無間城の戦い 24
ギルフォードの視界に写っていたボウガン、そのボウガンと戦う為に実はギルフォードは妹のレインからボウガンの事で知っていることを教えて貰ったのだ。
レインは兄であるギルフォードに対して死領の楔を通じて知ってしまった事、それは決してボウガンの本心では無く、彼が吸血鬼としての第二の人生を得たときに植え付けられてしまった呪い。
それは始祖の吸血鬼がボウガンに植え付けた『生きろ』という呪いとその衝動故の殺人、その原因を取り除く方法である。
そう、実はジェイドですら知りようもない方法が存在するが、その為にはボウガンを追い詰めて衝動を引きずり出さないといけない。
それこそがギルフォードがボウガンを相手にする際の心掛けなくてはいけないことで、それが出来るかどうかでボウガンとの戦いが左右すると言える。
ギルフォードは正直に言えば死領の楔に対する策なんて存在しない。
それはそもそも死領の楔がもう自然と抜けるだろう事は死竜や聖竜ブライトからの発言で分かっている事でもあるのだ。
この無間城さえ落ちてしまえばもう数日ぐらいで落ちると診断されており、それまでレインの体調を管理すれば良いと言われ、そのことについてはギルフォードは病院に任せようと思っていた。
「お兄ちゃんは救いたい人の為に頑張ってね。そんなお兄ちゃんが大好きだよ。私ねあの人に感謝しているの。レインに本当は申し訳無いという気持ちを持っているあの人…レインは好きだよ」
レインだって酷い目に遭っているはずだし、それでも誰かを恨もうとはしないレインは真っ直ぐに生きているのだろう。
それだってアクアやブライト達の行動が実を結んだ結果だと言える。
ギルフォードは何時だって思うのだ…自分は兄として全くふがいないと。
何時だってレインを救う事が出来ず、どんな時だって側に居てやることだって出来やしない不出来な兄なのだと。
実際本当にレインがピンチだった時救ってくれたのはソラやアンヌだった。
彼等が手を差しのばして救ってくれて、後になってその事に気がついてもレインは気丈に振る舞って頑張って笑顔を向ける。
本当はずっと寝ている方が楽だろうし、本当は辛い事だって吐き出したいのだろうに、それでも我慢して耐え忍んでいる。
たった一人の家族。
でも、レインは「お兄ちゃんにとっては仲間も家族でしょう?」と言ってくれる。
そうだと言えるのだ…彼等もまた家族であり仲間だったのだと…今では全く違う道を進んでいる身だが、どこか同じ方向へと向って進んでいる。
でもそんな中でたった一人共に戦いながらも捻くれてしまっている馬鹿な仲間が居るとボウガンを見る。
『自分は死んでしまった方が良い。誰かを不幸にすることしか出来ない化け物なんて』
そんな言葉をまるで当たり前のように吐き出し、まるで自分が慈悲の余地もないような極悪人のように振る舞うボウガン。
例え世界の全てがそう思ったとしても、きっと誰かが彼に手を差しのばすだろう。
手を差しのばすような人達がいる限りきっとその人は本当の意味ではまだ極悪人では無いはずだ。
だって…彼が本当に極悪人ならきっとレインも下手をすればギルフォードだって生きては居ないだろう。
彼には罪悪感を抱くだけの善意が存在しているのだから。
『死に逃げるな。本当の意味で極悪人にとって死は刑罰になり得るが、それ以外では罪に罪を重ねているだけだ。何よりもそんな罪に俺達を巻き込むな。誰かを苦しませるような事に賛同するな。お前は生きることだって出来るはずなんだ。人に戻りたいって願ったならそれを貫き通せ。俺が言いたことはそれだけなんだ。そんな気持ちを俺はこの二本の剣に乗せて戦うだけだ』
二本の剣を逆さ持ちで構え直し、右手握りしめている方の剣に真っ黒な炎を纏った状態で、力一杯振り抜く。
ギルフォードから来る攻撃を前にしてボウガンが取った行動は影に沈んで隠れるという方法だった。
ボウガンが海洋同盟の事件の最中に奪った影を使った攻撃方法だが、本来は竜のように強靱な者達が扱う事が出来る能力で、一般の人間が使ったら影を操る程度しか出来ないが、不死者達が使えば影に隠れるや影の質量を増やす等まで出来るようになる。
実際影に沈んだボウガンは影を立体的に作り直し、その質量を増やしてから鋭い槍のように形状を変化させてギルフォードへと襲い掛る。
影による攻撃とギルフォードによる黒い炎による斬撃がほぼ同時、まず一撃で最初の影の槍を切り落とすが、ボウガンは直ぐさまに二撃目を放っておりギルフォードはそれを左側の剣の熱量を増やすことで切断能力を上昇させて切り落とす。
ボウガンは影に隠れている限界を迎えたのか一旦外まで出てくると、ギルフォードはそんなボウガンに向って横一閃に斬撃を繰り出すのだが、ボウガンはそれを消えることで回避した。
瞬間移動なのかと思ったが、そうでは無いとギルフォードは目の前に転がるギルフォードが切ってしまった石材を見て思った。
ボウガンはギルフォードが部屋に来る前にその辺壁を壊しては石材をいくつにも渡って用意していたのだ。
「空間交換か? 確かソラも使えると言っていたな。あまり使いたくないと言っていたが…」
「ほう。そう言えば使えると聞いた事があるな。そうだ…空間交換。物質を中心に同じ体積の空間を交換する。誓約としては空間内に一定の大きさの物質が必要。もう一つは距離は離れすぎてはいけないと言うことだ。何十キロなんて流石に出来ないしな」
「逆を言えばその制約さえ無ければ瞬間移動とは違ってそこまでのデメリット無しで使えるのか」
「ああ。使う際に誰か生き物に触れていた場合も発動しないか。カールとかは使えないからな…多分使えるのは俺かキューティクルぐらいだろう。ジェイドは興味なかったはずだし…そもそも不死者としての能力が少々異なるはずだ」
その辺はギルフォードには分かりづらい部分であり、不死者達のランクが在ると言うことはダルサロッサでも知っていることだった。
ダルサロッサ曰く「不死者にはランクがあり、出来る事がそれぞれ異なる」との事だ。
「そこまで細かく名前が決っているわけじゃ無い。例えば本来ボスであるジェイドは肉体がただ不老不死になっただけでそれ以外に得意な点は無い。その点不死者となると同時に異能に目覚める俺やキューティクルのようなパターンもある」
「お前のその言い方だとまるでジェイドという男が不死者としては劣っているように聞えるが? そういう解釈で良いのか?」
「ああ。本来はな。ボスはその劣っている不死者としての能力を改造した異能や鍛え抜かれた肉体や経験で上回っているんだ。あのボスがチートと言われている由縁は不死者では無く異能故だ。あれは能力がチートなんだ」
「確かダメージを他人に上書きするだったか? この目で見ているわけじゃ無いからどうにも脅威度が分かりづらいが」
「要するに頭をぶち抜いても死んでいるのは頭をぶち抜いた人間。異能で粉々に、微粒子レベルに粉後になってすらも瞬間で復活しそのまま相手がその状態になってしまう。分解を使う人間は何十人も見てきたし別段特別という事は無いが、それでも不死者の殆どは通用しない。俺とて通用しないしな。異能を殺す術を持たない者に本来不死者は殺せない。攻撃が返ってくるんじゃ無い、攻撃をしたと言う結果を返す能力だ」
「結果を返す? 攻撃したという『結果』だけを? それでソラか…」
「まあ、今はどうでも良いことさ。どうせお前が戦う事は無い。戦うのはあの少年だ。それに…もうそろそろ相手の探り合いは良いだろう?」




