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無間城の戦い 28

 ジャック・アールグレイが部屋の中に入ると同時に部屋中に満ちあふれているナノマシンに気がつき口を覆い隠す。

 ジャック・アールグレイからすればこの展開は分かりきっていた事で、事前に備えをしっかりと整えており口元にマスクを付ける。

 この初見殺しに近い攻撃方法を分かった瞬間からジャック・アールグレイにとってもう既に正々堂々という言葉が存在しないと理解させた。

 実際部屋にはメメントモリがいない。

 何処かに隠れているのだろうし、多分こうしている間も裏を掻こうと必死になっている。

 大気中にナノマシンを散布して待つと言うことは実は予想していた行動の一つで、ジャック・アールグレイは静かにレイピアを取り出して握りしめた。

 メメントモリにはボウガンやカールのように異能を使った特殊な攻撃方法が存在しない分、どうしても攻撃方法が絞られやすい。

 斬撃、銃撃の二通りに絞られるので、それ以外だとナノマシンを使った殺害方法になるがこれはもうこの段階で殆ど封じられている。

 ではメメントモリがどう出るかと予想はしてみるが、単純に予想してそれが適度に返ってくるとはとてもでは無いがジャック・アールグレイには思えなかった。

 足下がグラグラすると思って急いでその場から離れると足下から大量のナノマシンが現れてジャック・アールグレイを飲み込もうとする。

 ジャック・アールグレイはギリギリで攻撃を回避しつつナノマシンを自らが作り出した黒い口でナノマシンを飲み込み消滅させた。


「やれやれ…臆病なことだ。正々堂々と戦えとは言わないがせめて姿を現したらどうだ? それともそれも出来ないぐらいに君は私に負けたと認めたと言っても良いのかな?」

「……………」

「返事も無しか。やれやれ仕方が無い。別段君個人に興味があるわけじゃ無いからな。エネルギータンクだけ破壊しておいとましよう」


 ジャック・アールグレイは早歩きでエネルギータンクへと向って行き、目の前に立って破壊しようとした所で大量のナノマシンがエネルギータンクを包み込む。

 ジャック・アールグレイの渾身の溜息を前にメメントモリはやはり沈黙を続けるだけ。

 そしてそのままジャック・アールグレイへと向ってナノマシンで襲い掛っていくが、ジャック・アールグレイはそれをエネルギータンク事破壊しようと同じように黒い口を作り出して襲いかからせるが、ジャック・アールグレイのその行動を事前に読んだメメントモリは本人を攻撃し始めた。

 流石に攻撃を受けている最中でエネルギータンクを破壊する事は出来ないと読んだジャック・アールグレイ、そのままバックステップで後ろへと距離を取る。


「話し合いには応じないし、かと言えば寡黙にただ戦うだけ。正直面白みの無い機械だな。せめて姿ぐらい現したらどうだ?」


 無反応を続けるメメントモリの姿に流石にジャック・アールグレイは本気で諦め、素早く決着を付けようと試みる。

 まずはこの空間にメメントモリ本人を引きずり出さないといけない。

 メメントモリは本人が核と呼ばれている存在で、それ以外は全てナノマシンで構築されている機械の体を有する。

 少なくとも現存するメメントモリは核が近くに無ければナノマシンも操る事が出来ない。

 そして、流石にメメントモリは核までナノマシンのように隠すことが出来るわけじゃ無い。

 先ほどのエネルギータンクそのものを護ろうとした姿を見てジャック・アールグレイは確信を持てた。

 間違いが無い。


(本人の核はあのエネルギータンクそのものか。くっ付けたというよりは取り付けたのか。やれやれ…必死で護るわけだ。あれが破壊されると言うことは本人が死ぬと言うことでもあるのだから)


 ナノマシンで作り出した津波のような攻撃に対してジャック・アールグレイは黒い何かを纏った攻撃で津波を弾き飛ばす。

 すると今度は足下へと向ってナノマシンが集まっていき、ジャック・アールグレイはそれをジャンプで避けつつ空気を固めて足場に変えた。

 やはりあのエネルギータンクを護ろうと試みているようで、会話は全くする気が無いメメントモリ。


(まあ分からないでも無いがな。会話をすればこっちのペースに持って行けるかと思っての行動なのだが。乗ってこないのなら少し強引なやり方をするしかない。ただ…どうにも違和感があるな。このやり方で私が強引な解決方法をとれば危ういと言う事は分かっている事だろうに)


 この状況で強引な戦いをすれば割と簡単に解決する事ができるが、それはメメントモリ自身も本来なら阻止すべき案件の一つで、そういう状況で打てる手も幾つかある。

 そんな状況でジャック・アールグレイはとある可能性をふと考察する。

 あくまでも最後まで戦った上での結論だと内に秘め今は目の前にあるエネルギータンクを破壊する事を優先すると考えた。

 決してそれを考えていないわけじゃ無いジャック・アールグレイ、それは同時にボウガンやジェイドが今現在考えている可能性でもある。

 だからこそボウガンは今コッソリとこの戦いを見守っており、この後取るメメントモリの行動次第で状況が変化する。

 ジャック・アールグレイは仕方が無いと先ほどより更に強い力を引きずり出しつつ、自分の腰辺りを突く。

 すると腰の辺りからダークアルスターがコッソリと姿を現した。


「やはり隠れていたか」

「私がどうしてあんな奴らと一緒に行動しなくてはいけない? それに私の役目はまだ終わっていない。あいつは…聖竜は私が役目を放置したのではと予想したようだが、私の役目は奴の死後にこそある。役目は最低限果たすさ。力は貸そう。さっさと終えるべきだ」

「だな。次に来るナノマシンの津波を超えてからが勝負だろう」


 ナノマシンを次々と増やして行き床の隙間という隙間から次々とナノマシンが噴出していき、それが地面に付着してまるで化け物の胃袋の中に見えた。


「因みに大丈夫なのか? 今大気中はナノマシンだらけだぞ?」

「ああ。対策をしていある。気にすることは全く無い。と言うかナノマシンという話を聞いて直ぐに嫌な予感があったのでな」

「ナノサイズの機械だからな。厄介極まりない。無限に製造しているわけじゃ無いだろうが、それでもかなりの数をこの部屋に持ち込んだようだな」

「上から下から右から左からと」

「この部屋ごと飲み込むつもりかな? まあ…その前に決着を付けるだけだ」


(しかし。この戦い方。やはりメメントモリ自身の狙いは…フン。違和感はしっかりと感じていたが、ダークアルスターの発言と良い私の予想が当たったらしいな。結構予想が連続で当たるのは珍しいんだが)


「どうした?」

「タイミングを見ているんだ。それより力を練っておけ。勝負は一瞬だ。悪いがアンヌやギルフォードとは違って決着そのものを長引かせるつもりは無い。タイミングは俺が計るからお前は何時でも最大の攻撃をたたき込めるようにしておけ」


 ダークアルスターはエネルギーを練り上げていきジャック・アールグレイのレイピアへと集めていくと、レイピアには真っ黒いドラゴンでも宿っているかのように黒いオーラに見える何かが形作っていく。

 メメントモリはそれを最大に警戒しているのか、エネルギータンクを護るようにナノマシンを全て収束してから巨大な槍の形を取る。

 無数の槍では意味が無いと踏んだからこその一番の強度で、一番の威力を誇る槍を飛ばす。

 それこそがジャック・アールグレイが攻撃するタイミングでもあった。

 槍とジャック・アールグレイの攻撃が衝突していき、ナノマシンが削れていきながらジャック・アールグレイの攻撃はエネルギータンク事メメントモリの核を完全に破棄した。


(やはり…それがお前の狙いか)


 メメントモリは笑った…誰にも分からないように。

 きっと笑っていたのだろう。


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