貴方を取り戻す 5
俺はその場で詳しく話を聞いてみると色々な背景が分かってきたのだが、要するに元々何故父さんがそんな事をレクターにさせ、レクターはそんな軍からのひっそりとしたバイトをし始めたのかと言えば、実は二人の関係は俺と父さんが出会う前からだそうだ。
というよりはレクターは所謂ガイノス帝国軍オタクと言っても良いほどで、将軍クラスの名前や戦争中に有名になった人などは絶対に覚えていたそうだ。
そういう流れで、ジュリとは違う理由だったが父さんの事は知っていたそうだが、それが知り合いレベルにまで辿り着いた理由、それはレクターがお小遣いで魔導機を買おうとした際の出来事だったそう。
レクターは士官学校に入る前から魔導機を買おうとお小遣いを貯めてショップを訪れたそうだが、そこで出会ったのが父さんだったそうだが、父さんはその当時自分でメンテナンスはしていたはずだが、では何故父さんがショップを訪れたのかと言えば、レクター曰く「最新のメモリー発掘」だったそうだ。
魔導機は機能を『メモリー』と呼ばれる結晶体で売りさばいており、それを記憶させることで使える能力が増えるのだが、父さんは珍しい機能が無いかどうかで見に来ていたそうだ。
そこは基本コミュニケーション能力が上限突破しているレクターは躊躇すること無く話し掛けていった。
「こんにちは! 俺憧れているんです!」
「? なんだお前…子供? ここは小学生が来る場所じゃ…小学生だよな? 背も低いし…でもここは…」
父さんの当時の困惑も分からない事じゃ無いのだが、何せ魔導機は本来は士官学校でも無いと中学生でも通信機器以外の目的で所有しないし、それ以上に訪れた店は軍のマニアの御用達のコアな店だったそうだ。
俺もレクターに案内されたお店だったので知っているのだが、取り扱っている結晶体も基本は戦闘向けやら潜入ミッション向けやら軍を意識した内容になっている。
と言うかこいつ小学生のしかも低学年だった当時から知っていたのか…頭おかしいんじゃ無いか?
でだ、結果的に父さんはレクターを追い出そうとしたらしい。
俺達は此所で父さんの真っ当な行動に関心してしまった。
で、そこで大人しく帰るレクターじゃ無いが、流石に店の店長も小学生に売ることだけは躊躇したようだが、レクターは買うまで引かなかったそうだ。
店長が父さんを見て考えたのは「アベルが納得すること」という意味の分からないないと父さん自身は訴えたそうだが、レクターはそこで完全に魔導機を使い熟したそうだ。
無論それで許可を出す父さんでは無い。
しかし、レクターが引かないことは見れば分かったからこそ、父さんは師匠やサクトさんと電話で相談し妥協点を見つけ出した。
話を詳しく聞いた二人は直ぐに駆けつけてきたが、同時にレクターの底知れない才能に驚きを隠せなかったのだ。
魔導機なんて雑誌で書かれている以上の内容を知らない小学生低学年の子供が、完璧に魔導機を使い熟し、その上見様見真似ではあるが武術も使い熟している。
明らかに小学生というレベルじゃ無かったそうだ。
その時三人は真剣に話し合い考えた結果やはり今は早すぎると言うことで、レクターに納得するしか無い嘘とその代わりの代償を自分達が背負えば良いという内容になり、その内容が「父さんが面倒を最低限は見る」だったそうだ。
父さん自身はまるで納得が出来なかったが、師匠の「お前が説得できていれば問題は無かった」という冷たい一言に怯んだ。
そこで父さんはレクターに魔導機を扱う上で大切な事を説く為定期的な勉強会と小さい仕事を手伝う代わりに魔導機を使わせるという約束をした。
その代わり今持っているお小遣いで魔導機を買わないという約束をし、中学に進学したときに父さんが魔導機をプレゼントした。
と言う事は父さんはレクターと事前に知り合っており、下手をすれば俺が士官学校に行くときにレクターに事前に俺への配慮を頼んでいた可能性があるかも知れない。
そう思って聞いたが、俺の話を聞いたそうだが何か頼まれていたわけじゃ無いとハッキリと答えた。
「ソラの話聞いたよ。引き取った子が居て、その子を士官学校に通わせることにしたって。仕事を手伝いながらそんな事を聞いたから興味がでただけ。だって異世界から来た人間なんて面白そうじゃん」
「そんな理由で人に話し掛けたのですか? 貴方…失礼すぎるでしょう。まあそれをおくびにも口に出さない辺りだけは評価しても良いかもしれませんが」
「でもそれって…」
アンヌが考え込むような素振りを見せ、ジュリも何か思うところがあったようだが、俺も何となくその裏事情が分かった。
問題にならないことを考えれば、それが「父さんの作戦」だったのか「師匠達の作戦」だったのかである。
当時と言えば師匠が俺に酷いことをして苦手意識が生まれた時期だろうし、考えてみれば師匠なりの配慮があったのかもしれない。
それを遠回しに父さんからの配慮にする辺りが師匠らしいとは言えるが、まあ分かりにくいな。
だから確信が持てないと思い俺はこっそりスマフォを取り出し、レクターがケビンと馬鹿な言い争いをして居る間にサクトさんにこっそりメッセージを送った。
『サクトさん。聞きたいことがあります』
『何? 教えられる範囲なら答えるけど。それよりどうなったの? 先にそっちを教えて頂戴』
俺は一瞬何を言われているのか分からなかったが、エネルギー集めの話だと思い至り、俺はメッセージを送ることにした。
『上手くいきました。手伝ってくれてありがとうございます』
『なら良いのよ。で? 何? まだ困って事でも起きた? 私帰れそうに無いから困っているんだけど』
『実は俺がレクターと出会った時の話をレクターから聞いたんですけど、もしかして師匠が裏から仕込んだんですか?』
『そうね。その通りよ。当時ソラ君を恐怖させてしまったという負い目があったからじゃないかしら。あれで律儀なところがあるから。貴方を一人にしたくないってあの子自身の境遇も相まってそうおもったのよ。あの子…学生時代にアベル君が居て良かったと影でずっと呟いていたから』
『寂しがり屋でしたっけ? 北の近郊都市での一件で知りましたけど』
『ええ。そうよ。小さい頃は本当に良く泣いていたわ。でもご両親が亡くなって、ご兄弟が皆死んで無理しているんだって私もアベル君も分かっていたけど、話してくれない限り力にも慣れないしね。それでも奥さんと居る間は本当に楽しそうにしていたな』
サクトさんの内容を見る限り師匠を知っている人は皆彼が『寂しがり屋』だと知っていたようだし、俺が知っているあの人の姿なんてそれこそ一部分なんだろう。
見栄かも知れない。
あの人なりに俺に対してや海に対して見栄を張りたいという気持ちがあったのだろうし、それ以上に他人に余計な心配をかけたくないという気持ちはあったはず。
俺だって昔はそんな感じだったのかも知れないが、なんか隠し事をしたりして居る方が皆に心配されると分かりだした。
「レクターを見て居ると皆に黙っている方が馬鹿馬鹿しく感じるんだよな…ふぅ困った物だ」
「俺今褒められてる? それとも貶される? なんか最近皆から酷いこと言われるから分からなくなったよ」
「照れ屋と言うことで手を打とう。師匠は照れ屋だったんだ。間違いない」
「貴方…それバレたら怒られませんか?」
「甘んじて受けよう。久方ぶりの説教なんだと、その時はきっとレクターも一緒だ」
「巻き込まれた!? 嘘でしょう!?」




