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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、暗殺ギルドの創設の記録を探る

 暗殺ギルド時代のアイテムは、物騒な罠や暗器が主だ。それには触れないように気を付けつつ子狐を探すと、隅にある背の高い本棚の前にその姿を見付けた。

 こちらを向き、尻尾を振っている。


「いたいた、子狐ちゃん。この本棚に答えがあるのかな?」

「やっぱりヒントは文献か……。まあ、魔界語がないからどうにかなるな。狐、貴様はここの書物に目を通したことはないのか」

「残念ながらないですね。そもそもこの階に降りてくるのはかなり手間ですし、父と叔父の同意がないと入れませんでしたから」


 確かに、三人の部屋それぞれにある仕掛けを動かす必要があるのだから、ネイの独断で入ってくることは難しかったのだろう。逆に言えば、それだけ表に出せない特異な書物が眠っているということだ。

 しかし本棚一棹丸々目を通すのはかなり骨が折れる作業。クリスなら喜んで全冊手に取るだろうが、とっととユウトの元に行きたいレオは、その手間を省けないかと本棚の前に鎮座する子狐に訊ねた。


「おい子狐、どの本にヒントが載っているか分からんのか?」


 ここまで自分たちを案内したのだから、その答えも知っているのではなかろうか。そう思って訊ねると、子狐はぴょんと跳び上がってくるりと一回転し、たちまちその姿を小鳥に変えた。


「うおっ、子狐ちゃん変身もできんの!? あ、でも考えてみれば依り代さえあれば魔力の形なんて変幻自在だもんなあ。子狐だって仮の姿なんだろうし」

「……狐から剥がされた魔力だから、分かりやすく狐の形を取ったのか? まあ何でも良いが、そいつが指してるのが目当ての本のようだな」


 驚くネイたちをよそに飛び立った小鳥は、本棚の上の段にとまる。

 そして古い革製のカバーが掛けられた本をちょいちょいとくちばしで指した。

 なかなかに分厚い本だ。

 背表紙には何も書いてないが、本棚から引き出してみると、表紙に『暗殺ギルド設立における、果たすべき契約の内容について』という本だった。


「これは……暗殺ギルド創設者の本か?」

「いやどっちかというと、出資者か何かから提示された約款の覚え書き本では? 著者名がないから何とも言えませんけど」

「暗殺ギルド設立に手を貸した奴の本か……。どちらにしろ、確かにあの魔書にかかわってる臭いがするな」

「あ、レオさんすみません、中を確認する前に俺のポーチ返してもらえます? 一応念のため、特殊な手袋使って本を開くので」

「ああ」


 ポーチを返すと、ネイはその中から白い手袋を取り出した。

 あれは魔書に記された思いがけない呪いに触れたり、文中の術式を誤って発動したりしないための特殊な手袋だ。本来は王宮の魔法研究機関にしか置いていないものなのだが、どこから手に入れたのやら。


 その手袋をはめたネイは、近くにあった折り畳みの文机を引っ張り出すと、その上に本を置いた。

 そしてまず表紙をめくる。

 そこにある内表紙にもタイトルしかなく、著者名は書いていないようだった。


 さらに次のページをめくると、やっと人名らしきものが出てくる。

 おそらく暗殺ギルド創設メンバーだろう。

 しかしそれもコードネームのような姓のない呼び名で、本名ではなさそうだった。


「暗殺ギルド創設メンバーは六人か……。これは、それぞれがこの約款に同意して契約したサインだな」

「元々は村や旅団を襲っていた強盗集団だったようですね。国では指名手配されていて、身を隠しながら活動しているところにギルド創設の話が来たみたいです」

「……ああ、どうせ隠れて活動するならそれに特化させればいいということか。そいつらが自発的に暗殺ギルドを立ち上げたわけじゃなく、外部から働きかけがあったということだな」

「そのようですね」

「その話を持ってきた奴の名前は」

「ありません」


 となると、やはりこの本は暗殺ギルド創設の話を持ってきた者が書いたものだろう。そうでなければ、この流れで文章内に名前が出ているはずだ。

 おそらく著者は、明らかな意図をもって自分の名前の記入を避けている。


「まあ、強盗を生業にするようなならず者に、わざわざ身上を明かす奴もいないか。仮の名すら書かないのは余程用心深いんだろうが」

「万が一暗殺ギルドが白日の下にさらされた場合、こんなところに痕跡を残していたら事ですからね。それでも契約内容についての約款をきちんと形に残す必要があったのは、互いに信用していなかったからでしょう」

「なるほど、最初にきっちり決め事をして証拠を残しておかないと、好き勝手されるからな」


 さて、そうまでして暗殺ギルドを作らせたのはどんな者だったのだろう。自分の指示の元で殺しをさせたいと考えていたのなら、それなりの地位や権力を持った者のはず。

 いつの時代も、他人を蹴落として自分が成り上がろうとする人間というのは厄介だ。まあその大体が、金があるだけの小物だったりするのだけれど。


「ここからは細かい決め事がずらずらと書いてありますね。大体が、暗殺ギルドの人間が著者に反抗しないようにするための規約のようです。やはり金銭面などで出資していたんでしょう。ギルドを支配下に置こうとする文言が目立ちます」

「金はもちろん出していて当然だろうが……それだけで強盗していたような奴らがおとなしく言うことを聞くわけがないよな。暗殺ギルドを立ち上げることで、そいつらにも相応のうまみがあったはずだ」

「まあ、それこそがあれでしょうね」

「ああ。グリムリーパーが与える能力だな」


 金には換えられない、暗殺者としての能力バフ。これは仕事をする上での大きなうまみだ。

 この出資者が金と共にあのグリムリーパーを閉じ込めた魔書を提供したのだとしたら、ならず者との契約でも成立しうる。もちろん一筋縄ではいかないだろうけれど。


「本の中に、グリムリーパーの魔力付与に関する内容はないのか?」

「えーと、待って下さい……おっ、見付けた! ここから魔書に関する記述です」


 ネイはレオに急かされて細かな約束事をぱらぱらと飛ばすと、その文言を見付けたところで手を止めた。


「暗殺ギルド構成メンバーへの儀式、その際の魔法書による加護と規約について……これですよね」

「ああ、それだな。何が書いてある?」

「最初の方は儀式のやり方についてですね。それから、儀式によるバフの内容……。うーん、グリムリーパーについては何も書いてないなあ。ここからは儀式を終えたあとの禁止事項とそれを破った時のペナルティですね」

「儀式を終えたあとの禁止事項?」


 暗に詳細を求めてレオが問うと、ネイはそれを軽く説明する。


「ほら、儀式を終えて魔力付与を受けちゃえば、倫理観もない暗殺者なんてもう用済みとばかりに出資者に逆らうかもしれないでしょ。それを禁止して、破ればペナルティ与えますよって内容です」

「……それこそ、ペナルティ食らう前に出資者を殺しちまえって発想になりそうだが」

「いえ、このペナルティは出資者が与えるものでなく……ん? あれ、この内容、俺が知ってるのと違う……?」

「何?」


 ネイは本に目を走らせながら答えていたけれど、不意に何かに気が付いたようでページを繰る手を止めた。


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