表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

707/767

兄、魔書を閉じる方法を見出す

「レオさん、とりあえずこの悪魔の水晶(デモンクリスタル)の出所は置いておいて、魔書を閉じることを考えましょ」

「……そうだな。それが取り外しできるものだったのは僥倖かもしれん。そうでなければ、本の方をどうにかこの祭壇の上まで移動する方法を考えなくてはいけなかった」


 開かれた本文の用紙面は防御魔法によって護られていて、触れることも術を掛けることもできない。つまり悪魔の水晶が作用するのは術式にさらされている本文ではなくその真裏、防御魔法の範囲から外れたその表紙に対してだ。

 もしも今回祭壇自体に術式が掛かっていたとしたら、その表紙をそこに乗せるのは至難の業だっただろう。

 だが、魔書を閉じる要がこの悪魔の水晶の大きさなら、力業でどうにかなる。


「厄介な防御魔法でも、死角はあるものだ」

「ですね。これならおそらく、ずいぶん前にジラックの闘技場に忍び込んだのと同じ方法でかわせます」

「……下から行くんだな?」

「はい」


 防衛系術式は、地中までは影響が届かない。ジラックの闘技場でも同系の監視術式に対して地下坑道から侵入していたネイは、すぐにこの解法にたどり着いたようだった。


「もちろんここに人が通れる穴を掘るのは難しいですが、この悪魔の水晶を通すくらいの穴なら……。子狐ちゃん、モグラに変身して穴掘ったりできる? 魔法陣の中央の、魔書の真下までなんだけど」


 ネイが頭の上に乗った子狐に訊ねると、ひょいと飛び降りた光る獣は再びくるりと一回転してモグラに変身した。この男の体内で過ごした魔力だからか、従順でまるで使い魔のようだ。

 モグラはすぐにザクザクと穴を掘り始めた。

 踏み固められた地面も何のその、これならあと数分待てば魔書までたどり着くだろう。


 その間に、レオはネイに次の算段を確認した。


「おい。穴が魔書の真下まで繋がったら、どうやって悪魔の水晶をそこまで届かせる気だ? 俺たちと違って精霊は悪魔の水晶に触れると術式の影響を受ける。そいつに運ばせるのは無理だろ」

「大丈夫です。穴さえ通れば、後はこれで運びますから」


 そう言ってネイがポーチから取り出したのは、魔力で操れる魔法のロープだった。ユウトが持っているものよりも新しいものだ。


「貴様、魔法のロープを扱えるのか?」

「一応俺はレオさんと違って、多少の体内魔力はありますからね。大精霊の魔力を借りればコントロールもどうにかなるんで、先日魔工爺様のとこで買ってたんです。細かい動きは厳しいですけど、この魔法のロープにはユウトくんに時々魔法を通してもらって癖付けしてますんで、素直に動いてくれますし」

「……貴様、何勝手に俺のユウトを使ってんだクソが」

「ユウトくんが自分から厚意でやってくれてるんですからいいでしょ。優秀な魔法使いの魔力で癖付けしてもらうと、俺でもうまく扱えるから重宝するんです」


 魔法のロープはものによって扱いやすさに雲泥の差がある。

 制作者による差はもちろんのこと、使用者の魔力による癖の差が特に大きいのだ。例えばユウトの持つ魔法のロープは、前の持ち主がマルセンだったおかげで、全体に魔力が行き届きしなやかで頑丈なのが特徴だ。


 一方でネイのロープは買ったばかり。せっかくの名工の作でも下手な人間が癖付けをしてしまうと、均等に行き渡らない魔力のせいで思う通りに扱うのがかなり難しくなり、役に立たない魔道具になってしまう。

 そこでネイに代わり、癖付けだけはユウトがしてやることにしたのだろう。

 だとすればおそらく、強く素直な扱いやすい魔法のロープになっているに違いない。


 もちろんこの男がレオに許可もなく弟を使ったことは腹立たしいが、今この時点ではありがたいアイテムであることも確か。

 レオは舌打ちだけをして、続く文句はひとまず飲み込んだ。


「……ユウトの優しさに海よりも深く感謝しやがれ」

「分かってますよ。……ただ、大精霊の魔力が身体から離れたからやっぱりロープが重く感じるなあ。ユウトくんみたいに伸縮もできないし。……あー、子狐がくっついてないと悪魔の水晶も見えなくなっちゃいますね」

「あの子狐がいないと大精霊の加護が受けられなくなるのか?」

「いえ、体感的に能力アップの加護は掛かったままみたいです。グリムリーパーの魔力を失ったせいで、敏捷性や体力などが下がっていますが」


 どうやら悪魔の水晶が視認できたり魔力量が増えたりするのは大精霊の加護とは別で、あくまで子狐がいる時だけのオプション能力のようだ。

 ……地味にありがたいが、一方でこれはただの借り物の力。

 子狐を大精霊に返還して今ある一時的な加護も一切消えたなら、おそらくネイは力不足で、レオたちのパーティと行動を共にすることはできなくなるだろう。


「……狐、貴様が大精霊から受けた加護の期限はこのゲートを出るまでか?」

「はい、一応。……ああ、そうか。もう大精霊と直接コンタクトをとれないから、加護をもらいに行くのも難しくなるなあ。子狐ちゃんを頭に乗せておけば話はできるかもしれないけど、そうなったら大精霊の魔力自体を返さないといけないし」


 まあ、とりあえず大精霊に子狐を返すまでは使える。

 ならばネイの今後の所属をどうするか考えるのはゲートを出た後でいい。

 レオはそこで会話を止めて、ちょうど足下の穴から出てきたモグラに視線を移した。


「……どうやら、上手いこと穴を通したようだな?」

「そうみたいですね。はいはい、子狐ちゃんおいで~」


 ネイが屈んで手を出すと、モグラからまた姿を戻した子狐が、その腕を伝って頭の上に陣取る。

 おかげで再び悪魔の水晶が見えるようになったのだろう、ネイはレオには見えない塊を手に取ると、それを魔法のロープで手際よく縛った。


「うん、やっぱり子狐ちゃんがいると魔法のロープが軽いし思った通りに動く。これなら上手くいきそう」


 ネイはロープの端を宙に浮かすと、それをゆっくりとモグラの空けた穴に通していく。ユウトに比べるとかなり動きが緩慢でたどたどしいが、それでも目的を達成するには十分だ。

 悪魔の水晶が穴を伝って魔書に近付いていくと、表紙がわずかに持ち上がるのが分かった。


「うお、結構重っ……!」

「水晶が近付くほど表紙が持ち上がり、押し返されると下がる……磁石の反発のような感じなのか? なら本の重さをしのぐ力で押し込めば行けんだろ。もっと踏ん張れ」

「簡単に言わないで下さいよ。俺の魔力なんてユウトくんに比べたらカスみたいなものなんですから。……子狐ちゃん、もうちょっと力貸して!」


 ネイが頭上の子狐に助けを求めると、ヒョコヒョコと尻尾を振った獣がわずかに光の度合いを上げた。男の求めに応じて魔力を供給したのだ。

 それを見たレオは一瞬妙な違和感を覚えたが、すぐに魔書の表紙がぐぐっと大きく持ち上がったことで意識が逸れた。


「よし、そのまま行け!」


 この段になってもグリムリーパーは微動だにしない。ただゆっくりとその姿が薄れていく。もう一息だ。

 やがて大汗をかきながらネイが本を閉じきると、敵も魔法陣も消え失せ、ようやく周囲に静寂が訪れた。


「……はあ~、やった……!」

「やっと終わったか……! 敵を倒せたわけじゃないが、ここまでやれば上出来だ。これでようやくユウトのところに行ける……!」


 グリムリーパーの解放は先送りになったけれど、あとの処置はヴァルドに丸投げしてしまおう。

 そんなことよりユウトだ。

 レオは閉じられた魔書を手に取って、早々とポーチに入れた。


「階段を降りるぞ!」

「早っ! レオさん、ちょっと待って!」

「とっとと来い!」


 魔法のロープを巻き取りながら慌てるネイを急き立てて、レオは祭壇の裏に回った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ