北の近郊都市 9
成仏していく北の近郊都市の人達を見届けた後で、俺達は帝城へと向う為に帝都に向って歩いて行くと、出入り口へとブライト達が駆け寄ってくる。
どうしてこんな場所にいるのかがイマイチ分からない中、更に後ろの人達の群れの中からアンヌが歩きながら現れた。
ブライトとアカシが俺の懐に力一杯ぶつかってくるが、そこは流石に小さい体故にさほど威力は無かった。
ジュリがアカシの頭を優しく撫でるとアカシはどこか気持ちよさそうにしており、俺はブライトの頭を投げてやる。
よく見るとアンヌに連れられるようにアクアがいることに気が付いた。
「パパ! 用事は終わったの?」
「ああ。それよりどうしてこんな所に? 俺達が北の近郊都市にいるって知っていたのか?」
「ええ。実は軍の人達からソラさん達が北の近郊都市に居ると聞いてここに駆けつけてきたんです。実は政府からソラさん達に報告があって。儀式を午後の三時にずらしたいと」
「え? どうしてですか? 何かトラブルが?」
「はい。それが未確認の膨大なエネルギーが集まってきてコントロールが大変になったから、儀式を少し強化したいとのことで、流石に儀式の日取りを伸ばすことはしないので、あくまでも午後まで静かにしておいて欲しいと」
「ああ…俺達がエネルギーを解放して回ったから儀式に影響があったか…まあ良いんじゃ無いか? 明日になるとかなら少し考えるけど。少しゆっくりしたいな。何処かで昼食を…と想ったけどまだ九時?」
「うん。だからパパ! ママ! どこかで遊ぼう! ずっとお留守番していて暇だったもん。でも…なんでエアロードさんとシャドウバイヤさんが居るの?」
「まあ…そこは疑問を持つよね」
海がそんな事を言うがこればかりは「確かに」と言うしか無いが、俺は素直に「勝手にやって来た」と言うのだが、エアロードだけは無駄に胸を張ろうとする。
とは言っても時間的に遊園地なんかに行く訳にもいかないし、今現在遊びに植えているアクアやブライトやアカシを大人しくさせるのにその辺の公園で日向ぼっこなんて許すわけが無い。
となると何処かに遊びに行くしか無いが、デパートやショッピングモールなんて楽しくなるとは今更思えない。
そして困り果てる俺達。
「何処に行く? 俺は特に行きたい場所は無いから任せるよ。ほら…レクター辺りは生きた居場所ないのか?」
「え!? 言っても良いの!?」
「あっ! やっぱ無理。ご免黙って」
「発言を封じられた…冗談なのに! まあ…無いけど! 皆に任せる!」
「だと思いました。なら何故発言するのですか? 黙っていれば良いのに。アクア達が遊びたいのですか?」
「うん!」
「ですがこの場合ソラは体力をあまり使わない方が良いですよね? この後もう一戦残っている訳ですから」
「パパ…駄目?」
「ん? 別に良いけど? まさか元気一杯に振り回すわけじゃ無いだろうし。その場合は無尽蔵の体力を持っているレクターが相手をするからさ。最悪エアロードとシャドウバイヤのダイエットも兼ねて動いて貰うよ。俺とジュリは後ろで子供を見守る親の目線でいることにしよう。さあ! 好きな事を言うんだ! レクターが相手をして、変なことをしたらケビンが制裁を加えるから」
「レクターが顔面蒼白でガクガクと震えていますよ…」
海の指摘通りレクターはガクガクと震えており俺はそんなレクターを完全無視して改めて笑顔をアクア達に向けて聞いてみた。
俺は関係の無い話だしな。
どうせこの後にレクターの活躍は無い訳だし、このままアクア達の相手でもして貰った方が有意義な活用方法であると言えるだろう。
アクア達はそう聞かれてしまって本当に悩み始めたが、するとアクアは何かを思いついたようでジュリに耳打ちするとジュリは「良いね」と微笑んでアクアの右手を掴んで歩き出した。
まあ行くところが決ったのなら一緒に進んで行くしか無い。
楽しそうに歩いているアクア達を見て居ると正直疲れなんてあっという間に吹っ飛んでしまうが、アンヌが何かを懸念しているようで「大丈夫ですか?」と聞いてきた。
一体何を心配して居るのか全く分からないのだが。
「いえ…ですからこの後もう一戦あると言っていたじゃ無いですか? 体力などは大丈夫ですか? 場所によっては疲れるんじゃ」
「その場合はレクターに全部背負わせるから大丈夫だよ。俺自身は一歩下がって大人しくしている事にするよ」
「ソラが最近俺の体力が本当に無尽蔵だって思っている節がある…期待が重い」
「期待はしていないと思いますけどね。ただ単に貴方を良いように利用しているだけでしょ? どうせ暇なのですから名一杯遊べば良いのです」
「皆俺の扱い酷くない!? 俺ここ最近そこまで酷いことを…」
「した。結構した。お前は普段から酷いことをしているという自覚を持った方が良い。しかし、まだ九時か…北の近郊都市での一件は意外と早く終わったな。まあ戦闘面で苦戦したわけじゃ無いからな」
「そうですね。話が多少長くは成りましたが優位意義な時間でしたね。どの国にもあんな街や人達があると思うと少しばかり辛いですが…」
「どんな事があったのですか?」
アンヌが気になってしまった事を訪ねてきたので、俺達で簡単にでは在るが話すとアンヌは北の近郊都市での一件に心苦しい気持ちを抱いたようだった。
まあ、そんな話を聞いてケロリとしているのは多分レクターだけだ。
こいつ本当に全く気にしないあまりか話を聞いていても眉一つ動かさなかったのだ。
真面目に全く気にしていない感じがあったので、俺はレクターに「北の近郊都市の話を聞いた感想を聞こうか?」と訪ねた。
「え? まあ…可哀想かな? ぐらいかな…」
「あの話を聞いて抱いた想いがそれですか? 本当に話を聞いても全く心動かなかったのですね? エアロード達が黙っていたのは別の理由でしょうが、貴方は冷たすぎるでしょうに」
「エアロードとシャドウバイヤとオールバーが黙っていたのは人間の話だからだろう?」
「まあな。我々の様な竜からすればお前達人間の話はよく分からないし、理解しようとも思わない。あくまでもその辺に一線は引くつもりだ。エアロードはただ単に理解しようとしていないだけだが。私とオールバーはその辺には一線を引くつもりだ」
「私を世界で一番の馬鹿のように! 信じられん!」
「竜一の馬鹿なら世界で一番の馬鹿と言われても別におかしくないだろう?」
俺の意見に黙り込むエアロード、こいつはどうにもズレているような気がして成らない。
「竜は俺達人間とは違ってそういう考え方が無いんだろう? 何というか…同族が酷い目に遭っていてもあまり可哀想だと思う気持ちが薄い。全く無いわけじゃないんだろうけれど。それに人間社会に対してそこまで深入りしないというのはあるはずだ」
「前任の聖竜が正直関わりすぎているんだ。あれがおかしい。シャドウバイヤやエアロードや私のようにパートナーしてぐらいで十分だ。人間社会の事は人間に全て任せるつもりだ。犬の社会や猫の社会に関わってもどうしようもないだろう?」
「まあな…所詮は仕組みが違う社会構成だ。俺達が何かをしていてもまるで他の生き物には理解出来ないし、他の生き物の社会構成も理解しても仕方が無いだろしな」
「そうですね。レクターの社会構成を理解しても社会になんの役にも立ちませんし」
「今俺単体を別の種族として扱った!?」
「え? 貴方はレクターという生き物でしょう? 哺乳類では無くレクターでしょう?」
割と酷いことを言うケビンだった。




