北の近郊都市 4
この燃えさかる北の近郊都市でエネルギーの居場所を探し出さないといけないのだが、正直に言って今までのパターンとは少々違ってくると思うと、これはこれで簡単にはいかないだろう事は想像に難くない。
とりあえずエネルギーの反応が強い方向に向って歩いて行く事にしたら、そこは今では集合墓地がある場所だった。
俺達は集合墓地がある場所は昔は見晴らしの良い丘でしかないと言う事が分かったが、そこに植えられている大きな木に絡め取られている。
流石に木を切り裂いて取り除くわけにも行かないと思っていると、レクターが殴って取り出そうとしているのが見えて全員で必死で止めた。
こいつこんな時ですらもこいつは脳筋で解決しようとするのか、別の解決方法を探し出して欲しいものだ。
「止めろ。止めろ。お前は脳筋じゃ無いと解決できないのか? 少しは考えて行動しようと試みろ。今までのパターンを照らし合わせればなにか取り出せる条件があるはずだ」
「そうです。どうして貴方は直ぐ力で解決しようと試みるのですか? とりあえずこの足下に伸びている根っこを辿っていきませんか?」
「ですね。今までのように鎖があるわけでもありませんし…それしかなさそうですね」
「根っこは全部で三方向に伸びていますね。北から時計回りで回っていきますか」
海の提案通りに北から時計回りに順番で回っていくとし、根っこが鎖より分かりづらいのだが、それで探しながら歩いて行く事は可能だったので俺達はなんとか根っこが続いている建物まで辿り着いた。
燃えさかる建物が沢山在る場所で、数少ない燃えていない建物だったのだが、そのドアへと根っこはしっかり伸びている。
俺は代表してドアノブに手を伸ばし、ドアノブを捻ってドアをゆっくりと開けるのだが、眩い光で一瞬だけ視界が塞がった。
光が止んで俺達の視界には山賊に見える兵士達が幼い女の子と母親らしき女性を殺している瞬間であり、俺達の足下には父親らしき男性の死体が転がっている所を目撃してしまった。
それを一瞬だけ見て俺の中にある怒りの沸点が一気に限界を突破し、俺は異能殺しの剣を握りしめていた。
例えこれが記憶の中の出来事だと分かっていても、俺はこの光景を無視できないし何よりこんな光景を見て怒りがわき上がらないわけが無い。
俺は「ふざけるな!」と駆け出して行き兵士の首を切り落としてしまうが、兵士の体が足下から崩れていき最後にはヘドロ状へと変貌するが、変貌したヘドロは再び兵士の形へと変形していく。
俺の背中から襲い掛ってくるが、俺はそれを異能殺しの剣で受止めてレクターの攻撃へと繋げる。
やはりヘドロ状では致命傷を与えるのも難しいが、こういう的の場合は必ず何処かに操っているコアと呼ぶべき部分が存在しており、それさけ破壊すれば確実に攻略できる。
ケビンが青い光線を浴びせて体を凍り付かせた所でジュリが魔導機は粉々にしてしまう。
すると、そんな中に黒い小さい球体を発見したレクターが破壊した。
「これが記憶とは言え良い感じはしませんね。女性の近くに山賊風の兵士ですか…嫌な予感しかしませんしあまり考えたく在りませんね」
「まあ、まあいかにもいやらしい顔つきをしていたら間違いないでしょ」
「レクターでもしそうな気がしますが?」
「しないよ…流石にそれぐらいの常識はあるつもりですが?」
「はいはい。そこで言い争いをしない」
俺が目の前で拍手して気持ちを切り替えようとすると、ケビンが顔面蒼白な状態で俺をジッと見つめてくるので俺は「何?」と聞き返す。
ケビンだけじゃ無いジュリも顔面蒼白状態なのだが、一体全体何事なのかと思って後ろを見てみるとそこには血だらけの女の子と母親が立ち尽くしていた。
おお…これぞホラーという事なのか?
「ありがとう。これで成仏できる」
「でも、私達を思うあまりこの場所に拘らないでください。アベル叔父さんにもそう伝えてください。あの人は私達の事を想うあまりこの場所に拘ろうとしているから」
「え? どういう意味ですか? 貴方達は何を知っているんですか?」
「よく…ソラは話せますね?」
「でもさ…ソラはともかく二人の後ろに血だらけの男性が立っているんだけど?」
レクターの一言に悲鳴を上げながら俺の後ろに隠れるケビンとジュリ、俺は二人に「失礼だぞ」とハッキリ告げると、男性も女の子も母親も「気にしないでください」と微笑む。
死人とは言え見た目だけで悲鳴を上げられたら流石に失礼だと思う。
「それで? 師匠…アベルさんがこの場所に拘ろうとしているってどういう意味ですか?」
「そうですね。皆さんはアベルさんがどういう性格かご存じですか?」
「そうは言われてもな…ガサツ?」
「レクターはレクターで失礼ですよね。僕のイメージは「繊細」で「逃げ癖がある」人かな」
「そうですね。基本強い方ではありません。この北の近郊都市出身者なら皆知っていることです。それこそ泣き虫でこそ在りませんが、精神的には脆く、辛い事や嫌な事からは目を背ける傾向があり、そのくせ本当に辛い事からは絶対に逃げ出さない。だからこの場所に来ることは嫌がるのにこの場所を手放すことは絶対にしない。北の近郊都市の再開発計画はずっと前からあるのです」
「え? そうなんですか?」
「はい。この場所に眠る者として、実は何人もの役人がこの場所の下見をしていましたが、どの誰もが上手くはいきませんでした。その理由がこの地唯一の生き残りであるアベル叔父さんが嫌がっているからなのです」
「父さん…」
「アックス・ガーランドは泣き虫で良く北の近郊都市に遊びに来てはアベルやサクトに虐められそうになっては泣いていましたね。一番弱いのはアックス・ガーランドでしたし…ですが端からみれば楽しそうに見えましたが、でも…戦争が始ってから三人の関係が次第に変わっていきました」
「この北の近郊都市が滅んだ事もそうですし、アックス・ガーランドのご両親がご兄弟が死んだ事も、様々な事が変わっていき彼等は「大人になるしか無い」という気持ちと「ただ前に進むしか無い」と己に言い聞かせるしか無かったのです」
辛い事や悲しい事から目を背けつつそれでも逃げる事無く現実からだけ逃げるようにひたすら前へと進んでいくことを選んだ二人、そんな二人を見ていたサクトさんは一体何を考えて見て居たのだろう。
「変わらないのは彼女…サクトだけ。でも、そんな二人が常に不幸と向き合えないまま生きていく姿は彼女を常に苦しめていたはず。此所にやってくる度に私達に悩みを打ち明けていた。アックス・ガーランドは自らの夢や家族から目を背けて行き、ひたすら任務のことだけを考えて誰かを救うことに慢心する。これはただ失った家族の事を思い出し家族に依存すれば思い出して辛いから逃げる。夢を追いたいが一族としての在り方が許さない。だから逃げたいのに逃げない。アベルも同じ事。あの子もこの場所が辛いから目を背けて生きるけど、その代わり家族を名一杯愛し、その同時にこの場所から遠ざかろうとするのに、でもいざとなると見捨てることが出来ない」
不器用な生き方だと思うし、実際ケビンも話を聞いていて小声で「何処まで不器用に生きれば良いのですか?」と突っ込んでいる。
辛い事や悲しい事が連鎖的に起きた二人だからこそ、そういう不器用な生き方しか出来ないのだろう。
逃げれば解決するかも知れないことでも、違う道を選べば楽になれるかもしれない道でも、敢えて意味の無い過酷さを目指そうとする。
分かる。
分かってしまうが…それはきっと。




