南の近郊都市 6
「要するに最初と都市開発計画が起きていた際に反対していた男はその後も生き残り子供を残したと言うことか? でもなんで…」
「こうは考えられないか? 反対していたが「自分一人で何が出来るんだ?」とか「皆がそれでいいのなら」とか「そんな事をして何になる?」とかそんな想いが過ったのなら「諦めよう」と考えてもおかしくない」
「でも。ならどうしてその後の男の行動が全く分からなかったのですか?」
「大人しく引き下がり集落の人達から身を引いたからだろう。この辺りが別段集落の人達が移り住んだ場所という保証がある訳じゃ無い。男がその後この場所に移り住んでその後子供を残した。その子供がこの場所に強い想いを抱いた。その子供がもし親であるその男の強い思い込みをすり込まれて生きてきたら? 怨念と成った時にこの場所に取り憑いてもおかしいことじゃない。今見た感じこの空間の絶妙な広さと綺麗な仕切りを見る限り多分この辺りが旧集落の跡地なのだろう」
「だからこの場所に移り住んで生きていたという事ですか? それだけ集落が大事で、その集落の跡地が最低限でも残るこの場所で生きたかった? そんな強い想いで子供にも伝わり、此所が再開発の憂き目に遭ったとき死んで化けてしまうぐらいの強い想いへと変貌した」
強い想い…即ち『怨念』である。
彼はその時怨念となって『この場所』に取り憑いたのだろう。恐ろしい事に…普通に…突然だったはずだ。
「じゃあエネルギーを取り込もうとしているのも?」
「いやそれは別だろう…あくまでも取り込もうとしているのは『生きたい』と強く願う不死者の魂の残痕で、彼自身は死者なんだから。死者が「生きたい」と願っているのならともかく彼の願いは「この場所を護りたい」なんだろうし…無論死者が出来るのならともかく、幾ら死者でもただの人間で死を克服することが出来なかった人間にエネルギーを扱えるとも思えない」
「まあ、死者となって百年千年その場に残り続けたのなら話は別だが…たかが数十年程度では不可能だろうな」
「……もしですよ? その男の強い想いが場に溶け込み、その強すぎる想いがこの場に残り続けて、その強すぎる想いが不死者達の魂の残痕と溶け混じったのなら…どうなるんです?」
ケビンが「もしも」の提案を俺達にしてくる。
「その可能性は全く考えていなかったな…そうか…そんな可能性があるのか…それは確かにあり得そうだな。ならますます厄介だ。まあこの場所からザッと見た感じ外に在ると言うことは無いようだ。なら何処かの適当な建物の中じゃ無いか?」
するとジュリが何かを発見したように俺の後ろにそっと隠れてしまった。
俺達は全員で疑問顔を作り出すが、今度は顔面蒼白になったケビンが俺の後ろに隠れてしまう。
いや…マジでなんなんだ?
そう思っているとレクターが面白おかしいらしく馬鹿笑いをケビンに向け、ケビンは顔面蒼白な状態でも強がりながら睨み付ける。
「あそこに……お…おば……」
ジュリがモジモジと何処か言いにくそうにして人差し指だけを真っ直ぐにある一点へと指すと、その指が指し示す場所には半透明のお化けがのような化け物が俺達を見て居た。
質素な女性服を着ている青ざめた体をしている半透明のお化けだが、正確にはお化けの形をしている化け物だろう。
前の時はあくまでも竜達の旅団が勝手に作り出していたが、今回はこの場に溶け込む怨念が不死者達の魂の残痕の力を借りて作り出したのだろう。
目的は俺達をここから追い出すと言った所か?
動かないという事はここから俺達が前に進み際しなければ攻撃してこないと言うことだろう。
まあ…踏み出すけどな…レクターが。
勇気とかそういう言葉を全く含めない大雑把に踏み込んだ一歩に過剰反応する化け物、口裂け女も顔真っ青なほど大きな口を開け、頭部を大きく膨らませてレクターへと襲い掛る。
その際に俺は「死んでしまえ」と小声で漏らす。
しかし、レクターはその化け物の頭部を右拳一発で粉々に粉砕してしまう。
「ちょっと! ソラが身動き取れそうに無いから俺が代わりに戦ったのに…! なんで俺が恨み言を買わないといけないんだよ!」
「そう思うのならたまには応援したくなるような行動をしてくれよ…頼むから。そもそも動けるのなら俺が戦っているさ。誰かさんが女心を全く理解しないからこういう時にフリーになれるんだろう?」
「ならソラも俺みたいになってみる? 海も」
「「ノーサンキュー」」
「でもさ…あまり手応えが無かったね。まあ…まだお互いに様子見かな?」
「だが、侮れませんよ。今ので二名ほど戦闘不能になりましたし…」
俺は心の中で「確かに…」と思いながら両腕を強めに掴んで離してくれないまま後ろに回り込むジュリとケビンを交互に見る。
マジで動きづらい事この上ないのだが、助けて欲しい。
「正確には三名だぞ…俺も戦えない。頼むから怖いなら外に出ていてくれよ…俺達三人だけで戦うからさ。エアロードとシャドウバイヤがこの二人を安全な場所まで案内してくれ。今回は俺達三人とオールバーで戦うから」
「「任せておけ!! なら戦わないで良いな?」」
「もう勝手にしてくれ…どうせ急いで戻ってこいと言っても戻ってこないだろうし…」
俺は心の中で「その代わり余計な事をしたら後で怒る」と強く決めて念じながら二人が空間から出て行くのを確認後改めて行動を開始しようと動き出す。
「しっかし広い場所だよね…真ん中にあるのかな?」
「どうだろうな…まあまずは急いで真ん中を探そう…待て待て! 何故跳躍して最短距離を移動しようとする! 馬鹿レクター!」
「え? 面倒じゃん。どうせ誰も居ないんだし…ショートカットしようぜ。ゲーム風に言ったらファストトラベルって言う奴?」
「行った事も無い場所に移動することをファストトラベルとは言わない! そこまでじゃないだろう!? 普通に走って言ってもさほどロスには成らない…聞けよ人の話!」
「人の話を聞かないでそのまま突っ込んでいきましたね…僕達はこの辺りで大きいあの演劇場の様な場所を探してみませんか?」
まあレクターは無視しようと俺は海とオールバーと共に演劇場へと足を踏み込んだ。
途中でお化けの化け物を駆逐していきながら結構大きく作られている演劇場の出入り口の階段を上っていく。
赤いボロボロのカーペットに二階へと続く階段とその階段の間にある一階への出入り口、右側には受付が、二階と同じように一階には左右に広がる廊下や関係者用の出入り口が今でもそのままで残っている。
とは言っても基本的は古い場所なのでボロボロでよくもまあこのまま残っていたモノだと関心したくなった。
「とりあえず一階の階段を開けて劇場へと足を踏み込んでみようか…広い場所にあるだろうしな」
俺はそんな事を言いながら両手開きのドアに手を掛けて一気に開いて五秒後にそっと閉じる。
海やオールバーも「うん」と言いながら俺の気持ちに同意してくれた。
今滅茶苦茶大きい木製の人形とそれを操るそれ以上に大きなピエロの上半身が劇場の一番奥から生えていた。
見た瞬間に俺の常識を測りかねて一旦閉じてしまった。
「見た? 今のピエロの上半身が置くのカーテンから生えてきていて、そんなピエロが木製の大きな人形を操っていたの」
「はい…でもエネルギーは無かったですね…此所は無視します?」
「それで良いんじゃ無いか? あれを倒して何か良いことがあるのならともかく」
「ソラ! 海! オールバー! エネルギー見つけたんだけどさ…鎖みたいな奴に縛られてた!!」
さっき…見たな…鎖。




