西の近郊都市 2
車が走り出してから三十分ほどが経過しようやく帝都から離れていき、西側にある大門を超えて高速道路はそのまま少しずつ荒れていく荒野へと近付いていき、俺達の周りの風景も大分変わってくる。
結構綺麗で且つ静かな車を借りれたなと思う一方で、ケビンの静かな運転にゆったり出来ている。
案内なんて言ったが、高速道路まで来てしまえばもう既にやるべき事なんて一切存在しないのだが、まあ良いかという気持ちで俺は大人しく腕を組んでいるとケビンは「そう言えば」と言い出した。
一体何を言い出すのかと思えば要するに西の近郊都市の詳細を聞きたいと言うことだったようで、俺は微かな記憶を頼りに説明してみることにした。
「川とは言ったけど正確には大きな大河だな。それが二つ街中を走っておりその川をまたぐように大きな橋が幾つも架けられているんだ」
「荒野という事もあるけど基本は川魚を使った料理がメインだったはずだよ。川魚を使ったフィッシュパイとか色々在ったかな。だから船を使った漁業も有名だよ。でも、北の方に森林地帯もあったはずだからその近くに別荘が沢山あるの。基本は避暑地って感じかな? 帝都の周囲には墓を作れるスペースが昔は無かったから西の近郊都市に作ったんだって」
「そんな場所に避暑地としての別荘と墓地を一緒にしますかね?」
「まあ…金持ちの感覚だしな。今でも旧貴族はあの辺に沢山別荘があるんだよ。ガーランドの別邸もあって同じ場所に墓地があるんだってさ」
「僕は行ったことが無いんですよね。夏は師匠と一緒に北の山脈で修行していましたし」
「そう言えばそうだったな。まあ俺とジュリもちゃんと行ったことがあるわけじゃ無いしな。基本用事が無いと行くことが無い場所だしな…」
西の近郊都市は基本あまり観光という感じの街じゃ無いので一般的な学生が立ち寄るような場所じゃ無い。
南の近郊都市は商業なんかで有名だから幾らか行く用事もあるかも知れないし、東の近郊都市は娯楽で有名な場所なので、ウチの学生が結構夏休みとかに遊びに行くと聞いている。
まあ俺は言ったことが無いけど…基本行かないし。
「別荘地でも有名と言うことは結構綺麗なんじゃありませんか?」
「どうだろう漁師町でもあるしな…下町的な感じの場所は結構情緒溢れる感じの街並だって聞くけど…何せ百年ぐらい前には違法ドラックを帝都内へと売りさばくために密売人がそういう場所を根城にしていたって歴史の教科書で聞いたし」
「やっぱり何処にでもいるものですね…そういう馬鹿な事をする人間と言うのは」
「今は大分落ち着いていると思いますよ。帝国政府の意向で違法ドラックの密売人は纏めて検挙されて、生き残った人達も帝国外へと逃げるしか無かったって聞きましたし。得に共和国との戦争時はそれ以上に警戒態勢が敷かれていたから余計に立入が難しくなったって聞きました。最も一年ぐらい前に起きた帝都クーデター事件ではまた密売人が何人か軍の仲介を得て入り込んだって聞きましたけど」
「でも、その話父さんから聞いたけど、その後革新派が壊滅して直ぐに保守派と中立派が纏めて検挙したんだろう? 撲滅できたって言われて居るぐらいだし」
「そうなのですか。まあ何処の国でも密売人なんて居る者でしょう。大なり小なり」
「全ての国があまねく全てに目を行き届かせることなんて無理ですよ。それが出来たら全ての国が真似をして居るでしょうし。ソラは要ったことが無いんですか?」
「ああ。ジュリも行った事無いだろう? 確か…」
「うん。だからどんな感じの雰囲気なのかって言われると皆困るかな…教科書でも書かれていないし」
ケビンは「ならやっぱり到着してからの楽しみですね…」と言って運転に集中し始めると、西の近郊都市前にサービスエリアに到着しそうになり俺は「サービスエリアに立ち寄って貰っても良いか?」とケビンに頼み込んだ。
実は西の近郊都市に向う前に結構気になっていたことがあり一旦確かめようとしていたのだが、ケビンは「良いですよ」と言ってハンドルをサービスエリアの方へと向けてくれた。
俺はポケットから財布を取り出して金を確認、そのままサービスエリアの中へと入って行く。
広く整えられている駐車場の一角に停めてから俺達は洋風に作られているサービスエリアの建物の中へと入り込んでいった。
「で? 何を気にしているのですか? お土産でも買おうと?」
「それもある。正確にはそっちはあくまでもついでだな。今西の近郊都市に居るって言うのは本当だとして…問題は今用事があるか無いかだ。それを今のうちに確認しておく必要があるが、海が行くと行ったら気を使わせるかも知れない。出来る事なら追い詰められて居るであろうあの家族に気を使って欲しくない」
俺の気持ちには三人も同意してくれた。
と言う事もあり俺がコッソリと軍の人に確認を取らせてみると、案の定今少し忙しいらしく夕方前ぐらいに行くのが丁度良いそうだ。
まだ昼前。
正直に言えば今から行ってもまだ時間が掛かりそうだった。
「なら先に此所で昼食を食べますか? 出来れば個人的には西の近郊都市で頂きたいのですが…」
「そうですね。お土産だけでも買ってから出発しましょうか」
俺達はサービスエリアで持っていくお土産だけを購入してから再出発、そのまま更に三十分が経過すると少し高めに作られている高速道路から西の近郊都市がハッキリと見えてきた。
大きな二つの運河を丸呑みするように作られている西の近郊都市、二つの運河に架けられている大きな橋が無数に存在しており、街の大きさは帝都と比べると小規模かも知れないが、それでも一国の首都クラスの大きさを誇る大きめの街。
そのまま一旦車は西の近郊都市の東外れで高速道路から降りていき、街中へとは行っていく。
東側は漁師町で得に盛んな川魚の漁業とそれを使った料理店で有名である。
俺達は有名どころへと向って行き、お店の中へと入り込んでいく。
「お腹が空いたな…今思えばジェイド達と戦ってそのままだし」
「そう言えばそうですね…結構駆け足気味に急いで戦っていましたし…流石にお腹が空きました」
「えっとフィッシュパイと飲み物で良いですか? 他に頼みたいものあります?」
俺は「えっと」と言いながらメニュー表を手に色々と探り始める。
結構煮物系や揚げているような食べ物まで色々と存在しており、俺は魚系でメインデッシュを選んでいるので、軽めのデザートと簡単なサラダを追加注文した。
円状のテーブルに料理が並ぶのを待つ間俺は水を一口飲んで落ち着くことにする。
「生き返る…なんか結局で忙しくしていたから。でもレインちゃんの一件も落ち着いたからな…」
「うん。後はガーランドさんの一件だね。あと少し…」
ここまで来た以上はもう今更引く事が出来るわけが無い。
師匠を生き返らせるという行為自体に全くの迷いは無いんだ。
「母さん。やっぱり堪えたようで…父さんが死んでから全く笑っていないって」
「だろうな。あの人なりに必死に時間を作ろうとはしていたよ…だからこそ……だからこそ俺はあの家族には笑っていて欲しいんだ。俺の我儘かもしれないけど」
「我儘で良いではありませんか。貴方は少々我慢するくせがあると思いますよ。レクターほど馬鹿になれとは言いませんし、して欲しくありませんが、こういう願いぐらいは叶えても良いと思いますよ」
ケビンは水を飲みながらそんな事を言ってくれた。
「うん。私もそう思うよ。何よりもソラ君が願っていることでもあるんだから。誰かに笑顔で居て欲しい。それがソラ君の願いなら私達も協力するよ」




