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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ライネルと魔王を引き合わせる

 レオは呆然としているライネルの手から剣を取り上げた。それはあっさりと兄の手を離れ、こちらの手中に収まる。

 世界から切り離されたおかげで、その呪いが途切れたのだ。もちろん一時的なことではあるけれど。


 そうして剣の支配から解放されたライネルは、未だ状況を把握できない様子で弟を見た。


「ア、アレオン……? 一体何が、どうなったんだ……?」

「ん? どうと聞かれると、難しいな……」


 魔王が匿ってくれたなどと言えるわけもない。レオやユウトはその存在が悪ではないと知っているけれど、この世界では魔界を統べる魔王は極悪非道な人間の敵扱いなのだ。

 そもそもレオもこの魔王を魔王だと知らない態で話を合わせているから、説明が難しい。


「とりあえず、あいつが隔絶された空間に俺たちを匿ってくれたんだ。もう剣の術式も効いてないだろ?」

「ああ、確かに操られる感覚はなくなった……。しかしアレオン、あれは誰なんだ? 匿ってくれたと言うが、僕には魔族に見えるのだけど……」

「魔族ってわけじゃないんだけどな」


 その角と翼を見れば、まあ魔族らしい出で立ちだ。だが括りとしては創造主、言うなれば神。魔族と一緒にしては機嫌を損ねそうだ。


「あいつは……そうだな、あの卵から生まれた子供の父親っぽい」


 魔王の口から明確にユウトの父だと聞いたわけではないが、そう思わせる言動があったことから、推察に見せかけて立場をばらす。それを口にしてからちらりと魔王を見たが、特にその暴露を否定する気はないようだ。それどころか、可愛い赤子を抱きながらどこかドヤっぽい顔をしている。


 その腕の中で眠っているユウトを見たライネルは、ふむ、とようやく落ち着いたように頷いた。


「……浄化を持つあの子の父親か。ならば悪い者であるはずがないな。……僕はエルダール王家第一王子、ライネルです。弟共々崩落から救って頂いたこと、感謝いたします」

『礼はいらぬ。そもそも、お前があの低俗な者どもからこの子の卵を保護していなければ、今頃面倒なことになっていたのだからな。此度のことはその功績に対する報酬のようなものだ』


 なるほど、やけにあっさりとライネルをここに匿うことを了承したのは、ジアレイスたちからユウトの卵を奪ってきたことへの謝意からか。

 安易に創造主が姿を見られていいものかとも思うが、どうせこの後の兄はここでの記憶がなくなるのだ。レオの記憶は別として、ライネルの記憶はおそらくこの魔王が消すのだろう。


 まあ、その辺のことはもはやどうでもいい。

 とりあえずこれで、この過去の夢を脱出する条件はほぼクリアできたはずだ。

 後はここから出て王宮に戻れば実際の流れとリンクし、現在へと繋がるに違いない。きっと夢もそこで覚める。


 ……ここから出て?

 そこまで考えて、ふとここからどうやって王宮に戻るのか、その道が閉ざされていることに気が付いた。

 この卵の外に戻ったところで、すでに周囲は崩落して瓦礫で埋まっているのだ。魔王は外に出れば実体を持たないから地中を抜けて行けるだろうが、自分たちはそうはいかない。

 匿ってもらったはいいけれど、さて、ここからどうするか。


「……兄貴、転移魔石持ってる?」

「そんな稀少なもの、僕が持たされているわけがないだろう」

「だよな……」


 転移魔石は本当に稀少なものだ。現在のレオたちはいくつも持っているが、これは自分たちで特上魔石を手に入れる力があるからこそ。

 昔の王家に転移魔石はおそらく三個程度しかなく、それは全て父王が使っていたはずだ。小心者の父は、いつでも逃げ出せる準備に余念がなかったから。


 ちなみに、現在の王家には十個以上の転移魔石がある。レオが国にいいように使われていた時に、高ランクゲートから持ち帰ったものを父の命令で全て取り上げられていたからだ。

 今はライネルが、それを信頼できる配下にそれぞれ持たせている。


「転移魔石もないとなると……ここから出ても地上へ出る術がないな」

『この外の部屋などすでに瓦礫でぺしゃんこになっておるぞ。ここから出た瞬間に圧死だ』

「軽く言うなよ。このまま俺たちが王宮に戻れなくなったら困るんだよ」

「……アレオン、王宮に戻る気があるの?」


 脱出法を見付けようとする弟に、不意に兄が眉を顰めた。

 その反応の意図が分からず、レオはぱちくりと目を瞬かせる。もしやアレオンに王宮に戻ってほしくないのだろうか。確かにひ弱だった弟がここまで元気になっては、国王を目指すライネルの対抗馬として担ぎ上げられ、邪魔になるかもしれないが。


「俺が戻っても、兄貴が国王になるのを邪魔したりしないぞ」


 もともと政治に興味はないし、古狸どもと腹の探り合いをするのはまっぴらだ。そう言うと、ライネルは首を振った。


「そうじゃなくて、僕たちを利用して殺そうとした父上の元に帰るのかってこと。……僕は許せない。自分は手を汚さず、僕にアレオンを殺させようとしたあの男を……。地下の崩落だって誰かに命じたんだろう。卑怯で卑小で愚昧、あんな男と血が繋がっていると思うだけでゾッとする。……僕は今後、王宮に戻らずに父上に対抗する軍を組織し、国王を倒すつもりだ」

「えっ!? ちょ、ちょっと待て」


 予想だにしない宣言に、レオは目を丸くする。まさかこの兄が、王宮を出てなおかつ王家に敵しようと考えているとは。

 当時も実際こうだったのだろうか。大きくなっても抱えていたライネルの父に対する強い憎しみを考えると、それほど乖離はしてなさそうだ。ならば未来のためにはここでどうにか、それを思いとどまらせないといけない。


「できることならアレオンにも手伝って欲しいのだけど」

「いや、待ってくれ、早まるな。……兄貴の気持ちも分からないではないが、それはあまり得策とは言えない」

「なぜ? 国には民を苦しめる父上を嫌っている者はたくさんいる。王子である僕を担ぎ上げれば、大義名分を得て挙兵する貴族はいると思うぞ」

「そうして挙兵するのが正義感に駆られた奴ばかりならいいけどな、兄貴の後見人として国の要職に就こうとする奴が絶対いる。何なら王位の簒奪を企てる奴がいてもおかしくない。……兄貴がまだ十三だからと、政から離される可能性は大きいだろう。ただのお飾りにさせられてしまうかもしれない」


 王宮の外に絶対の信頼を置ける力を持った貴族がいるのなら別だが、今のエルダールの有力貴族は大体が汚職にまみれた父の腰巾着だ。父に反発している貴族は難癖を付けられて財産を削られ、地力がない。

 そして彼らが嫌う国王、その息子のライネルは、ついこの間までわがまま放題贅沢放題のどら息子だったのだ。その声かけに、真っ当な正義感を持って声を上げる者がどれほどいるか。

 集まるのはほぼ兄の『王子』という肩書きを利用したい人間ばかりだろう。


「それに国内で戦を起こせば、民衆にも被害が出る。長引けば国力も減退する。戦に乗じて略奪や私怨による殺人も増える。あまり賢いやり方だとは言えないだろ?」

「それは、確かにそうだけれど……」

「だから俺は一度王宮に戻り、密かに志を同じくする仲間を集めるのがいいと思う。親父を倒す準備を内々に進めながら同時に国の政を兄貴が担ってしまえば、事が成った時に国内が揺らぐこともない」

「……先に内政を牛耳っておくということか。地盤を固めた上、上手くすれば父上の戦力を削いでおくこともできる……」


 この提案はおおよそずっと地下にいたアレオンが言う科白ではないが、もはやライネルは気にしていないようだ。小さく唸りながら、自分の身の振り方を考え込んでいる。

 だが結局、その顰めた眉間のしわは消えなかった。


「お前の言うことはもっともだ。しかし、僕は父上のしたことが許せない。そもそも一度は殺そうとした僕たちを、あの男が素直に迎え入れるとも思えないし」

「その辺はこう、何があったのか崩落のショックで忘れたふりしてればいいんじゃねえの。一度死んだと思っていた王子二人が生還したというのに、それを再び殺せば国民からの大きな不信を買うからな。血の契約の剣はここに置いていくから、『神のようなもの』もエルダール王家にこれ以上干渉できないし、もう兄貴を操って俺を殺すこともできない。それに『神のようなもの』と縁が切れて俺に憑依させる必要がなくなれば、無理に殺す理由もないだろ。しばらくはおとなしくしてくれるさ」

「忘れたふり……忘れたふりか……僕はできそうにないんだが」


 ライネルの父王への嫌悪は強い。自分が殺されそうになったこと以上に、その国王にあるまじき心根、人を統べる器のない卑小で卑怯な態度が許せないようだった。

 滅多に会わない父親をまるで他人のように思っているアレオンと、ずっと間近で接しその行動を見てきたライネルでは、そこに乗る感情も違うのだろう。


 きっと大人になった兄ならここに感情を挟むことはしないに違いないが、目の前のライネルはまだ今日十三歳になったばかりだ。その葛藤も仕方のないことなのかもしれない。


『ふりなどせずとも、どうせここでの一連のことは我が記憶を消すぞ』


 そうして兄弟が話していると、不意に魔王が口を出した。

 その言葉に、ライネルがそちらに向き直る。


「あなたが、僕の記憶を消す……? どうして?」

『我の姿は本来人間にさらすものではない。此度はこの子のためにお前たちを匿ったが、これは本当に例外的なことなのだ。記憶を残しておくと色々厄介なことになる』

「拒否権は……」

『ないな。これは決定事項だ』


 やはり兄の記憶はこの魔王が消してしまうようだ。おそらく自分の隷属下にあるレオの記憶までは消すまいが。

 その一方的で有無を言わせぬ返答に、ライネルはふむ、と考え込んだ。しかしそれはわずかな時間で、すぐにその視線を上げる。


「記憶を消される範囲は、この空間に入ってからのことだけでしょうか?」

『いや。お前が卵を手に入れてからこちら、卵が関わる記憶は全て消す』

「では卵に触れたおかげで変化した僕の感情や考えは消え失せて、元に戻ってしまうのでしょうか」

『それはない。お前が弟の部屋に足繁く通った記憶、勉強した内容などはそのままだ。ただ、卵の部分が別の記憶にすり替わる』

「別の記憶とは?」

『例えばお前の悪心の浄化は弟のおかげ、などにすり替えられる。その時々で一番違和感のないもので代用されるのだ』

「なるほど。確かに卵とアレオンは常にセットだったから、卵に触れに来るのも弟に会いに来るのも同列で、違和感が生まれにくいのか」


 そこまではひとまず納得したようだ。ライネルは数度頷くと、一度アレオンを見、それから再び魔王を見上げた。


「分かりました。……ただ、記憶を消すというのなら、あなたにお願いがあるのですが」


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