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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、知性アップを勧められる

 瘴気中毒といえば以前にタイチの父とミワの母、直近ではウィルが仕掛けられた洗脳の手段だ。少量の瘴気を浴び続けていると依存状態に陥るのだが、本来これは時間がかかるもの。

 しかし呪いの剣は、賢者の石の欠片と術式、そして初代が持っていたカリスマを巧みに利用して、それを短時間で成しえたということだろう。


「聴衆を集めて演説をすれば、カリスマのトランス状態も相俟って、その場にいる人たちをまるごと支配できるでしょ? エルダールの初代王ってエミナを壊滅させたり魔族を裏切ったりたくさん酷いことをしたみたいなのに、みんな異論もなく従ってたのは、多分それだけの強制的な支配力があったんだと思う」

「なるほど……支配力の源は瘴気中毒か!」

「そう言われると、確かに得心が行くね。私はエミナが滅んでエルダールが台頭した時に、全ての過去の文献を残らず処分するなんてどうやったのかとずっと不思議に思っていたんだけど……。隠して残すという選択肢が誰にも芽ばえないほどの支配力があったから、可能だったのか」

「あー、そっか。ユウトくんはそんな瘴気中毒による支配力を弱めるために、俺たちに瘴気無効のアイテムを身に着けろって言ったわけね」

「はい。カリスマ自体は防げなくても、悪いことでも何でも言うことを聞いちゃうような強制的な支配は免れるかなと思って」


 ユウトの推論は、かなり信憑性があった。

 そもそも復讐霊は、世界を滅ぼすための盲目的な手駒を欲しがっていたからだ。そのために最初からカリスマ持ちのエルダール初代に目を付け、対価の宝箱を使って操ろうとした。

 おそらく建国を目指す過程で人民を治めようとする初代に、復讐霊が呪いの剣を与えたのだろう。カリスマ×瘴気中毒の支配力があれば、これだけでエミナを滅ぼす軍隊を手に入れたようなものだったはずだ。結局それは最終戦争ハルマゲドンのさなか、失敗に終わったが。


 思えば復讐霊がその後もずっとエルダール王家に呪いの剣を与えたままだったのも、再び利用できる強いカリスマスキル持ちが現れるのを待っていたからかもしれない。

 しかしながら、やっと現れた強いカリスマを持つ人物は、呪いの剣を忌む思慮深いライネルだった。そこでエルダールに見切りを付けた復讐霊が、権力に貪欲なジアレイスの方に鞍替えをしたのだろう。


(……対価の宝箱がジアレイスだけでなく俺の前にも現れたのは、カリスマ持ちでもあったからなのかもな)


 つくづく、対価の宝箱と決別できて良かったと思う。グラドニ様々だ。そうでなければ今頃復讐霊に手玉に取られ、ライネルと敵対し、エルダールを滅ぼすためにユウトを生け贄として宝箱に捧げていたかもしれない。考えるだに恐ろしい。


「……レオ兄さん、どうかした? すごく怖い顔してる」

「何でもない」


 自分で勝手に想像したもしもの事態に思わず顔を顰めていると、ユウトに心配をされてしまった。

 うん、大丈夫だ。今、俺の宝はここにある。

 それを確認して、小さな身体を腕の中に収めた。


「お前とエルドワは瘴気中毒の心配はないな?」

「ん、それは平気。……後は父さんの力がどんなふうにカリスマに干渉してるのか分からないけど、それについてはここで考えても仕方ないよね。父さんの意思がなければ、予想のしようがないし」

「そういえばユウトくん、さっき魔王は自我が吹っ飛んでるかもって言ってたよね。何か根拠があるのかい?」


 ユウトが魔王の自我がない態で話す様子に、クリスが首を傾げる。それに対し兄の腕の中から男を振り返った弟は、ひとつ頷いた。


「精霊さんと一緒で、魔王である父さんも人に憑依したり物理的に直接介入したりすると世界からペナルティを食らうと思うんです。それが強制的になされたことだとしても、呪いの剣が発現させた初代に力を貸した形になったなら、ネイさんに憑依した時の精霊さんと同様に意識を吹き飛ばされるんじゃないかなって」

「あー、大精霊も俺に憑依した後、自我だけ吹っ飛んで魔力の一部が俺の中に残っちゃったんだもんね。同じ感じで魔王の意識が吹っ飛んで、魔力だけが呪いの剣と初代に残ってると考えられるわけか」

「これって、魔王としては想定外だったのかな?」

「もちろんそうだと思います。創造主は世界の理を護る立場なので」


 ユウトが肯定すると、クリスはふむと顎に手を当てた。


「だとすると、このゲートが呪いの剣をここに召喚する際に、魔王も含めた卵ごと一個体と見なされて、一緒に引き寄せられちゃったのかもね」

「……やはり呪いの剣もゲートで再生成されたものではなく、召喚したものだと思うか?」

「ここにある魔王の魔力が本物なら、それしか考えられないだろう? そもそもさ、魔王自体もそうだけど、復讐霊が作り上げた呪いの剣を虚空の記録から再生成することだって無理だと思うんだよね。ここまで見てきたものや手に入れてきたものは再生成されたものかもしれないけど、そんな縛りがあるわけじゃないし。生成不可な唯一無二のものなら召喚するしかないでしょ?」

「まあ、確かに」


 本来魔尖塔にできるゲートの中にあるのは、『次の世界に引き継ぐべきもの』だ。失われたものに限定されるわけではない。だとすれば呪いの剣……というか、そこに使われている賢者の石の欠片は、確実にここに引き込むべきもの。創世における重要アイテムなのだから、再生成できるわけもないのだ。

 だとすれば、クリスの意見はもっともだった。


「どうもこのゲートではいろんなものが敵として合成強化されてるみたいだし、その一環で召喚された剣と魔王が卵の中で混ざってしまったのかもしれないじゃない?」

「それが世界の外からもたらされた力によるものなら、魔王が抗えなかったのも納得がいく、か。まあ、魔王の自我がないなら俺としては逆に戦いやすいかもしれん」


 魔王としての意識がなければ、レオを隷属扱いしたり勝手にユウトとの魔力のつながりを切ったりはしてこないだろう。ユウトを含めた戦闘を回避できなくなるのは確実だが、魔王の自我と敵の悪意が混ざることに比べたらずっとマシだ。

 そう考えれば、だいぶ勝機も見えてくるというもの。


「とりあえずは初代エルダール王のカリスマと、魔王の魔力を警戒する方針に変わりはない。後は臨機応変に行くだけだ」

「レオ兄さん、卵の中に行く前に初撃無効かけておく?」

「今回はいらん。カリスマ持ちの初代が問答無用で攻撃を仕掛けてくる可能性は低いし、警戒すべきは物理より魔力だからな」

「私たちの装備は属性魔法に関しては耐性が高いから、なんとかなるかな?」

「あー、四大属性には強いけど、魔王ってもしかしなくても闇属性じゃないっけ? そうでしょ、ユウトくん。だとすると、もえす装備だとちょっと心許ないかも」

「そうです。父さんは闇属性ですね。だったらガラさんにお願いして、闇魔法耐性アップ掛けてもらった方がいいですか?」

「魔王相手じゃ耐性アップくらいじゃ焼け石に水だろ。ユウト、どうせ補助魔法を掛けてもらうならステータスアップあたりにしろ」


 闇魔法でも一応即死や毒、呪いは無効化できる。それ以外の魔法ダメージは食らった時点で戦闘不可、要回復案件だ。耐性を上げたところで残る体力が少し増えるくらいで手間は一緒。ならば魔法を撃たせないか魔法に当たらないか、撃破力を上げるか、そういうことに能力を付加した方がいい。


 そう言うと、会話を聞いていたクリスが何かをひらめいたように手を叩いた。


「あ、ユウトくん。だったらインテリジェンスを上げよう。多分知性が上がればカリスマが発する甘言に対する抵抗が付くし、レオくんの語彙力も上がる」

「……レオ兄さんの語彙力?」

「ほら、レオくんもカリスマ持ちだからさ。それを強化したらどうかなって」

「俺のカリスマを強化? 無駄だろう、そんなの」


 聴衆相手に絶大な支配力を発揮する初代のカリスマ、瘴気中毒の分を差し引いたってレオよりも遙かに上の威力だ。それに少しばかりの知性の底上げしたレオのカリスマで、どう対抗できるというのか。


「クリスさん、レオさんは言葉を尽くすより腕力にものを言わすタイプですよ」

「それは分かってるんだけど、まあ、もしもの時の切り札的な感じでね。……さっき、レオくんのカリスマスキルが発動しないのはユウトくん以外に興味がないからって言ったじゃない? カリスマって有り体に言うと自分の思想に相手を巻き込むスキルなんだけど、主に演説を流布手段にしてるってことは、多分相手に意識を向けて説得しようという意図がないと発動しないんだ」

「だったらなおさら、ユウトくん以外みんなジャガイモかなんかだと思ってるレオさんのカリスマを強化したところで意味がないんじゃ?」

「心外だ。ジャガイモは好きだが貴様は嫌いだぞ」

「レオさん、今はそういう嬉しい突っ込みいらないから」

「あ、嬉しいんだ……さすがネイくん」


 話が逸れた。要らん突っ込みするんじゃなかった。

 思わず毛虫を触ってしまったような気分で顔を顰めたレオに、クリスは苦笑して続ける。


「まあ、レオくんが私たちをジャガイモだと思ってようがキュウリだと思ってようがいいんだけど。つまりはさ、逆に唯一思い入れのあるユウトくんには、カリスマが強力に効くんじゃないかと思うんだ」

「……ユウトに、俺のカリスマが?」

「試してみる価値はあると思わない? ユウトくんに対してのみの話だけど、初代のカリスマよりレオくんのカリスマが勝るかどうか」


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