貴方を取り戻す 7
帝城前広場には何故か人が溜まりまくっており、その数は今まで俺達帝都組でも見たことが無い数なのだが、一体何故こんなに帝城前に集まっているのか、それどころか周りの歩道にすら集まっているのは何故?
数が多すぎて今から此所にスーパースターが集まってくるのではと思わせるほどだったが、そんな時レクターが顔面蒼白で「やば」と呟くと俺達はそこでレクターが師匠が生き返ると言うことを漏らしていることを思い出した。
この状態をサクトさんが知れば説教をとも思ったが、よく考えたらもうサクトさんは知っているのかも知れない。
だからこそサクトさんはレクターに対して説教をしようと思い至ったのだろうし、レクターは今だからこそ自分が説教される理由が分かったのだと思う。
まあ説教されるのなら敢えてこれ以上は突っ込まないと決め、俺達はなんとか通して貰ってから帝城に入るか、それともと考えたのだがもう諦めていくしか無いだろうと思い至った。
だって今更別ルートなんて探しても間に合うかどうかギリギリなのだし、これだけ人が集まっているのなら儀式が終わった後にでもバレる。
なら堂々と中に入るしか無いと考え、全員で諦めて進んでみようと言うことになり、なんとか人混みを割り込むように前へと進んでいく。
はぐれないようにしている内に時間そのものは掛かってしまったが、それでも全員で辿り着くことに成功した俺達、帝城へと案内されると大広間と呼ばれる場所で父さんが俺達を発見した。
「もう来たのか? まだ時間はあるぞ。まあ今更出ても何処に行くって言う話だが。儀式は下の階聖竜が住んでいた場所だ。儀式の準備完了までもうしばらくこの帝城で待って居てくれ。今なら上の階へも遊びに行っても良いそうだ。まあ、あまり個人的な部屋へは入らない方が良いかもしれんがな」
「父さんは何をしているわけ? 此所で」
「何。外が騒がしいので今更外に行くわけにもいかないしな。今はここで時間を潰している所だ」
「なら良かった。父さんと二人で話したいことがあるんだ。此所だとあれだし…上の階にある空中庭園に行きたいな」
帝城の上層階には一フロア全てが庭園になっている場所があり、そこだけは色取り取りの花と木々が咲き誇っており、人と話をするには丁度良い場所だ。
父さんは「何だ?」と物凄い渋ったが、俺が黙ってジッと見つめるとその内諦めた様で「分かった」と言って歩き出した。
他のメンツも俺の気持ちをくんでくれたようで、黙って見守ってくれた。
エレベーターが上の階へと向って進んで行き、上層階の一つ『空中庭園』まで辿り着いた所で俺達は広い庭園の中に設置されているベンチに座って話をすることにする。
「で? 話とは何だ? 儀式前に話しておきたいことなのか? それは…」
「なんで警戒態勢な分け? 何があったの? この俺がいなかった数日に」
「だって…ソラに押しつけた結果怒らせたかと…」
まあ怒らせたけどさ…それこそ今更な訳だしもう文句を言うつもりも無いので俺は「あれはもう良いよ」とだけ言った。
父さんはどうにも信頼出来ないようで「本当に?」と再確認をしてくるが、そのレベルで疑われ得ると本気で怒りそうになるので「怒って欲しいわけ?」と脅し賭けると「そういうわけじゃ…」と呟いた。
「じゃあ。何なんだ? 話とは」
「北の近郊都市の一件。まだ渋っているって聞いたよ。何時まで返事を保留にするつもり? 父さんが返事をしないと北の近郊都市再開発が進まないでしょ?」
「………」
「父さんがあそこを大事にしているのは分かっているつもりだし、当時の人達を思い出して辛い思いをしているのも知っているつもりだよ」
「なら…」
「でもいい加減許しても良いと思うし、北の近郊都市で死んだ人達はあの場所を活かして欲しいとも思っている」
「そんな事どうして…」
「北の近郊都市でエネルギー回収をする最中その人達と話をしたんだよ。嘘だって思うならジュリやケビン達にも話を聞いてみれば良いよ。俺達は知っている北の近郊都市で起きた出来事の前後も。ボウガンも父さんも師匠も後悔していることも。そして…その犠牲がもう仕方が無いと言う事だって。父さんもいつか…それを聞かされたんじゃ無い!?」
父さんは黙り込んでしまうが、と言う事はやはり父さんは北の近郊都市での犠牲については何処かで聞いたのだろう。
そして、それ故に再開発を渋っている。
思い出の地を、彼等が自分を恨んでいるのではと想像してずっと足踏みをしていると想像して何も出来ない。
「でもね。北の近郊都市で犠牲になった人達は皆父さん達に前を向いて生きて欲しいと思って居るんだよ。新しい人達が住んであの街がまた活気に包まれてくれればそれだけで幸せだと思うよ。あの樹もきっとそんな活気に満ちた街を見たいんだって思うんだ。だからこそあの樹は街の人達を成仏させたいと願ってエネルギーを使ったんだと思うから」
「本当にそれを望んでいるのだろうか?」
「望んでいるよ。色々教えてくれたよ。師匠が寂しがり屋の泣き虫だって事も、サクトさんは昔男勝りの性格をしていたって事もね。あの人達は皆言っていた。「あの三人に幸せになって欲しい」って」
「幸せだと思っている。だからこそ幸せだと感じる度に何度も感じる。自分がそれで良いのだろうかという疑問。幸せになっても良いのだろうかという想いが…」
重すぎる想い。
父さんは「幸せ」だと感じる度に感じる「罪悪感」に苛まれて生きてきたのだろう。
自分が進みたい進路を進めば進むほどに感じる周囲への罪の意識、この世界の母さんに産まれるはずだったこの世界の俺に、北の近郊都市の人達だけじゃ無い、師匠のご両親や兄弟だってそうなんだろう。
気楽そうに生きているだけで内心では後悔ばかり抱いている。
何度も何度も考えていたのだろう。
「良いんだよ。師匠だって気負いすぎだって。その人達を想っていればそれ以上は必要ないと思うけどな。だって死んだ人を想っていれば、忘れないでいればきっとその人は本当の意味で死んだわけじゃ無いと思うし」
「そうか? 死んだ人は死んだ人だろう?」
「思い出せば逢えるよ。辛い事かも知れないけど、生きるって辛い事の連続だよ。俺達は辛い事と幸せな事を求めて生きるんだと思う。でもそれを俺に教えてくれたのも、辛いときに俺に生きる場所を与えてくれたのは父さんなんだよ?」
俺がこの世界に来た寂しかったとき、まだ父さんが父さんだと知る前この人は俺に生きる場所とその為の人達を用意してくれた。
「父さんなんでしょう? 勿論そこには師匠やサクトさんの願いがあったとはいえ、俺にレクターを紹介してくれた。ジュリに出会えて、レクターに出会えたのは間違いなく父さんのお陰なんだ」
「お前に出会えて俺は妻に出会えて、娘も出来た。私こそお前に感謝している。あの時お前を拾って良かったと思っている。でもそうだな。いい加減前に進むときなのかも知れないな」
「そうだよ。今度あの人達に会うとき、墓の前で何かを言うことがあるのならその時は師匠やサクトさんと一緒に「幸せだ」っていう言葉なんだって思う。俺は頑張るよ」
俺はベンチから立ち上がり父さんを背にして宣言する。
「俺は師匠を助け出す。そしたら三人であの人達に報告すれば良いよ。あの人達に「自分達は幸せになれた」ってさ。それだけであの人達は幸福になれる」
「………大きくなったな。本当に…あの時寂しそうにしている子供とは思えないほどだ。成長する我が子を見て居る気持ちはこんな感じなのかも知れないな」




