夢幻を手に入れた者達 2
ジェイドがいるであろう一番最奥へと繋がる両開きの大きすぎるドアを俺は力一杯開き中へと足を踏み込んでいく。
野球でも出来そうなほど広い円状に広がる空間、俺と対面になる形でジェイドの座る玉座がありそこにジェイドが座っている。
部屋の周りには大きく太い柱が部屋を支えるようにそびえ立っており、俺は部屋の中心目指して歩き出す。
ジェイドは決して椅子から降りようとはせずジッと俺の方を見守っているが、まだお互いに殺気を放っていない状況、まだ動くときでは無い。
ここに来るまで色々な事があったと俺は思い出してしまい、ふと真ん中で足を止める。
俯いて少しだけ考え込んでからもう一度ジェイドの方へと顔を向けると、ジェイドは笑顔に成る事も無く無表情で俺の方をジッと見つめてきた。
そしてゆっくりと口を開く。
「ようこそ玉座の間へと。カールは死に、ボウガンとキューティクルは生き残り…メメントモリは…まあ良いか。だが流石とだけは言って褒めておこう。今のところギリギリ帝都には辿り着いていないと言った所か…だがこの調子でいけば三十分ほどで程度に辿り着くだろう」
それは先ほどハッキリと言われたことだったので驚くことはしないが、だがしかしやはり時間的には結構切迫しているのが現実だ。
だが焦って行動したらそれこそ失敗してしまうだろう。
皆からも帝都のことは最悪考えなくて良いと言われているし、下手に気を使って焦って行動する訳にも行かない。
「今更だろう? 無間城の出現を阻止できなかった時点で帝都への被害は出るだろうって予想していたわけだし」
「それもそうだろうな。帝城を狙う以上は帝都の被害は確実に出る。しかし、あの堅い結界を完全に突破するには少しばかり骨が折れそうだ。流石は無敵を誇る帝都だな。最も侵略を受けたことはこれが最初になるはずだが…」
そう、実は帝都は一度も外部からの侵略を受けたことが無く基本起きているトラブルも全部身内事だばかりで、外壁も内壁も使った事が無い。
今回使用している結界も初めて使うモノで、今までも使っていないからこそ急遽私用ツすると言うこともあり急いでメンテナンスをしたと言われているほど。
結構慌ただしかったと聞いた。
帝城では師匠と死竜と皇族一家が後の準備に入っているところで、二日か三日ほど準備が掛かるという話だが、どのみちジェイドとの因縁は此所で終わらせないといけない。
「戦う前に…初代ウルベクトからアンタへの手紙だ」
俺は胸ポケットから一枚の紙切れを取り出してジェイドに手渡すと、ジェイドはその手紙を受け取るために椅子から立ち上がって俺の持っている手紙を受け取った。
俺の側から離れていき玉座の近くで手紙を開き読み始めていくと最後には小さく微笑みながらその手紙を破いた。
何となくそうしそうな気がしたが、目の前でやらなくても言い気がする。
「今更さ…分かりきっていた事。あいつが私との友情を決して諦めない事も、何時だって親友でいてくれることも。だが私からの答えは分かりきっている。変わっていないさ。私にとってもあいつは友人なんだ。何時だって親友だった。だからこそ君の正体が分かったときも最初は手を出さなかった」
「俺だって知っているさ。アンタが何時までも初代ウルベクトを親友として見てくれていたことを…だからこそそんな手紙を残したんだ」
「だからこそ。私の願いが正しいのか、あいつの願いが正しいのかハッキリと決めたいのさ。この先の未来をこれ以上引き延ばすことは出来そうに無い。二千年待った。これ以上は流石に待てそうに無い。いい加減終わらせたいのさ。この下らない不死者達の戦いの行く末を」
かつて不死者達は己が願いの為に多くの命を奪い続け、世界から命を搾取し続け人から恨みを買っていた。
多くの人達が己が欲望を抑えることが出来ず、多くの人達が不死者を殺そうと必死になっていた時代がある。
ジェイドが軒並み封印か殺害を試みて意向は数が激減したことは間違いが無い。
ジェイドは少なくとも世界に平和を作り出したんだ。
「人を信頼することは出来そうに無い。沢山の人を見てきたつもりだ。どんな人間も下らない。家族愛や親友のためと言いながら他の誰でも無く自分の為にしか生きる事が出来ない人間ばかりだ。権利を与えられればそれに必死でしがみ付こうとする。これが下らない言えないと思うか?」
人は権利や金を目の前にしたとき誰もが目が眩み飛びついてしまうモノなのだろう。
そういう人間が上に立つ限りきっと欲望は永遠に『不死者』を求めるのかも知れない。
だが、そんな欲望が何時だって人に成長を与えてくれた事は真実だ。
どんなにマイナスな行動だとしても人を技術を成長させることだってあると俺達人間は知っている。
戦争が人の命を無作為に奪い続けてきた一方で人々に繁栄の技術を授けてきたのも事実なのだ。
戦争は人の権利や金、欲望といってマイナスの本質を表わしたモノなのだとしたら、やっぱり俺達は此所で戦っていることだって将来のためになるはず。
「人が起こすあらゆる出来事全てを完全に否定することは出来ない。人が起こす出来事に完全な意味で偶然など無いしあらゆる事象は必然性を持って起きている事なのさ。人は時にマイナスにばかり目がいくがどんなマイナスなことにだってプラスがあるはずなんだ。人はプラスを見て生きるべきだ。だが人は嫌な事ばかり考えて生きる」
「それが人だ。人は何時だってネガティブなんだ。誰だって楽しいことよりも嫌な事を真っ先に思い出す生き物さ。辛い事や苦しい事は何時だって「もうしたくない」って思うモノだし」
辛い事があればそれを思い出してつい逃げてしまうモノだ。
それは決しておかしいことじゃない。
だが、ジェイドの言うとおり人は常にプラスを考え、プラスを見ながら生きる必要があるのかも知れない。
どんな事象や出来事にも必ずプラスはある。
小説や漫画やゲームじゃ無いんだ。
この世の中に完全な悪など実は存在しないと俺は知っている。
「そう。この世の中に完全な悪党などいない。いるとしたらそれを演じている者だけだ。それを押しつけようとしている人間だけだ。どんな人間にもかならずプラスはある。中途半端にしか人は知ることは出来ない。それが全てだと思い込み結果追い詰める」
人は人らしく生きる事が出来る生き物で、どんな時だって失ってはいけないモノがある。
「人は誇りを胸に、夢を抱きしめて生きる事で本当の意味で人らしく生きる事が出来る。子供である内には「自分に取って誇りとは何か」「自分はどんな夢を抱きしめて生きるのか」を考えて生活するのさ。それが分かって初めて子供から大人になる。出来る事ならこの出来事が君にとってのそうである事を祈るばかりさ」
「アンタに取っては何だったんだ?」
「私か? 私にとっては…」
ジェイドは少しばかり考えるような顔をする。
「友を誇りに、平和を夢にしたのさ。だからこそ私は私自身が正しいのか友の言葉が正しいのか確かめたいんだ。そろそろ良いだろう」
ジェイドは今度は殺気を纏った瞳を俺にハッキリと向け、俺もそれに応えるように殺気を纏い始める。
戦う為に俺達はここにいるはずで、お互いに譲れないモノがあるからこその今なのだ。
目先の利益のためじゃない、目先にある世界や人々を思うからこその行動なのだ。
そこに引くべき一線も振り返って逃げる理由も一つも存在しない。
戦い先に向うことで俺達自身の未来にも世界の未来にもなるのなら…戦うべき何だ。
俺とジェイドは同時に地面を蹴った。




