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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、迷宮に巡らされた加工の効果を知る

 推論、と言いつつ、クリスは自信ありげに語り始めた。


「この迷宮に使われているこのエミナの加工技術は、魔力を変質させる。でもその質の変換自体に魔力を使わないんだ。そこが術式と違うところで、さっきユウトくんが『魔力を感じない』と言った理由だね」

「その魔力の変換を術式でするのと、この加工で魔力を使わずにすることで、どんな効果の違いがあるんだ?」

「効果は変わらないよ。私たち人間にとってはね」

「……人間にとっては?」


 つまりそれ以外、半魔や魔物、精霊諸々にとっては違うということだろうか。その割に、ユウトは首を傾げているが。

 一方でエルドワは、何か思い当たったのか顰め面をしていた。さらに後ろのキイとクウも、その話に心当たりのある顔をしている。

 その両方の反応を見て、クリスが苦笑した。


「ユウトくんくらい感覚が人間に近いとあまり影響がないかもね。逆にエルドワたちみたいに、稀有な魔力感知能力があるほど影響が大きいんだ。……当然、精神体である大精霊や復讐霊はもっと影響を受ける」

「創造主である大精霊たちもか?」

「おそらく、だけどね。彼らは私たちと違って、視覚ではなく魔力で物質を見ている。つまり、魔力を感じさせないものは感知できなかったり、魔力を変質したものは別のものとして捉えたりしてしまうんだ」

「……俺たちで言う『視覚誤認』みたいなことが起こるのか」

「簡単に言えばそういうことだね」


 そういえば、大精霊の一部である子狐が昨日から引っ込んだまま出てこないのも、これに感覚を狂わされるのを危惧しているからか。一応ネイと魔力で繋がっている分感覚の共有はできるだろうが、認知の摺り合わせをしようとするとバグが起こるのかもしれない。


「この魔力隠しや魔力の変質を術式でやろうとした場合、主立った魔力は処理できるけど、どうしても術式の発動に伴う魔力が残る。だからエルドワや大精霊たちはそれを感知することで異変の内容を察し、状況把握ができるんだよ。でも逆に、術式の魔力が見当たらなければどうなると思う?」

「そうか、その術式の気配がないと、そこにある魔力が操作されたものだと分からないわけだな」

「そう。この迷宮でいえば、エミナの加工技術で実体のない魔力の壁が作られていたから、エルドワは魔力操作を感知できなかった。そのせいで実際はない行き止まりを、そのままあるものと認識してしまった。これが術式によるものだったら、エルドワはその仕掛けに気付いたはずなんだ」


 エルドワの鼻は非常に優秀で、数多のものを嗅ぎ分ける。だが、さすがに無いものを感知するのは難しい。故にそこにある変質した魔力を、そのものとして感知してしまうということか。

 その話を先頭で聞いていたネイが、納得の行かない様子で首を捻った。


「ちょっと待って。エルドワやドラゴンたちは視覚も嗅覚もあるからいいとして、魔力を感じないものは認識できないなら、視覚を持たない大精霊たちってレオさんのこととか見えないんじゃないの?」

「あ、確かに。レオ兄さんって魔力全然ないですもんね。……でも、大精霊さんには普通に見えてたみたいですよ?」

「それはレオくんの場合、『無い』んじゃなくて『無がある』状態なんだと思う。……これは私が前々から思っていたことなんだけど」


 そう言ったクリスが、手で大きな四角を象ってみせる。


「例えばこう、世界という真っ白いキャンバスがあったとして、そこに魔力を持った様々なものが描かれているとするよね。『無い』っていうのはその中で、何も描かれていない部分を指してる。でも、実際そこには認識するに足らないだけで、魔力やマナ、瘴気なんかが漂っているんだ。これは分かるよね」

「ええと、つまり『無い』と言ってもそこに意識が向いてないだけで、存在しないのとは違うってことですね?」

「そうそう。大精霊たちが認識を難しく感じる『無い』って状態はこっちのことだね。でもレオくんの場合、何も描かれていないどころかキャンバス地すらない、穴が空いている状態みたいな存在なんじゃないかと思うんだ。『無』っていうのは異質な存在感があるんだよ」


 世界という『有』に溢れた中にいる『無』の存在。その違和感が『無がある』と認識させるのだ。クリスはそう説明して、好奇心に満ちた目でレオを見た。


「そして『無』というのは存在が異質なだけでなく限界が無い、『無限』であるという稀有な状態だ。そこにあるキャパシティを考えると、どれほどの可能性を秘めているのかわくわくしちゃうよね。……ユウトくんが世界にとって重要な存在なのは当然だけど、こうして見れば私はレオくんも外すことのできないキーマンだと思っているんだ」


 ……この男、どこまで勘付いて言っているのだろうか。

 おそらくレオが魔力を持たないことに疑問を持っていたクリスは、それについても調べていたはずだ。リインデルにどれほどの文献が残っていたかは知らないが、今の言い方、レオが神の依り代であったことを知っているようにも聞こえる。


 ここで魔王との契約の話をしようものなら、ものすごい食い付きをされそうだ。もう絶対に面倒臭いことになる。今は触れずにおくのが得策だろう。


「……俺のことはどうでもいいだろ。本題からズレてるぞ。今話してたのは、この迷宮が復讐霊から何かを隠すために作られたという推論に至った理由だ」

「おっと、そうだったね」


 レオが脱線した話を強制的に立て直すと、クリスはすんなりと頷く。今は話を広げるよりも、奥の部屋に辿り着く前にこの話を終わらせておく心づもりなのかもしれない。


「とりあえずこのエミナの加工技術が、復讐霊の目眩ましに有効だってことは分かった」

「うん。まあそれが分かれば、復讐霊がこの迷宮に容易に入り込めないというのも分かるよね。この技術があるなら、復讐霊を罠に掛けることも可能だ」


 もちろんこれで復讐霊を倒すことはできないが、感知能力を混乱させることはできる。感知していることと実際の状況が違うというのはきっと、大精霊や復讐霊のような世界の創造に係わったことのある高位存在にとって、途轍もなく不愉快なことだろう。

 人間ごときが作った罠に掛かろうものなら相当な屈辱のはず。

 そんな嫌厭する場所にそうそう侵入すまい。

 だが、それに対してまたネイが口を挟んだ。


「なるほど~。その方法でなら、この迷宮に隠したものに復讐霊が辿り着けないようにできるってことかあ。……でも、そもそも精神体ならわざわざ迷路に従って進む必要もないんじゃないの? 壁を突っ切って最短で辿り着くとか、何なら地中を通って上か下かから到達することもできるんじゃ……?」

「そんなふうに精神体がどこでもすいすい通れるなら、以前大精霊が祠に閉じ込められるようなことはなかったろうね。これは精霊学の研究をしていたディアさんに聞いたんだけど、人間が物質を通り抜けられないように、精神体である精霊は魔力濃度の濃い魔法障壁を通り抜けられないんだって」

「魔力濃度が濃い……? って、どういう状態ですか? クリスさん。単純に高位術式ってこと……?」

「まあ本気で説明すると長いから、今はそんな感じの理解で良いよ、ユウトくん。要は、その隠しものがある部屋は上下左右に魔法による障壁があって、結局復讐霊も迷宮を通らないと辿り着けないってことだけ分かってくれれば良い」


 こう聞くと確かに、この迷宮が復讐霊から何かを隠すために作られたという話は十分頷ける。だがそうなると、レオには当然ながら根本的な疑問が湧いた。


「あんたの言う、エミナの加工技術の有用性は分かった。だがエルダール初代王はそうまで厳重に、そこに何を隠したっていうんだ……?」


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