北の近郊都市 2
お店から出た俺達はそのまま空港近くのホテルへと入り、そのまま早めに就寝しようという話になり、俺は自分の部屋にエアロードとシャドウバイヤを連れて入って行き、二人には右隣のベットを与えて俺はシャワーを軽く浴びてからベットにダイブした。
ベットのフカフカ具合に直ぐに眠気がやって来てそのまま眠りにつくことが出来、朝まで誰一人邪魔されず寝ることが出来たのだが、俺の眼前に別のベットに寝ていたはずのエアロードが大口を開けて涎を垂らしながら寝ている間抜け顔を見せられて不機嫌になる。
なんで俺の寝ているベットにこいつは入っているんだ?
起こそうと思ったが時計を見てまだ三十分は寝ているられると考えて俺は敢えて放置、そのまま洗面所で顔を洗ってから大人しく着替えを済ませ、そこでようやくエアロードとシャドウバイヤを起こして部屋から出て行く。
今日の昼頃までには戻らないといけないのでいい加減動かないと本当に間に合わないわけだ。
二人を連れて下まで降りた所でエアロードとシャドウバイヤとレクターが「朝飯は?」と訪ねるのだが、俺は「そんな時間は無いから適当に買って適当に食べろ」と命令して歩き出す。
空港に着いて前の日に使った飛空挺を直ぐに使える状態に持っていくのに少しだけ時間が掛かると言われたので、コンビニで適当な朝飯を買ってベンチで食べることにした。
「これで近郊都市巡りも終わりですか。最後は簡単だと良いですね。何回も何回も戦う羽目にならないと良いですね」
「フラグになりそうだから言わないでくれ。それを言われるとマジで起きそうな気がするからさ。マジで疲れた状態で儀式に向うのは出来れば止めたい」
「でも、今までのパターンを考えればそうなりますよね」
「海まで…ハァ。儀式を確実にするためにも此所で引くわけにはいかないんだ。でも…行く途中すら神経を研ぎ澄ましたくない」
「では話題を変えますか。四月になったら貴方達は進級するわけですが、少しは勉強をしているんですか?」
「俺と海とジュリは大丈夫だよ。レクターは知らないけど」
「フガフガ!」
「何です? 馬鹿にでもなりましたか?」
「罵倒の言葉のキレが全く衰える事を知らないな。でも心配が無いわけじゃないから出来る事なら今回の儀式を終えたら大人しく勉強しようか…」
「そうだね。私の場合筆記が二回あるから」
「ですがジュリの性格を考えれば基本勉強で困る事は無いのでは? 私は貴女が困るところを想像出来ませんが」
「大丈夫だよ。俺も出来ないからさ。ジュリは心配性だな。レクタークラスならともかく、ジュリクラスなら慢心しないで当時に真剣に挑めば百パーセント合格できる」
「レクターが泣いていますよ。いい加減レクター虐めは止めませんか?」
「海は優しいですね。この女心をまるで理解しない戦闘狂の事を。ですが、海はどうなのですか? ソラもあまり頭が良いという話を聞きませんが」
「馬鹿だと思われたら困る。流石に苦手じゃ無いけどジュリクラスと比べられると流石に下だと言わないといけないかな」
「僕も平均点よりは上としか言えないですね。実技自体は上位ですけど」
「レクターは…聞かなくても良いですね」
「聞いてよ! 確かに苦手だけど!」
「でしたら聞かなくて良いでしょうに。どうせ夏休みの宿題も最終日で纏めてやるのでしょう?」
「何故分かる!?」
分からないと本気で思っているのか、それとも冗談だと思っているのか答えを教えて欲しい。
レクターはマジで最終日まで手を付けないのだから困ったもので、去年も最終日に俺の家までやって来たのを覚えている。
帝国立士官学校の夏休みの宿題は結構量が多く、冬休みに宿題を出さない分その辺の学校の二倍から三倍ぐらいの量がある。
それをこいつ最終日に終わらせようと試みるのだからたまったものじゃない。
それに結局でジュリを巻き込んだメンバーで解決するのだから、夏休みの宿題の意味がない気がする。
本来夏休みの宿題とは個人で終わらせるためにあるもので、誰かに手伝って終わらせるためにあるわけじゃ無い。
「高校二年生になってなおお前が夏休みの宿題をギリギリで終わらせようと考えているんならレクターという人間との付き合い方を少しばかり考える必要性が出てくるぞ」
「………見限らないでください」
「だったらせめて一日一日目標を持ってやったらどうですか?」
「無理。カレンダーとか基本真っ白だし。スケジュールなんてたてて何か意味あんの?」
「一般人はありますね。少なくとも一般人はですが…貴方は一般人の枠には捕らわれないので」
「そっか! なるほど…」
本当に馬鹿だな…分かっていたことだけど、どう育ったらそんな風に育つことが出来るのかがまるで分からない。
親御さんは普通の性格だったはずだし、弟や妹も別段異常な性格では無かったはずだが、本当にレクターだけが特別変異と言える。
「学生時代で学ぶことの大半なんて役に立たないじゃん」
「それは進む進路次第でしょうに。それに以外と勉強してこなかった事は後々に後悔するらしいですよ。私の同級生の中にもレクターのような感じの人が居ましたけど、後から後から勉強することが多くて困ると」
「らしいぞ。軍に入ってあれこそ勉強しないといけない時にお前が困ってもその時は助けられないぞ」
「勉強する癖は付けた方が良いですよ」
「ジュリ…」
「私も皆に一票」
「誰も俺の味方がいない!!」
俺は水を飲んで最後のサンドイッチを食べてから「ふう」と息を漏らしてから飛空挺の方を見ると、急いで出発の準備をしている姿がみえた。
もう少し時間が掛かりそうだ。
「そんな話より奈美の話をしよう!」
「急な話題転換ですね。で? 何の話なのですか?」
「奈美って去年「士官学校に行きたい」って言っていたけど諦めたの?」
「いや…そう言えば最近は聞かないな。諦めたのか? まあ騒いでも母さんもそればかりは流石に父さんと同じ意見のようだし。まあ奈美が士官学校に行きたい理由が海だからな~」
「え? そうなんですか? 僕は知りませんでしたけど…」
「母さんも父さんも奈美にはお淑やかにして欲しいと思っているんだろう? 俺には出来るとはあまり思えないけど。おてんば娘という言葉が似合う奴だし」
「酷いことを言いますね。まあでも大人しくしている方では無いでしょうけど…あの歌姫の…イリーナ? でしたか? 彼女はどうなのですか?」
「? 女学院じゃ無かったけ? それとも学校に通っていないのか? いや、女学院だったはずだが、基本は歌手活動を優先しているはずだ」
「女学院だって聞いたけど。そう言えばソラ君は知っていたっけ? 女学院と士官学校は実は姉妹校って話し」
初めて聞いたな。
「と言うのもこの両校はそれぞれ皇族が入学する学校だから。皇女は女学院で皇太子は士官学校で学ぶことが義務づけられているの。まあ、第一皇太子と第二皇太子はもう既に卒業しているからね。ソラ君が知らなくても仕方ないかな」
「皇族って私は良く分からないのですが、忙しい者なのですか?」
「そうですよ。基本は子供のうちから皇族としての責務で色々と彼方此方移動させられると聞きますし。勿論危険なところに連れて行くわけじゃ無いですけど」
「まあ連れて行っても異能で危ないことから無縁で居られるんだから意味があるとは思えないけどな。それが異能な訳だし」
「そういう話でしたね…それって少し寂しい気がしますけど。なんと言いますか周囲の人達が危ない橋を渡っている中で自分だけ安全圏に居ると言うのは」
ケビンが少しだけだが寂しそうな顔をしていた。




