東の近郊都市 1
東の近郊都市はそれこそ数年ぐらい前までは夜に起きて朝には眠るという典型的な夜の街と言った具合の街並で、本格的な増築が行なわれたのは今から五年前の話だったそうだ。
俺がこの世界に来たときには増築が既に本格化しており、二年前にようやくの思いで完成したのが今の東の近郊都市だった。
素直に言えば俺は無論行った事が無いが、学生の中には夏休みにあそこに遊びに行こうとする者達は非常に多い。
出来た東の近郊都市はドーム状の建物に街そのものが包まれており、その上に高い塔の様な建物がそびえ立っているという歪なデザインになっている。
増築前と増築後では中身も随分変わったそうだが、ジュリ曰く東の近郊都市に変わった噂があると言うことは聞いた事が無いらしい。
レクターも首を横に振るのでそれは間違いが無いらしい。
では何処にあるのかという事をこれから調べないといけないのだが、まずは飛空挺を停めないといけないのだが、この東の近郊都市の空港は実は外に立体的な形で作られている。
まるで飛空挺の立体駐車場のような形をしており、その中にある下から数えて三つ目の格納庫へと向って着港していく。
飛空挺が地面に着陸してから外に出るまでにそこまでの時間が掛からなかったのだが、そんな中でケビンが「これが近郊都市ですか?」と言い出した。
「近郊都市というかこれでは何処かの国では立派な首都でしょうに…」
「いやいや。こんな常に暗い首都俺は嫌だぞ。此所は夜の街、常に夜しか来ない街だ。空港のように外部との連絡場所は全てにおいて外に設置されているんだ。これ以外にも隣には駅も併設されており、首都高速の出入り口もドームの外から直通になっている」
「徹底しているモノですね。ですが、南の近郊都市ほどではありませんが横幅だけでも大きいですね。まあ…この街の問題は縦ですか…」
「そうですね。あの塔のような建物がそうなら流石に少し困りますけど…あれ凄い大富豪の別荘って言う話らしいですし…」
「大富豪ね…帝国の大富豪ってドン引きするぐらいレベル高そうですね」
「ドン引きするよ…俺したもん話を始めて聞いたことマジで引いた。知らなければ良かったって思ったほどだからさ」
「ソラ君前に知り合って本当に引いたって聞いたもんね。ソラ君の家も大概だと思うけど…一般的に言えばソラ君の家って大富豪でこそ無いけど裕福な方だよね?」
此所で断ることは簡単だがそれはそれで多分人を見下しているような気がするので此所は普通に認めておこう。
まあ親が軍のトップだとやっぱり給料は結構高いんだよな…もとより資産があるガーランド家ほどじゃ無いけどさ。
「でも、やっぱり本当の金持ちには負けるよ。ガーランド家だってまるでちょっとしたお城だもんな…」
「? 普通だと思います。僕は慣れました」
「あれ? ソラってガーランド邸に言ったことあんの? ソラはガーランドさんを昔苦手にしていたからてっきり近付いていないかと思った」
「え? あれって教科書の写真に乗っていなかった? 俺の見間違いだったかな? 確か帝国の歴史の教科書に…」
「載ってたよ。多分だけどレクター君基本座学って寝てるからまともに教科書開けたこと無いんじゃない?」
「フフフ…そう思うだろう? 本当は……見て居ない」
俺は「だろうな」とだけ返して基本無視。
まあその辺に期待していたわけじゃ無いので、俺達は完全に無視して中へと入って行く。
ドームの中は真っ暗な夜中を作り出されており、その中で建物の明かりやネオンの光が街を明るく照らしている。
逆に真っ暗にしていても常に明るいのでではドームの意味は何処にあるのだろうという不思議な気持ちにさせられる。
「此所が…そうですか? 人工物しか無いのでは?」
「まあ…増築時に殆ど消えたらしい。まあ…俺達の目的はあくまでもエネルギーだしさ…分かりやすく入りやすい場所ならいいなぁ~」
「そうですね…出来ればホラーとは無縁の場所なら私は何処でも良いですけどね…」
「ケビンにも可愛らしい部分が存在するんだな」
再びケビンの握りこぶしがレクターの頬をぶつのに時間は掛かりはしなかった。
俺は「学習しろよ」とだけ言って街中へと足を踏み出していく。
「さてと…探し出さないとな…まあまずはこの場所のどの辺か大まかにだけでも調べてみるか…」
俺は意識を集中させてジッと街中を見て居ると、上の方からエネルギー反応を感じてしまった。
間違いが無い…あの大富豪の自宅だ…嫌だな。
俺が意志消沈しているのを見て居た一同から「何処?」と訪ねられるので俺は真っ直ぐに指を上に向けた。
それだけで何処なのかが分かってしまうが、とりあえずあの建物の出入り口がある都市部のど真ん中へと向ってみよう。
案外アポイントメントが無くても空間をずらして入るのだからバレないかも知れない。
その後中に出てくるが最悪は軍に誤魔化して貰おう。
「出入り口まで向おうか…その途中で昼飯でも食べてしまおう」
「そうだね。東の近郊都市って特に名物無かったよね?」
「無いはずだよ。強いて言うならピザがうまいって聞いたな」
「ほほう。ソラよ…それはどんなピザなんだ? マルゲリータか? それとも照り焼きでも良いぞ! 何なら四種のチーズでも良い!」
「照り焼きって日本だけじゃ無いのか? 知らないけどさ…て言うかエアロードは本当に食べることだけだな…時にはその持っているスマフォでお店でも調べて俺達の手間を省こうとしてくれないかね」
すると黙って調べ始めエアロードはものの数秒で俺に「此所が良い!」と言い出した。
食べ物関連だと以上に早いなと思う一方でちゃんと目的地へと向う道すがらに存在している行きやすい場所を選んでくれたらしい。
こいつ以外とこういう気配りが出来るんだが…料理絡みだと。
俺は「まあ良いけど」と言いながらとりあえず途中のお店へと向って皆で動き出したが、ここからが問題。
流石に広い近郊都市内を歩いて移動するわけには行かないのでバスか地下鉄を使うしか無い。
バスでも良かったのだがバスだと直接お店まで向おうとしたらちょっと迂回するしかないという事に気がつき、そのまま地下鉄で移動しようという話になった。
エアロードが見つけてきたお店まで急いで移動し、中に入った頃には丁度十二時になった所だったので皆で「丁度良いな」という話になった。
今回は流石に量が量なので俺が適当に注文することにし、幾つかのピザのMサイズを注文してから少し待つことになった。
「で? どうするんの? マジで後で説明済んの?」
「それしかないだろう。入ったとバレた後で説明するさ…流石に最初っから説明して行く訳にも行かないだろう? もし大富豪が中に居て興味を持たれても嫌だしな…こっちは命懸けで戦っているわけだし。そんな事に付き合わせるわけにも行かない」
「そうだね。その前にアベルさんに一旦説明して貰ったら? 私達が突入している間に説明した貰ったら後で問題にならずに済みそうだし」
「そうだな。なら後で父さんに連絡してみるよ。まあ繋がれば良いんだけどさ…まあ最悪サクトさんに頼むから良いけどさ」
「大富豪ってどのぐらいの金持ちなのですか? 確か帝国は古くは貴族制で金持ちの殆どは旧貴族なんですよね?」
「殆どはな。極一部だけど一般でから金持ちになった人も居るしさ。父さんだって資産で言えばそこそこ持っているから。まあこの人は旧貴族だけど。資産家で不動産関係で絶大な権力を持っているんだ。実際この東の近郊都市はこの人の所有物らしいし」




