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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ラスボスの不在を怪しむ

 初代王と戦い始めて、気付いたことがある。

 この男、本当に実体があるのだ。


 レオは数度剣を切り結びながら、己の切っ先が掠めた初代王の皮膚から血が流れていることに驚いた。

 なぜなら彼の本体は呪いの剣であり、多少の傷など即座に修復されてしまう仮初めの身体だと思っていたからだ。どうしてわざわざ、ダメージの蓄積する「人としての実体」を持たせているのか。


(確かに魔王が、『あの剣はエルダール王家に渦巻く憎悪を糧に、復讐霊の禁忌の力によって怨念の実体化を可能にする』と言っていたが……)


 媒体としているのが賢者の石……人間界の創世の石だからだろうか。しかし、復讐霊の「禁忌の力」を使ってまですることか?

 そう考えたところで、レオははたと思い直した。


(……いや、そもそもの前提が違うのか。呪いの剣は戦うために作られた剣じゃない。王家の血を縛って操り、怨念から人体を生成し、カリスマを使わせて世界を掌握するのが目的なんだ)


 大精霊がもたらしたカリスマのスキルは、おそらく人間しか持ち得ない。当初の復讐霊は初代王を操ってそれを利用しようとしていたのだろうが、大精霊に認められる賢明さを持っていた彼は、復讐霊にとってかなり扱いづらい人間だったはずだ。

 だから次代以降の王家の愚王を操るか、一族の怨念や魂を集めて自身が意のままに操れる人間を生成し、カリスマを使わせようと考えたのだろう。


(だが、カリスマはそんな悪意の塊では発動できない。きっと復讐霊はその条件を知らなかったんだろうが……そうか、だからそれを知った時、この剣と意識を繋げていても意味がないと気付いて切り離したのか)


 クリスとネイだって、最初の初代王のカリスマが効いていなければ、この状態の敵に与することはなかったはずだ。

 もしもこの二人のカリスマが外れてしまえば、敵はエルダール王家の凡庸な戦闘能力しかない憎悪渦巻く怨念の寄せ集め。そりゃ復讐霊も捨て置くだろう。


(……しかし、そうなると不可解だな。復讐霊の意思が介入していない今、魔物のような転生を目的としてないこいつらが、何の必要があって俺と戦っているんだ……? 憎悪による無差別的な八つ当たりか?)


 それとも、ゲートのボスとしての矜持でもあるのだろうか。……いや、違うか。ここがゲートである以上、空間を維持するだけの魔力が必要であり、ラスボスは魔物か魔族、もしくは半魔でないと成り立たないはずだ。現時点で目の前の男は怨念にまみれているとはいえ、あくまで禁忌の力で作られた『人間』。ボスにはなれない。


 ……いや、ちょっと待て。

 それってつまり、こいつはラスボスじゃないってことだ。


 一応本体は呪いの剣だが、これは魔物ではなく魔法アイテムだ。もしも魔王の魔力によってゲートが維持されているだけだとしたら、破壊したところで脱出法陣は現れないし、攻略したことにもならないだろう。


(……そもそもランクSSSゲートは魔物の排出を前提としているが……。魔王をゲートの外に出してしまえば、維持できなくなって勝手に消えるのか? しかしそれなら、最終戦争ハルマゲドンの時に『まだ神でないもの』とやらを地上に排出した後のランクSSSゲートも消えているはず……。そうなっていないということは、ラスボス討伐以外の何か別の条件があるのか……?)


 ……だめだ、分からん。

 ランクSSSゲート自体が、世界の理から外れた素因によって発生したものだ。そのせいで攻略条件を推測するにも限界がある。

 ひとまず、一つずつ潰していくしかあるまい。


 レオは気を取り直すと敵の左腕に狙いを定め、剣を振るった。

 だがすぐにネイ由来のスピードでもって短剣で切っ先を逸らされ、ほぼ同時に憎悪の大斧(ヘイトアクス)が振り下ろされる。

 それを剣で受け止めたレオは、その打撃の重さに強く眉根を寄せた。


(攻撃力が上がってきてる……。あまり時間を掛けると、憎悪の大斧にヘイトが溜まっていくな。こいつ、それを待って本気では仕掛けてこないのか)


 これはクリスの戦い方だ。多少の傷を負っても自身のペースを崩さず、こちらに渾身の一撃を食らわすタイミングを計っている。

 クソが、とレオは内心で悪態を吐いた。


 初代王は両手それぞれに、右利きであるネイのジャイアント・ドゥードゥルバグの短剣と、左利きであるクリスの憎悪の大斧を装備している。それが上手い具合にはまっているのだ。

 負けるつもりは毛頭ないが、やはり厄介なことは確か。下手に切り結んでヘイトを稼がれても面倒だと少し距離を取ると、敵は途端に声を上げた。


「早くその者を保護するのだ!」


 これはクリスとネイへの指示だ。その者とは、当然ユウトのこと。

 二人はこちらに目もくれず、エルドワに抱えられた弟を追っていた。カリスマの特性上攻撃的な言葉は使えないようだが、目的はもちろんユウトを人質にすることで間違いない。


 二人よりも身体能力に優れたエルドワにユウトの血のブーストまで掛かっているのだからそうそう捕まるまいが、クリスもネイも曲者である分、こちらもまた時間を掛けるほどに厄介だ。

 それを忌々しく思って舌打ちをしたレオに、不意にユウトが声を掛けてきた。


「レオ兄さん、キイさんとクウさんを呼んで、腕輪使って!」

「腕輪を? だが、瘴気中毒が切れないことには……」

「二人ともは無理でも、ネイさんだけならどうにかできるかもしれないから!」


 ユウトはさっきからエルドワに抱えられたまま何かをしていたようだ。しかし、レオはここまでその成果らしきものを確認できていなかった。ゆえに、その意図が分からず困惑する。

 腕輪を使えということは、沈黙サイレントの魔法でカリスマを封じろということだろうけれど。


(瘴気中毒の支配力があるうちは、カリスマは解けないんじゃないのか……? それに、狐だけならどうにかできるって……?)


 一体どういうことだろう。……しかし、弟が言うなら応じるしかあるまい、兄として。

 レオは右手で剣を構えたまま、左手の手袋を口にくわえて一息に外すと、その手のひらを地面に押し当てた。


「出でよ、キリイル・クルウラ!」


 意思を持ってその名を呼べば、すぐさま自分を中心に召喚魔法陣が浮かび上がる。次の瞬間には光の柱が立ち上り、間もなく上空に大きなグレータードラゴンが現れた。

 羽ばたきひとつで旋風が巻き起こるレベルの、紛うことなき強者だ。

 だがこのキイとクウが合体竜でいられるのはわずか三十分ほど。

 その姿を見上げたレオは、即座に指示を出した。


「キイ、クウ! 咆哮!」

「グオオオオオオオオオオォォォゥ!」


 それに応じたドラゴンが咆哮を発すると、周囲にビリビリと空気を震わすバフ阻害ノイズが響き渡る。

 これで敵の状態異常無効などの保護バフが、一時的にだが外れたはずだ。レオはすかさず腕輪の魔石を擦った。


沈黙サイレント!」

「……!」


 ユウトが腕輪に込めた魔法は強力だ。唱えた途端、初代王が口を開いても言葉を発せなくなった。

 これでひとまずクリスたちに新たな指示が出せなくはなったが、カリスマ自体は掛かったまま。弟はここからどうする気なのか。


「レオ兄さん、そのままキイさんとクウさんの力を借りて、沈黙を掛け続けて! 僕、試して確認したいことがあるから!」


 そう言うと、ユウトは自分を追ってくるネイの方に向けて手をかざした。


聖なる領域(ディバインサークル)!」


 これは、弟がグリムリーパー戦で覚えたばかりの聖属性魔法だ。途端に現れた球体がネイを包み込む。球に囚われた男は、そのままユウトによって中空に浮かされた。

 ……一体、何をする気だ?


(聖なる領域は確か、あの球体の中を呪文封じ(アンチスペル)状態にするものという話じゃなかったか……? 魔法を使わない狐に掛けても意味がなさそうだが……)


 レオはそれを怪訝に思いつつも、ドラゴンに咆哮を指示して沈黙を敵に掛け続ける。斧に無駄にヘイトを稼がせないよう、直接攻撃は最小限。そうしながら、兄は弟の意図に乗ることにした。

 だってネイをただ戦線から離脱させるのがユウトの目的なわけはないのだ。それならクリスも一緒に外すはずだし、何よりわざわざ魔力消費量の多い聖属性の、それも継続消費型で燃費の悪い魔法を選ばないだろう。

 きっと何か、弟なりの思惑があるのだ。

 レオは敵を剣で牽制しながら、ユウトの心算が形になるのを待った。



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