竜の欠片 4
近郊都市とは帝都の外壁から外に作られた四つの近い都市部の事で、規模こそ大規模の都市に比べたら小規模になるが、帝都に近いという事もあり人通りは多く、多くの人は帝都に入る前に必ず四つの近郊都市のどこかによることが昔は多かったそうだ。
最近では列車や飛空艇が盛んになったため、それほどではないがそれでも四つの近郊都市はそれなりのやり方で栄えてきたそうだ。
それも十六年前に北の近郊都市が襲われる前までは。
詳しい話はジュリに聞かなくてはいけないのだが、俺は負傷箇所の手当てを受けている真っ最中で、最初こそジュリが魔導機で治療しようとしていたのだが、俺の『竜の欠片』と元々持っている異能『竜達の旅団』がひたすら邪魔をする。
耐異能とは聞こえはいいが、逆に言うと治療しようとする力すら俺の意思に反してキャンセルしてしまう力だ。
ジュリがしょげている間にサクトさんと父さんの部隊がやってきて各所の治療や容疑者であるテラの確保をしていた。
俺はその間に消毒と包帯などを使った止血を行い、包帯が邪魔にならないと確認した後ジュリの元に戻ろうとした。
その時だった。
父さんに頭を撫でられたのは。
「な、何? いきなり………」
「いやな……やるじゃないか。それに何だったんだ? あの鎧は」
「『竜の欠片』だって聞いたよ。それより何でテラがここにいるわけ?」
「これは軍や警察の不始末だ。悪かったな。実は朝方に拘置所が襲撃されてしまってな、少数での犯行というのは分かっているんだがな。何せ帝都での襲撃何て貴族内紛以来だからな。軍本部はいま混乱状態だ」
拘置所が襲撃された案件について俺がどうにかできる話ではないので父さん達に任せるとして、問題は『北の近郊都市』についてだ。
こればかりは父さんに聞くわけにはいかないし。
なんて思った所で俺は自分のバイクがどこに言ったのかを父さんに尋ねた。
「俺のバイクを父さんに向けて走らせたんだけど?」
「そこに持ってきているぞ。お利口なバイクだな俺達をこの場所まで案内していたぞ」
「俺達このまま離れていい? それとも事情聴取を受けた方が良いわけ?」
出来る事なら事情聴取何て受けずにこのままここを去りたいところだ。
これ以上変な事に巻き込まれたくないし、それでなくても聖竜から変な予言を受けている身である大人しくしていたい。
父さんは顎下に手を当てて考えていると、視線を後ろにきている警察官などに向ける。
「私がうまく言っておくから今のうちに行け。どうせろくな事情聴取なんてしない」
父さんの言い分に疑問の余地を挟んだ。
どういう意味だ?
普通こういう状況では事件の渦中にいる人間は事情聴取をする者では?
「軍や警察は明日のパレードがあるからなこれ以上騒ぎを大きくしたくないし、犯人が捕まっているならそれで解決したいんだ。書類上で終わらせられるならそれでいいという訳だ。今回は大して話を聞かん。実際ほれ……もう解放されて移動し始めているものまでいるだろ?」
そう言われてしまうと確かにそうだ。
そう言う事なら俺はあえて深入りはしないことにした。
父さんがうまくごまかしてくれるという言葉には一抹の不安を覚えたが、そんな事に一回一回突っ込んでいたらきりがない。
俺はジュリの手を強引に引き、代わりのヘルメットをジュリにかぶせてバイクに乗り込む。
背中にジュリを背負うと父さんの方を一瞬だけ目を向ける。
父さんは黙って頷き、俺はバイクで現場を後にした。
「ソラ君を行かせたのね」
「ああ、この場にいてもどうせろくな調査などしないし、それに今でも軍の一部が信用できないのも事実だ。サクトも分かっているだろ?」
アベルの言い方にサクトは黙って頷きながら黒髪を弄る。
「ソラ君があれほど世界中を移動しながら探し回って手掛かりすら入らないのはおかしいものね。元同じ中学の三十九人の行方。こうなると一番怪しいのは帝都だもの」
「木を隠すなら森林に隠すからな。三十九人を隠す場所さえ分かればいいが、ソラを回収した際に軍の中に怪しい動きがあったからな」
「そう言えば最近『主戦派』と『保守派』が外の要塞で兵器開発をしているって話を聞いたわ」
「『主戦派』と『保守派』は帝都の外だしな。もし外にいるならさすがに痕跡がありそうだからな。それにソラが帝都に現れた以上帝都かその周辺が一番怪しいという話になるが」
「そうね。そうとなるとやっぱり『革新派』が一番怪しいという事になるわね。トップのファンドがどう出るか。明日……何かありそうね。まだ脱走犯と主犯を捕まえていないし」
アベルは周囲を見回すと、車が横転していたりと所々ダメージはあるがそれでも死者どころか怪我人すらいないのはソラの努力のお陰だろうと判断できた。
「昔のガーランド君の戦い方に似ているかしら?」
「どうだろうな? ガーランドほど家族がらみで問題を持っていないようだし、あれは少し違う気がするが、本質の『誰かを守りたい』という気持ちだけなら似ているかもな」
「なんだかんだ言って周囲の人間が逃げる間の時間を稼ぎ、その後に本気で戦う。本質というよりは『想い』が同じなんでしょうね」
サクトの言葉にアベルは黙って頷く。
「自分の為ではなく他人の為に本気になれる。逆を言うと自分の為に動こうと思うと『理性』が邪魔をするんだろうな。昔ガーランドに言われたことがある。何か自分の為に行動しようとすると決まって心が「それでいいの?」と尋ねるのだと」
「ソラ君まで同じとは限らないでしょ? あの子はガーランド君ほどひどくは無いわよ。多分だけど……」
「でもこれからひどくなるという話も聞く。ガーランドがああなったのは両親や兄たちを失ってからだ」
ガーランドは共和国との戦争時に両親と二人の兄を失っており、それ以降ガーランドは『他人の為に』と心がけるようになった。
「ソラは今の所家族に会えないというだけで亡くなったわけじゃないしな。父親は別だが」
「? お父さんは亡くなったの?」
「ああ、十五年前にな。む? 部下が呼んでいるから行くが、警察にうまくごまかしていてくれないか?」
「え? ええ、良いけど…………十五年前? 『あの事件』の一年後……ね。偶然だと良いけど。何か引っかかるのよね。そうだ」
サクトはある事を思い出し、ガーランドにソラの父親が十五年前に亡くなっているという事実を話し、「気になった」と告げてみるとガーランドはサクトが予想もしていなかった結論を導き出した。
『『袴着空』と『アベル・ウルベクト』は世界を挟んだ親子だ。恐らくだが、DNA検査でもすればハッキリする話。恐らく十六年前の事件と十五年前に空の父親が亡くなったのは決して偶然じゃない』
『どうしてそう思ったの?』
『三十九人がばらけてこの世界に来たならソラ以外も見つかっていたはずだ。なのにもかかわらず見つからない。その上ソラは偶然だとしてもあっさり見つかっている。これは明らかにおかしい』
サクトは心の中で「言われてみれば…」と思い至る。
その通りで、四十人がばらけてこの世界に来たのならソラだけが見つかるというのは明らかにおかしい事態。
『あの日最初に見つけたのはジュリエッタという少女だが、そのすぐ後にアベルも見つけている。ジュリエッタという少女と『堆虎』と呼ばれている少女が似ているというのはソラ本人の言い分だ。ならアベルは偶然か? 正解は否だ。偶然じゃないと私は思う』
『それがソラ君とアベル君が実の親子というか世界を挟んだ親子だという結論に? 少し飛ばし過ぎじゃないかしら?』
『実はその話アベルからだいぶ前に聞いていた。ソラ自身は赤ん坊のころの話で父親を覚えておらず特に気にしていないと言っていたようだしな。元々ソラの中で『会った事の無い父親に会いたい』と思っていてもおかしくは無かろう? それにアベルとて……』
ガーランドがそこから先を書かなかった理由がサクトにも分かる。
当時サクトが最前線で戦っている際に起きたあの悲劇。
十六年前の北の近郊都市で起きた襲撃事件。
「似た願いを持っている者同士?」




