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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、解法を見付ける

 さすが、腐っても隠密ギルドのギルド長というところか。

 ネイや叔父に比べて確かに動きは遅いが、その分戦い方が巧みだ。

 レオは攻撃をいなしながら観察する。

 敵は一つの打撃を当てるためにいくつもの囮攻撃で視線や注意を分散させたり、意図的にタイミングを変えてわざと隙を作り、こちらの攻撃を誘ったりしてきた。


 なるほど、戦闘特化ではなく心理戦勝負のやり方は、叔父の方と別の意味で手強い。戦闘慣れしている者との戦い方を心得ていやがる。

 しかしこれに関してはネイも上手い。おかげでこういう戦いへの対応はどうにかなるのだ。


 問題は、こちらがどこを攻撃すれば相手が倒れるかというところだった。


(通常のゾンビほど腐ったり細ったりはしていないが……やはり死人か。心臓を貫いても頸椎を突いても、倒れやしねえ)


 レオは戦いながら、以前ヴァンパイアロードのゲートに入った時にヴァルドから教わった、不死者との戦い方を思い出す。

 当時レオが戦ったワイトの操る不死者は、肉体を動かすこと自体をワイトが行っていた。その場合、死人自体の能力は全く関係がなかったはずだ。

 今回のように死人の生前の能力を引き出しているのは、どちらかというとネイが対応した復讐する死者(レヴァナント)に近い。


 しかし魂を刈られていると考えると、彼ら自体の怨恨が動力となっているわけではないだろう。


(……超聖水の効果が切れれば狐も操られるとすると、魂や本人の思考とは別に身体を支配する動力源があるのか? だとすれば、鳩尾にあるというグリムリーパーに封入された魔力が一番怪しいが……)


 当然だが、そこは一番最初に攻撃している。不死者特効のある剣でど真ん中を貫いたけれど、特に効いている様子はなかった。

 その事実に、はたと思い出す。


(……そうか、狐の推測通りにリーパーの魔力の保持に生命活動が必要なら、すでに鳩尾に魔力は残っているわけがないな。ということは、そもそも狐に掛けられている支配とはすでに別の形ということか)


 ネイの父と剣を交えながら、レオはさらに注意深く観察する。

 戦っているうちにだんだん分かってきたが、敵は思考してというよりも、こちらに合わせた攻撃のパターンに沿って動いているようだ。つまり、働いているのは脳ではなく、身体。視覚から入った情報を、脊髄反射的に身体が処理して動いている。

 過去の修練などによって身体に蓄積された攻撃パターンから、瞬時に最適解を出しているのだ。


 そのパターンが読めるようになってくれば、さっきまでは攻撃を誘われていたその立場も逆転する。パターンを意図的に引き出して、迎え撃つことができる。


 だが、多少有利に戦える状態になったとはいえ、疲れも痛みも関係ない不死者相手ではまだまだ分が悪い。ネイの超聖水が切れる時間までどれほどあるかも分からないし、どうにか動きを止める方法を考えねばならなかった。


(グリムリーパーがあの魔法陣に入っている間は直接的な攻撃ができないと考えると、この二人を今リアルタイムで操っている可能性は低いな。実際、リーパーはさっきから魔力の供給しかしていないようだ。となれば必ずこいつらの身体のどこかに、魔力を受けてこの行動を促すための呪詛か術式が組み込まれているはず……)


 とはいえ体表からでは分からないそれが、どこにあるのか探るのは至難の業だ。

 以前復讐する死者と戦った時はヴァルドがその呪詛の場所を知っていたから対応できたが、今回はヒントもなく手当たり次第に行くしかない。

 ……だが、そんな悠長なことをしている時間があるだろうか。

 その場所を見付けたとて、以前のネイのように吹き矢で聖水を打ち込むような手段もないし、呪詛の場所が数カ所ある場合、ほんの数秒で一気に対応をしなくてはいけないのだからレオとしてはとことん分が悪い。


 かと言って、向こうでこっちよりも遙かに速い攻防をしているネイの方にこの対応をしろと言うのも無理があった。


(グリムリーパーの魔力が注がれている限り、呪詛は発動し続ける……。しかし武器に超聖水を塗っている狐でも、当てずっぽうな攻撃では術式停止までは至れない……。どうする……?)


 そう言えばこういう時、思いも掛けない解法を提案してくれるのは以外にもユウトであることが多かった。

 もしあの子がここにいたら、どんな助言をしてくれただろうか。


(今俺が持つもので不死者相手に一番有用なのはおそらく、ネイから受け取った一瓶の超聖水……。ユウトならこれをどう使う……?)


 超聖水ではないけれど、以前ナイトメアの動きを封じるためにユウトが聖水でぐるりとその周りを囲ったことがあったっけ。あんなふうに、動きを封じて、急所を探るか。


(……ん? いや、待て。超聖水とユウトと言えば……。七年前に首輪を着けたチビを魔研のサーチから隠すために、超聖水を自室の外周にまいたことがあったな……)


 ふとレオは昔のことを思い出す。

 そしてユウトと超聖水を結びつけた途端、唐突に解法をひらめいた。


(そうだ、超聖水は周囲からの魔力の侵入を防ぐ……! つまりこいつらの周りを超聖水で囲ってしまえば、グリムリーパーからの魔力の流入が途絶えるということだ……!)


 呪詛に流れ込む魔力さえなくなれば、不死者はただの死人に戻る。

 自身の怨恨で動いていた復讐する死者と違い、こいつらは再び魔力を注げば動き出すだろうけれど、その前に肉体を炎か聖水で浄化してしまえばいい。

 もちろん身体は失われてしまうが、ネイとしても父と叔父がこんなふうに魔族に操られているよりは、ずっとマシだろう。


 そうと決まれば実行だ。


「狐! わずかな時間でいい、こいつら二人まとめて動きを止められるか!?」


 レオはポーチから超聖水を取り出すと、ネイに声を掛けた。

 まあ結構無茶なことを言っている自覚はあるが、これほど素早く動き回る敵を止めることなく囲うなんてレオには無理だ。どうにか止めてもらうしかない。


「二人まとめて動きを止める……!? レオさん、無茶言う……! 俺自身もそろそろ鳩尾がざわざわしてヤバい感じなんですけど!?」

「ちょうど良いじゃねえか、操られる前に死ぬ覚悟で行け! その後の俺が楽になる!」

「確かにそうですけど……んも~、仕方ないなあ、レオさんこっちに!」


 文句は言うが、どうにかするようだ。

 レオがネイと合流すると、敵も同じように二人で合流する。それを見ながらネイは小さく息を吐いた。


「……とりあえず、本気で殺しに来てないからどうにか……」


 しかし言葉の途中で、不意にネイの殺気がレオの方に向く。

 それに即座に気付いたレオは、その剣の切っ先がこちらの喉元を狙って来たのを間一髪で打ち払った。


「……くっ! 貴様……!」


 すぐさま飛び退いて睨み付けたレオに、にやりと悪い笑みを浮かべたネイが追撃を掛ける。その速さは初っぱなから完全にフルスロットルだ。


「クッソ面倒臭え……!」


 突然レオの方に矛先を変えたネイの向こうで、その様子を見た二人が共にこちらに照準を合わせる。

 どうやらネイに加勢してレオを殺し、この男を闇落ちさせるフェーズに入ったようだ。


 マジで面倒臭え。

 レオは大きく舌打ちをすると、超聖水を一旦ポケットにしまった。


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