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西の近郊都市 3

 西の近郊都市は人口だけでも六百万人ほどが密集して暮らす大きな街であり、都市と言うだけあって中心にはビル群などが建てられているなど最近は特に近代化の流れを組んでいるが、同時にこの街は街並というモノにあまり拘りを持たない性格をしている。

 帝都から列車からほど近い為に帝都からの観光客がほどほど多く、大きな大河が二つ存在しているために基本は多くの家が橋の上に作られている橋の街。

 中心街の中州は基本ビル群が密集しているのに対し、端っこの方になると一般的な住宅街が広がっているが、その中でも大河岸に並んでいる家の殆どは漁師町となっており、その中でも多くの食堂は新鮮な川魚などを使った料理でも有名である。

 実際俺達の目の前に広がっている料理の中でもメインデッシュと読んでも良い料理はフィッシュパイである。

 しかし、川魚を使ったフィッシュパイは聞いた事が無いので美味しいのかと言われたら食べるまで正直半信半疑であったが、一口食べてみると魚臭さが全く無く結構美味しい。

 半分ほど平らげた所でケビンが「そう言えば竜達はどうしました?」と聞いてくるので、俺は「じゃあシャインフレアは?」と敢えて聞き返す。


「疲れたのでホテルで大人しくしていたいと…」

「オールバーならここに居ますよ…ほら」


 海が指さす方向にはフィッシュパイを頬張っている紫色の竜が鎮座しており、今の今まで全く存在感を示さなかったこの竜に恐怖を普通に感じる。

 と思ったらジュリの鞄からヴァルーチェが普通にウミヘビのような体を伸ばしフィッシュパイを食べ始めた。

 そう言えばオールバーならともかくヴァルーチェが戦いに対して全く関与して居なかったと記憶している。

 マジで食べるだけの生活しているな…こいつ。


「エアロードとシャドウバイヤが気になりますが? 自宅の時点では居ませんでしたよね? 今どこに居るんです? やられたわけじゃ無いでしょう?」


 一瞬だけジョークを言おうかと思ったが言ったらケビンから普通に怒られそうな気がしたので止めておくことにした。

 と言われてもエアロードとシャドウバイヤがどこに居るのかなんて俺が知りたいのだ。

 合流時点で居なかったので俺は探そうとはしなかった。


「知らないよ。合流時点では居なかったぞ。死んだら契約の痕跡が消えるはずだから生きているはずだけど…どっかで生き倒れているんじゃ無いか?」

「だとしたら貴方は少々冷たすぎるでしょうに…ジュリは知らないのですか?」

「エアロードとシャドウバイヤだったら今帝都プリンスホテルの最上階に高級レストランで食事中だよ。アベルさんに無理を言って食べさせて貰ってる」


 一体何をしているんだ彼奴らは…と言うか合流地点にまるで現れないと思ったらそんな事ばかりしていたのか…後でしばいておこう。

 説教が真面目に必要だと思うこの頃である。

 まあ無事ならそれでいいとしておくことにして俺はフィッシュパイを一切れ取りそのまま口へと運ぶ。

 パイの部分のサクッと言う食感とフィッシュ部分の柔らかさが連続でやって来て、同時にフィッシュの味付けである甘辛ダレが良い味を出している。

 正直食べていて全く飽きることが無いので幾らでも食べられそうになる。

 得にオールバーはかなり気に入ったらしく店員に「おかわり」を注文していた。

 俺達の意見を全くの無視をして、そんな事をして居ると俺のスマフォが鳴り響く。

 面倒だとは思ったが画面だけは確認しようと手にしてみると、画面にはエアロードの名前が書かれていた。

 こんな状況でどんな連絡が来たのかと思って俺は念の為にとメッセージ内容を開くと、テーブル一面に並べられている高級料理の数々を写された写真のみ。

 何を言いたいのかまるで理解出来ないので、俺は「フィッシュパイの方が美味しそうに見えるけど?」と返信しておいた。

 すると秒という早さで返事が返ってきたが、イマイチ理解出来ない意味不明な内容だったので無視することにした。


「何です? 誰から来たのですか? まさかレクター?」

「そう言えばレクターから連絡が来ないな。てっきり不満たっぷりな内容がやってくると思ったが…今のところ無反応だ。家に帰って大人しくしているのかな?」

「あれが? あれが大人しくするという事が出来るのですか? 下手をしたら寝る瞬間にすら何か行動をしているのでは?」

「さ、流石にそれは無いとは思いますけど…でも確かにあの不満な状況で全く動きがないと言うのもおかしいですよね?」

「でも大人しくしているのなら敢えて突っ込んで探らない方が良いんじゃ無いですか? 多分調子づくだけですよ。ハイテンションで絡んでくるだけだとおもいますよ。問題を起こしてから対策を考えましょう」


 どうやらこのメンツの中に「レクターを思う」という人間は皆無なようだった。

 まあ普段の行いが行ないなので誰一人同情はしないわけだが、するとケビンは「あの男は普段からあんな調子なのですか?」と聞いてきた。


「うん。出会った時からあんな調子だったな。当時は結構寂しくて部屋の端っこでずっと過ごしていたけど、そんな時レクターがやって来て俺を無理矢理校内案内に連れ出したんだよね」

「そんな良い事があったのですね。今の性格では正直考えられませんが…」

「多分ソラ君が外の世界からやって来たって言う噂が当時からあったから興味があっただけだと思う」

「なんだ…そういうオチですか。下らない」


 ケビンの中で微かに上昇していた好感度が一気に暴落したレクター、本人が居ないのに落ちることが無いと思っていた評価が暴落するという奇跡をおこしていた。

 凄い奴だな。


「でも当時はかなり助かったんだよな…」

「そんな話し母さんから聞いたな。父さんは当時両親を失って兄弟も居なくなって寂しくていつも学校の片隅で泣いていたって。そんな父さんを助けたのが師匠。アベル・ウルベクトだったって」

「父さんとレクターはやはり同レベルな存在だったか…しぶとそうだもんな」


 殺しても死にそうに無い性格をしているが、師匠だけは本当に意外だった。

 何というか一人で泣くようなタイプじゃ無いと言うか、基本泣かないような人だとすら思って居た。

 でも、一人で落ち込むことは多いというイメージなのでそういうこともあるのかも知れない。

 一人で悩むタイプという事なのだろうか?


「要するに一人で悩むタイプって事か? まあ…そう言えばそういう所があるから」

「というよりはガーランドさんは一人で抱え込みやすいンじゃないかな? 家族の事も、仲間の事も、友人の事も、弟子の事だって。そう言われたソラ君には何となく理解出来るんじゃ無い? そう言われるとジェイドって言う人も同じなのかな? 一人で抱え込む」


 そういう所もやはり遺伝的に受け継がれた部分なのだろうと思えた。

 だからこそ誰かが何時だって側に居て、辛いときに手を差しのばして行かなくてはいけないんだと思えた。

 そんな人はこの世で…アックス・ガーランドを救う手を伸ばす人はこの世でただ一人奥さんだけなんだ。

 あの人だけが師匠を救う事が出来る人。

 俺は知りたいと思えた。

 奥さんと師匠との出会いをちゃんと知りたい。

 死んで悲しむと言うことはどんなことがあっても信頼がそこにあったのだと思えたから。


「師匠の奥さんは師匠を信頼して一緒に過ごしていたんだよな? 子供達ですらあの人には少々誤解を抱いて居たみたいだけど…」

「そうだね。どこに居ても信頼していたなら私も知りたいな…あの二人の馴れ初め」

「女子はそういう話題には興味津々ですし。私も凄く興味がありますね。デリカシーの欠片も存在しない馬鹿な人は居ませんしこの際キチンと聞きたいですね」


 デリカシーの欠片も無い人間…レクターか。


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