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東の近郊都市 7

 このバニースーツのお姉さんがルーレットを動かしているんじゃ無く、ルーレットは特定の条件下の元で動いているのだとようやく分かった。

 対象が死んだ時や攻撃がお姉さんに当たりそうに成った時、要するにお姉さんが対象になりそうな時に限ってルーレットが回っており、恐らくこのルーレットも基本はお姉さんに有利になるようになっているが、同時に連続でルーレットが回るわけではない。

 それが条件なら赤い光線が当たりそうになった時にも反応しても良いはずなのだ。

 なのにあの時には反応しないで今反応したのは一度ルーレットが回ってから次ルーレットが回るまでの間にインターバルが存在している証明だろう。

 なら此所で躊躇していたらきっと勝てなくなると思い俺はジュリをそっと見ると、ジュリも全く同じ答えに辿り着いたのか優しく微笑んだ。


「ここは大丈夫だからソラ君は行って。エアロードとシャドウバイヤが私を護ってくれると思うから」

「そうだな…護らなかったら俺が酷い目に遭わせる」

「そろそろソラが我々に対する態度が酷いと流石に苦情を言いたくなるぞ…護るけども」


 俺がダッシュで接近していくのと同時に海も同じようにダッシュで接近していくのが見えた。

 恐らくは同じ考えに辿り着き、次ルーレットが回るまでに決着を付けるつもりなのだろう。

 ルーレットの上を動いている銀の玉は今度は盾の所に収まり、彼女の目の前には銀色の盾が姿を現し、ケビンの乱射攻撃を防ぎ始めるが、同時に正面の視界を完全に塞いでしまっているこの体勢は俺にとっては有利と言わざる終えない。

 俺は右側から、海は左側から回り込むように移動していると、俺達の視線にバニースーツのお姉さんが姿を現し、お姉さんは俺と海を交互に捕らえてから俺達の動きに注視する。


「海! 行け!」


 と叫びながら俺は異能殺しの剣を握っていない方の左の手を軽く振ると、海は黙って頷いてからお姉さんに接近していくと、お姉さんは海の方を瞬時に捕らえて海の動きに注視するのだが、海はギリギリまで接近していき直前で体を空中に移動させてジャンプ一本で回避する。

 お姉さんは驚きの表情で海の動きを見守るが、俺はその隙に背中から力一杯切り裂いて見せた。

 お姉さんは最後には驚いた顔をしながら「どうして?」と呟きながら倒れてしまう。

 体が光に包まれて消えていく中で俺はまあ答えぐらい教えてあげても良いかもしれないと思って口を開いた。


「俺が行けと良いながら左手を降るという動作自体に『注意を引き付けろ』という意味を持たせていた。俺が『行け』と言いながらも『武器を持っていない手』で降るという行為。コレは走って行きギリギリで回避しろという意味でもある。逆に俺が武器を持っている手を振った場合は攻撃しろになるわけだ」

「前に父さん達が戦争中に編み出したゼスチャーと発言を使ったトリックでしたね。それを父さん達から教えて貰って俺達だけでも使えるようになれって」

「ああ。お陰で騙す事が出来た」


 お姉さんは「とんだイカサマだこと」と言いながら消えていったのだが、未だにレクターはケビンから逃げ回っている。

 流石にこの状況を放置は出来ないので俺はなんとかケビンを大人しくさせ、ジュリは軽めにレクターを説教してくれたのだが、どういうわけかレクターは顔面蒼白状態で「御免なさい」と謝り倒していた。

 一体全体何を言ったのか本当に気になってしまうが、俺はその辺は精神的なアラートが鳴り響いて「聞いてはいけない」と叫んでいるような気がした。

 元のロビーに戻ってきてから俺は今度は南側の道を進み始める。


「今度はカードゲームかね? でも俺トランプを使ったゲームってババ抜きかポーカーぐらいしか…」

「あれ? ダウトは?」

「ああ。やったな…でもあれってあまりトランプ要素が…」

「トランプを使うしトランプゲームだよ。まあ正直あれはポーカーフェイスが試されるもんね。ババ抜きもだけど…」

「あれって無表情を維持する良い訓練だと思うわ」

「トランプゲームなんて大体はイカサマすれば勝てるって」

「その理屈イカサマが出来るゲーム全般で言えることだよな? カジノでイカサマが出来ないゲームってさっきのルーレット?」

「あれはゲームマスター側が出来るからね。単純に掛けをする方は出来ないわけだし。その分トランプゲームはゲーム内容にも寄るけど結構出来るから。出来ないのはディーラーがいるゲームだよね。ポーカーの様にディーラーがカードを分配する場合はディーラーが協力しない限りは出来ないし」

「まあ結局は運勝負になるんだろうな…」

「カジノですか…私はあまり好きじゃ無いんですよね。そもそも賭け事が苦手ですし」

「ケビンさんのイメージ通りだと思いますけど」

「ジュリはどうなの? まあ本来学生が入る場所では無いけど」

「私も賭け事は苦手で…ポーカーフェイスとか全然出来ないんですよ。旅行中にするトランプゲームでも負けっ放しで」

「あれはレクターが小さいイカサマを繰り返すからだ。て言うか旅行中のトランプゲームぐらいイカサマ無しでしたらどうなんだ?」

「ええ…良いじゃん。どうせソラがイーブンに戻すんだからさ」

「戻さないといけないのが嫌なんだよ。お前がイカサマを一回する度に俺がそれをイーブンに戻す事がどれだけ大変なのか理解して欲しい」


 レクターは小さいゲームでも一回一回イカサマをするんだよな…。

 すると俺達の話を聞いて何かが気になったのかケビンが口を開いた。


「どんな時にイカサマをするんですか?」

「そうだな去年の文化祭でクラス事の出し物でさトランプを使ったミニゲームばかりを扱っているクラスが在ったんだけど…レクターの奴大した商品が出るわけでも無いのにワザワザ全部のゲームでイカサマして勝っていたよ。流石に最後の方には皆「こいつイカサマしている」ってバレたんだけど…誰一人見抜けなかったからさ。俺以外」

「あんな単純な出し物する方が悪い」

「どう考えてもイカサマするお前の手癖の悪さの方が一番悪い。と言うか反省しろ」

「ええ…でもさ。イカサマはバレなきゃイカサマじゃ無いって名言もある事だし、イカサマがバレない限りはイカサマじゃ無いなら俺はやっぱりイカサマはしていないんだよ」

「そうか…もう何も言わない。お前がそれで良いのならもう…勝手にしてくれ」


 レクターが「ソラに勝った!」と勝ちどきを上げている最中、皆が白い目でレクターを見て居るのだが、レクター本人は全く気にしている素振りを見せない。

 俺はそのまま歩いて行くとまたしても大きなドアが俺達を待ち構えていた。


「またこの先にもいるのかね…しかし、あまり不死者とカジノって共通点が無いよな?」

「どうでしょうね。それは不死者が何を考えているのかという事に由来すると思いますよ。不死者が全てジェイドのように考えているわけでも、誰もがメメントモリやキューティクル達のような考えを抱いて居るわけでも無いでしょうに。時には博打じみた事を考えていてもおかしくは在りませんよ。人それぞれです。それは貴方が良く分かっているでしょう?」


 これまでの旅の中で嫌というほど見せつけられてきた様々な人間達、中には自分の命を差し出しても何かを手に入れようとしたり、他人を蹴落として不幸に貶める事に対して全く躊躇いを持たない人間まで様々である。

 知性を持つという事はそういう事だと俺は知っていたはずなのだ。


「それもそうだな。でもどうなんだろうな…永遠に生きてその上で求めるものが賭けというのは…あまり良い事だとは思えない。と言うかそれはズルだろう…」


 俺はそう言ってドアを開いた。


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