西の近郊都市 5
次に見せてくれる光景は一体何なのかと思ってみていると、今度は小さい縄文時代にでもありそうな小さな集落が燃えている光景で、そんな中で初代ウルベクトが一本の剣を振るって化け物を相手に対峙している光景だった。
前に見たときより多少年を食っており多分三十代後半から四十代と言った所だろうか、それでも衰えることの無い剣術で人の姿をした化け物を相手に全く衰えることの無い戦いをしている。
ぱっと見の光景で此所が日本と判断したのだが、初代ウルベクトはどうやらこの時代で異世界への渡航を実現していたのだろうか、と思って見るとそもそも当時は異世界への渡航は普通の事なのかも知れない。
集落の人達は初代ウルベクトに非常に感謝しており、ちょっとした催しすら行なわれる始末であるが、俺はこの集落に身に覚えを感じてしまった。
間違いが無い、集落の形がかなり変わっているが俺が生まれ育ったあの村だ。
まさか場所すら全く変えずに生きているとは思いもしなかったが、それでも今でも昔でも見る光景が変わっても、それでも此所が故郷だと記憶でも分かる。
初代ウルベクトがここに来たと言うことは間違いが無い、初代ウルベクトは此所で自分の子供を別に設けた。
だから竜達の旅団という能力は二つ異世界を挟む形で生まれ、後に一つに統合されたのだろう。
仮面の少年は再び初代ウルベクトと俺を指さしてからクスクス笑い出すが、そんな中初代ウルベクトは集落の人達に名前を名乗った。
「自分はソラ。ソラ・ウルベクトです。少しの間ですけど宜しくお願いします」
あまりにも聞き馴染みのある名前に俺は驚いてしまったが、俺と全く同じ名前に何か意味を感じてしまうが、これを偶然と切り捨てる事は簡単そうだった。
ソラなんてありがちな名前の一つだし、母さんが俺の名前の名付け親だったそうだが、その時に母の言い分としては「青空の様に大きな心を持って育って欲しい」だったそうだ。
この人が同じ理由だとは思えない。
「ソラは青空のソラですよ。大きな心を持って育って欲しいという意味で名付けられました」
全く同じ理由に俺は驚いてしまうが、そんな名付けられた理由が同じだって…きっとありがちな事だし。
しかし、次第に感じていく俺と初代ウルベクトの間にある明確な繋がり、これは偶然では無いのかも知れない。
死竜は人は死に生まれ変わるとハッキリと言っていたが、まさか俺は初代ウルベクトの生まれ変わり?
だが、此所でそれを断定する訳には行かない。
まだだ…そう思って俺は次の光景へと身を投じていく。
今度はジェイド側のストーリーになっており、始祖の吸血鬼と想われる人物と対峙している光景だったが、あの綺麗な金髪な女性が始祖の吸血鬼なのだろうか。
まあ口に人の生き血で真っ赤に染めている人間が普通の人間だとは想えない。
八重歯が遠目にでもハッキリと見えるぐらいクッキリと見えているのでほぼ間違いが無い。
始祖の吸血鬼という存在に俺は驚くことは無かったが、ジェイドがそんな化け物を相手に多少は苦戦を知られている中、俺にそっくりな若い男性が加勢に現れた。
その少年は『ソラ』の名前を名乗っているウルベクト家の人間だったのだが、此所でもソラの名前が使われている。
やはりこれを偶然と決めつけることはもう出来そうに無い。
「その通り。ソラ・ウルベクト…君は何度も何度も生まれ変わっている。君の名と魂は生まれ変わりながらも世界の安定の為に存在し続けるのだ。そして、その度に君は『ソラ』という名を名乗るのだ」
突然に現れる死竜を相手に俺は驚くことはしなかったが、死竜はそんな俺に対して死竜は語り続ける。
「最初のお前は世界の崩壊をギリギリで阻止し、その時始祖の竜の手によってお前という魂はウルベクト家と竜達の旅団という能力を受け継ぐのが君自身が背負ったモノでもある。無論今の君は初代の頃より更に強力な異能を身に宿しているわけだ」
「それは初代が予め決めていたことなのか? それとも…初代が知らないうちに決っていたことなのか?」
「初代は知っては居たはずだ。強力な異能を持って生まれている人間の中には、異能そのものが生まれ変わりをコントロールする事は十分にあり得る。そうやって世界は成り立っているんだ」
異能が気に入りその人の魂と言っても良い部分を拘束することは良くある事らしく、そういう人間は異能そのものが何度も何度も巡り会うように運命として固定するのだそうだ。
同じ一族で何度も同じ名前を付けると言う事は姿が多少変わっても、それは同じ人間が何度も生まれ変わっていると言うことらしい。
悪行を積む人間は例え生まれ変わっても悪行を積み、善行を積む人間は生まれ変わっても善行を積もうとする。
それはある意味運命にも似ていた。
「今回の一件で竜達の旅団はお前ともう一人候補を見つけてしまったようだな…」
「俺以外のって事か?」
「ああ。アックス・ガーランドという名前だったか? どうやら竜達の旅団はこの男も気に入ったようだ。今回の一件を利用して一族として魂を引っ張ろうとしている。まあ…異能が良くやることの一つでもある。お前やアックス・ガーランドの様に異能が魂を気に入ると言うことは実は珍しいことじゃない。だいたい一つの異能につき一人ぐらいお気に入りが居るぐらいだからな」
「俺は何度も生まれ変わり、その都度…」
「ああ。ジェイドと出会っている。ジェイドはその都度君の顔を見て思い出すんだ。親友の事をな。それもまた運命と言うことだ。言っただろう? 珍しい事じゃ無いのだと。だがそれもこれで終わりだ。君の手でジェイドは討たれた。だが同時に君がジェイドに出会う事は…」
それもまた初代ウルベクトが…何度も生まれ変わった俺自身が決めていたことなのだろう。
運命とはそんなモノだと死竜は俺にハッキリと告げた。
「ではな。そろそろ目を覚ますと良い。エアロードとシャドウバイヤ辺りが鬱陶しいのでは無いか? だが…忘れないことだ。死領の楔が無いとそんな作業の殆どが滞ってしまう。異能が勝手にしてくれるならともかく、そうではないのだからな」
「異能が勝手にする場合は死領の楔は?」
「必要は無い。勝手に異能がしてくれるのだからな。異能とは因果律や運命という枠組みの外に居て、因果律や運命をコントロールする力がある。キューティクルの様に生まれ持って不死身な人間は結局で死んだとしても生まれ変わってしまうと言うことだ。そして、生まれ変わる度に彼女は何度でも生まれ変わっても不死身であり続けるんだ」
「それは…生きている意味があるのか?」
「さてな。最も殺されなかったと言うことは彼女はこれからも同じように生きていくと言うことだ。何も変わりはしない…」
「別に後悔はしていないさ。確かに彼女に傷つけられた人間は沢山居るが、それでも俺だって…俺達だって無差別に不死者を殺そうと考えているわけじゃ無い。彼女が俺達の前で悪事を働かないのならそれ以上を求めないさ。それに今は…」
「今はボウガンという男が気になってしまうか? それこそ安心すると良い。君がジェイドを殺したことで始祖の吸血鬼が目覚めるだろう。そうなれば否が応でも君とボウガンは三度戦いへと身を投じることになる」
「嫌な言い方だな…でもまあ覚えているよ。目が覚めてエアロードとシャドウバイヤがインパクトが強いことをしない限り」
次第に意識が現実へと引っ張られていくと、目を開けて見た光景はエアロードとシャドウバイヤが俺に対して嫌がらせをしようとしている光景だった。




