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東の近郊都市 9

 ジュリが何を思いついたような顔をした一秒後に直ぐに真顔に戻るのを見て、俺はジュリに「何?」と聞いたのだが苦笑いを浮かべながら「何でも無いよ」と言い返した。

 この場合のジュリの「何でも無い」は二種類あり、一つは本当にどうでも良いことをも居着いた事と、もう一つは嫌な事を思いついたの二種類である。

 この場合何らかの嫌な事を思いついたのだろうが、俺達に説明しないと言うことは単純に都合が悪いからだろう…俺達がでは無く自分がである。

 どのみち最後の部屋へと入れば分かるだろうと思って俺は最後のドアに手を掛けて中へと入るためにドアを開けると、そこはまるで奴隷達が暮らすような場所となっていた。

 カジノというイメージからほど遠い場所だと思い流石に絶句する俺達、そんな中ジュリが「やっぱり…」と呟いた。

 そしてジュリは語る…東の近郊都市の裏の事情を。


「この東の近郊都市が元々娯楽都市と呼ばれる前の名前は『奴隷の街』だったの。その名の通り奴隷達が集まって暮らすためにある街で、その中で風俗店などで体を使って支払い解放して貰う。女も男も関係なく此所で体を使って返す。でも返しきった人が居るという話を私は聞いた事が無い。そうした中で奴隷達を使った所謂ゲームが貴族達の間で始った。それがカジノ前身であるコロセウム。闘技場。魔物や肉食動物と奴隷を戦わせて、勝てば賞金で借金などを減らすことが出来る」

「……やはりそういう文化は何処にでもあるんですね」

「はい。でもその奴隷達の殆どは借金が理由で来るわけじゃ無いんですよ」

「どういう意味ですか?」

「俺は分かるよ。借金で此所に送られてくるほど当時貴族に金を借りる人が居るとは思えないし、貴族の中にはそういうことに慎重な人も多いはずだ。なら理由は一つしか無い。戦争の敗戦国の兵士や軍のトップだろう?」

「うん。流石ソラ君だね。だから返すも何もお金なんて借りていないから死ぬまで此所で働くの。でも、全員が此所で戦わされる訳じゃ無く、質の悪い貴族の中には風俗店で敢えて働かせてプライドをへし折ろうとするの」

「本当に質が悪いですね…元貴族の中でも一部なのでしょうけれど…そう言った貴族は?」

「貴族内紛の時に貴族派として戦ったよ。平民派の貴族は「貴族らしくない」と嫌がったと聞いたな。だろう? ジュリ」

「うん。ガーランド家なんかはその一つだったから。そういう理由もあって当時から貴族の一部はやっぱり毛嫌いされていたんだよね。貴族内紛は事実上貴族同士の戦いだったから。最後は皇帝陛下の恩恵を受けた平民派が勝った形かな」

「そうなのですか…元奴隷の街。だからこそ最後にこんな場所が…」


 元東の近郊都市の姿、石で出来た村と行っても良い場所だが、よく見ると少し遠く等には明るい場所も見えてくる。

 貴族が暮らす場所が明るく高く見えるのだが、これは単純な高低差故なのだろうか?

 いや…そんな訳がない。


「あの明るい場所が貴族が住んでいる場所ですか? 再現とは言え凄いですね。ですが…やけに高い気がしますけど」

「気のせいじゃ無いだろう。貴族は奴隷達が住んでいる場所と同じじゃ無いという意識の表れだろう」

「嫌ですね。それって単純に人を見下していたんでしょうし」

「でもだからって言っても同情もされたくないんじゃ無いかな? 惨めに見えるだけだろうし。だからこそ平民派の貴族も敢えて手出しもしなかったのかな?」

「かも知れないね。その後平民派の貴族が貴族内紛を終結させた後、奴隷達が集まって今のカジノを作ったって聞いたから。敢えてその辺も貴族は手を出さなかったっと」


 彼等は当時この上にある貴族達の世界を恨んでいたのかも知れないが、同時に見上げて辿り着きたい場所でも会ったのかも知れない。

 見上げてもたどり着けない場所。

 そして、俺の目の前には一人のボロ布を身に纏ったボロボロの中年男性が立ち尽くしており、髪の毛は白髪交じりのふけだらけである。

 正直に言えば汚いの一言であるが、同時にその瞳に宿しているのは強い意志の炎であった。


「あれが最後の相手ですかね?」

「だろうな…それ以外に対象が居ないわけだし。俺と海とレクターが前衛、残りは後ろに居てくれ…」


 俺と海とレクターが代表して対象の動きに注視しながら近付いていくと男はボロボロの口をゆっくりと開き始めた。


「貴族の何が偉いんだ? 俺の奥さんも…娘も奪って…戦いの中で殺すならともかく生かされて…プライドも奪われて…そんな俺達がへこへこしている姿を見て楽しそうに…」

「聞いただけでも反吐が出そうだな…本当にそういう奴らが共和国を作ったんだと思うと潰れて良かったよ」

「ガイノス帝国なんて絶対に許せない…潰してやる…」

「怨霊の類いですか? 私苦手なんですけど…男子衆だけでなんとかしなさいよね」

「こういう時にケビンが安定して役に立たないな…」


 俺達男子衆の苦情に対してケビンは聞かないフリをする事にしたらしく、鼻で「フン」と言いながら顔を背けると、男は憎悪の表情を全開にして俺達を睨み付ける。

 この中で元貴族の一家は海ぐらいなんだけど、て言うか海でも小さい頃からそういう風に育てられている訳じゃ無いから俺達マジで関係ないけどな。

 でもそんな説明しても理解してくれそうにない。


「殺してやる。殺してやる! 絶対に殺してやる!! 許してやるものか…俺達から家族を、仲間を、親友を、大切なもの全てを奪い取った奴ら全部」

「それって…自分達も似たことをしてきたんじゃ無いのか?」

「て言っても無駄だと思いますよ。憎悪で僕達を見境無く襲ってきそうですもん」

「ぶっ殺す!!」


 そう言って男はナイフを懐から取り出して俺達の喉元目掛けて刃を向けてくるが、俺はその攻撃を後ろに下がってギリギリで回避し、男の腕を切り裂いて俺は胴体を真っ二つにしていた。

 俺の目の前に倒れてた男を見下すようにすると、ケビンが「あっけないですね」と言って虚勢を張るのだが、俺は男の右手が『ピクン』と動いたのを切っ掛けに男の体が真っ黒なオーラのようなものを宿し始める。


「全員下がれ!」


 俺の指示通りに全員が後ろに下がると男の体から吹き上がった黒いオーラは身を包んで次第に大きくなっていく。

 男はその姿を変貌させて大きくなったそれは狼人間のような姿へと変わり果てた。

 素早く跳躍して俺の喉元へと右手の爪を向け、俺はその攻撃を異能殺しの剣で受止める。


「恨みがエネルギーと結びついたことで変貌した?」

「そうかも…」

「そう考えたら南の近郊都市での一件も理解出来ますから。エネルギーと結びつくから怨霊も不死者並みの力を発揮できるんですよ」

「不死者が「生きたい」という願いを力にしているのに対し、怨霊は『恨み』や『怒り』を原動力にしていると言うことか…厄介だな」


 俺は強めに狼男を弾いて距離を取ろうとするのだが、狼男は一気に距離を詰めてきて俺に向って連続で爪による斬撃攻撃を繰り出してきた。

 俺はその攻撃をギリギリで回避している間にレクターが右側からストレートパンチを叩き込もうとしてくるが、狼男はその攻撃を高くジャンプして攻撃を回避。

 空でクルクルと回転している間に海が雷を纏った一撃を狼男へと向けるが、狼男はその攻撃をまるで空気を足場に変えたように急転換して回避して見せた。

 動きが別次元に成り果てている。


「それだけ恨みが強いって事だよ。多分元々兵士で身体能力が強い中でエネルギーによる増強もあるんだと思う。強い恨みの分だけ身体能力も増えている」


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