! お父さん!」
もの凄くはしゃいでいた。
取り敢えずお前を想って悩んでいた俺の気持ちを返して欲しい。
そのまま簡単な食事を済ませ、父さんは部下に連れられてどこかへと消えていき、母さんも今日一日は忙しく暇がないとのことだった。
その上、マリアも今日は教職員の会議なんかで忙しいとのことで昨日のメンツから奈美が加入したメンバーで行動する事になる。
本日の予定としてはノアズアークの捜索と呪詛の鐘に関する情報を収集するという方針で決定したのまではいいが、ノアズアークに関してはこの辺りに拠点を置いているという意外に情報が無かった。
困ったという事態になりガイノス軍にバス事故現場に行けないかどうかと聞かれたが、昨日の戦闘で警戒例が敷かれているうえ、独自調査で封鎖しているとのこと。
その上、どこにあるのかまるでヒントも無い呪詛の鐘の捜索なんて雲をつかむ話である。
「さて……困った困った。手掛かり零。ヒントも無く情報を掴むなんて無理な話だよ。それに他のみんなも昨日一日はずっと遊んでいたらしいし」
「だったら私イリーナに会いたい!」
「ていってもな……? そうか、彼女が『自称元仲間』というのならノアズアークの情報位は握って良そうだが」
問題はどうやってイリーナの情報を掴むかどうかだが、なんて悩んでいるとマリアがタブレットを片手に悩んでいる姿が見えた。
「マリア。昨日保護したイリーナっていう少女がどこにいるのか知りたいんだけど」
「む? 何故そんな事を知りたいのじゃ?」
「ノアズアークの情報が探れるかもしれないだろ?」
「それじゃったら既に軍が聞いておるよ。しかし、それは無意味じゃな。何故なら彼女が教えてくれた場所には既におらんかった。昨夜のうちにガイノス軍が調べておったはずじゃしな」
そうか。
まあ、一足先に調べているか。
「だったらせめて合わせてくれないか? 奈美が会いたがっているんだ?」
「むう……良いが……儂の権限で会えるかどうか分からんぞ。所詮は一教師じゃからな。それぐらいならお主の父親に尋ねればよかろう」
それしかないな。
しかし、ここで俺が大人しく「お願い」と尋ねても仕事モードの父さんを陥落させるのは難しい。
そんな状況だからこそ父さんを一発で落とす手段を持つ人間が俺の側にいる。
俺は父さんの居場所を聞き出し(その際にシャドウバイヤとエアロードの力を借りた)、父さんの部屋に辿り着くと奈美を前面に押し出した。
事前に教えておいた上目遣いでどことなく儚さを醸し出し、両手の指をもじもじさせながら如何にも甘える娘を演出させる。
「お父さん。イリーナに合わせて欲しいんだけど」
「無論だ! 今は病院に収容されている。なんでも逃げる途中で足を怪我していたようでな。今から部下に言って面会許可を貰う事にする!」
俺とレクターは心の中でガッツポーズである。
本当に単純な父親で助かった。




