南の近郊都市 2
南の近郊都市は帝都南区外門から草原地帯を越えた先にある近郊都市の中では最も大きい分類に入る都市、帝都に近いと言うことと交通の要所だったことから昔は貿易都市としての一面を持ち、今でも貿易都市としての一面は少なくとも残っており、商業関係は大体此所に支社か本社を構えている。
それ以外にも商業関係の金持ちが此所に住んでいることが多く、昔っから帝都に近いという立地条件も手伝って基本的に人が行き交いが激しいと言われている。
最も、現在は無間城が高速道路や列車の交通網を塞いでしまっているので、他の近郊都市から回り込むしか帝都から向う術は無い。
そういう意味で俺達は帝都から来るに辺り都合が良かったと言えるだろうが、明日ジュリとケビン達が来るのに大分時間が掛かりそうでもある。
さっさと無間城を撤去すれば良いのだが、大きすぎるしその上その全てが残骸になろうと歴史的建造物である事に違いは無く、今現在各国の研究者達が集まって中を調べて回っているらしい。
その上近くに魔物が放たれる可能性を考慮して軍が規制を張ってしまったので余計に交通が不便になっている。
何せ帝都から外に出るには車か歩きしか無いと言われているぐらいなのだから。
そう思うと近代化がもたらした列車や飛空挺、西暦世界では飛行機は非常に便利な乗り物だと言えるだろう。
車が出てきただけで驚いていた時代とは考えられないのでは無いだろうか。
俺達が乗っている飛空挺は滑走路を必要としない上、燃費が良いと西暦世界でも話題になり現在アメリカなどが正式に実装しようと考えているとかいないとか。
草原のど真ん中に位置する南の近郊都市、その草原が地盤が若干軟らかく出来ているため大きな建物も基本は作れないという決まりである以上、実はビルが一つも無い。
なのでどれだけ高い建物でも5階建てまでと決っており、商店街や商店が並ぶ広場などで街が構築されている。
ど真ん中はそんな露店や商店が並ぶ大きな広場になっており、そこから五つの道が分かれていた。
真ん中に近くなれば商店などが広がり、外に向えば住宅地などが存在している。
政財関係の建物も内周に近い場所に存在しており、ガイノス帝国立士官学校もまたその近くにあるのだが、今回の目的地が不明である分だけこの街を探して回るのは骨が折れそうだと飛行艇の中からでもハッキリ思えた。
「広い…どんな食べ物が? ジュルリ」
「エアロードは少しは品性という言葉を学んだ方が良い。割とマジで」
「エアロードに品性? 無理だろう。品性という言葉を理解することも、書くことも、下手をすれば覚えることすら一秒でも出来ない」
「そこまで馬鹿じゃ無い! ひんていぐらい分かる」
「なら間違えるな。シャドウバイヤの指摘がその通りだとバレるぞ…品性という言葉が言えていないでは無いか。それより海。付いたらそのままホテルとやらを探すのか?」
「そうだね。今日はもう遅いから一旦チェックインした後で荷物を預けて食事に行って…その後早めに就寝して明日に備える感じかな」
「分かった。理解したのか? エアロード。ああ。エアロードに理解という言葉は難しかったか?」
「エアロードは反論しないのか?」
「ソラ。今エアロードは品性という言葉をミスした事が恥ずかしくて話し掛けて欲しくないらしい。ほら見ろ。エメラルドグリーンの顔が真っ赤に染まっているぞ」
マジで真っ赤に染まっている所マジで恥じているというレアな状況に俺はスマフォで写真を撮る。
と言ってもここから到着するのにまだ十分ほど掛かるのだが、そんな中旋回する中で高い高度を維持している為か視界の先に谷間に見える大きな城のような建物が見えてきた。
それに興味を抱いたのはオールバーだった。
彼は俺達に「あれはなんだ?」と答えた。
「帝国が持つ要塞都市だよ。レクターが一度行ってみたいと言っていたか? 谷間に作られた。ここからでも見えるもんだな…帝国は広いから南の近郊都市でも見えないと思ったけど、単純に高度があるから見えたんだな…そう言えば南の近郊都市の外側はあまり高い山が無いな…」
「と言うか私は思うのだが、先ほどの話では南の近郊都市に地下街が出来ない理由や高層ビルの理由は地盤が緩いからだと言っていたが、なら帝都とやらは大丈夫なのか? あそこは結構高いビルとかあったはずだが?」
「あそこは直ぐ北に北の山脈が無数にそびえていて地下の地盤も結構浅い部分に固い地層があるんだよ。でも、南の近郊都市は結構距離が離れているから地下の地盤が緩い」
「なら直ぐ近くに作れば良いだろうに」
「在ったんだよ…昔は。今の内壁の外側に近郊都市と呼ばれていた街がさ。でも外壁を作って帝都の規模を大きくする過程で帝都に飲み込まれて、そのまま南の近郊都市を造る際に新たな壁を作る事を懸念されて大きく距離を取ったんだ。因みに他の近郊都市…北の近郊都市以外が帝都から離れて作られたのはそういう理由だ」
「む? では何故北の近郊都市は違うんだ?」
「簡単。オールバーは北の近郊都市に行ったことは?」
「無いな」
「あそこは直ぐ北に低くても三千メートルの山々が密集していて、そこまで帝都の規模を増やせないからなんだ。もし増築計画が本当にあったのなら北区以外を増やすという方針だったらしい」
「ややこしいな…そこまでして皆であの帝都という街で暮らしたいのか?」
「あの壁を越えたいって思うんじゃ無いかな? でも帝都に限らず大都市に人口が密集しつつあるのは事実でさ。それは今現在結構深刻な問題になっているんだよ。皆が都市に集まるから辺境の村とか集落がドンドン寂れていくし、そういう所が生産してくれるからこそだし…今現在なんとかならないかって結構深刻な話し合いがあるという話しだし」
エアロードとシャドウバイヤは「人間社会のめんどくささを感じた」とハッキリと言われてしまうが、そればかりは本当の事で今更言い訳のしようも無い。
でも南の近郊都市はそういう話自体あまり聞かないんだよな…帝都が近くにあるけどここから出て帝都で暮らそうって話し…聞かないし。
まあ、近郊都市の人間は自意識が非常に強く負けず嫌いだって聞くし、もしかしたら単純に行けば負けだと思われているのだろうか?
別段勝負をしているつもりは無いけれど。
「近郊都市がどうして帝都に挑もうとする? 帝都とは近郊都市の上位種では無いのか?」
「違うしそれを言ったら誰でも怒ると思うから黙っていた方が良い。海もオールバーに余計な事を言わせないようにな」
「わかりました」
そろそろ到着すると言うこともあり俺達は簡単に荷物を纏めて飛空挺を降りていく。
飛空挺へと伸びる道を進んでロビーを通り過ぎてから俺達は空港から外へと出る。
幾つにも渡って伸びる道、空港前に広がる広場に幾つものバスが先ほどから街中へと行き来しているが、俺達はその内の一つに乗り込んで街の中心へと向って移動して行った。
空港前のホテルでも良いのだが、ジュリ達が来るのなら他の近郊都市から回り込んで車か飛行艇か列車しかない。
しかし、ジュリ達が飛空挺を使うとはあまり思えない。
結構高いし。
なら恐らく列車での到着になるだろうが、空港は街中や大通りから少し外れた場所にあるので、どの手段で来ても良いように大通り沿いのホテルにした方が良いだろうという判断である。
俺と海は高級ホテルでもこの際良いと思い乗り込むことにした。
幸いこちらはガーランド家の子供である海がいるのだ。
なんとかなるさ。




