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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、五階層目にいる魔物の話を聞く

 倉庫に入るには、先ほど手に入れた魔法鍵が必要だった。

 そしてもちろん、一族の個人認証も。

 それを問題なく解除したネイは、魔法鉱石でできた重たい扉を押し開けた。


 途端に漂う、カビや埃の臭い。

 どうやら中には宝物の類いではなく、古い本や武器防具、そして魔法具が主として置いてあるようだ。ネイが壁にあるスイッチを入れると、天井にぶら下がった魔石燃料ランプが辺りを照らした。


「……思ったより高価そうな物は置いてないな」

「一見きらびやかでないだけで、高価な魔導書や専門書はたくさんありますよ。ただ、それ以上に危険物が多いかなあ。ほとんどが暗殺ギルド時代のものです」

「暗殺ギルドの……。じゃあ戦利品で盗ってきた呪いの武器防具の類いとか?」

「それもありますし、魔物の封印された魔書もあります。基本的に保管しているというより、危険物を外に出さないように押し込めている場所なんですよね。……あ、レオさんは危ないからそれ以上入って来ないで下さい。下手にアイテムに触れただけでも影響が出るものもあるので」


 そう言われて、レオは一度倉庫の中を一瞥しただけで部屋の外に出た。

 全く魔力がないレオでも分かる、魔の引力を感じたからだ。おそらく普通の人間なら無意識に引っ張られ、つい手を伸ばしてしまうように微量の魔法が掛けられている。

 手触りを確かめたくなる形状、質感、そういった物は総じて罠。


 当然ネイはそれを心得ていて、その無意識に抗いながら目的の物を探しているようだった。


「……どうだ? 目的の物はあったか?」

「うーん……やっぱりないみたいですね。予想はしてたけど、ちょっと気が滅入っちゃうなあ」


 アイテムの並ぶ棚を二周ほど回った男は、肩を竦めて部屋の入り口まで歩いてくる。

 そして部屋を出る直前に、おもむろに横にあるレバーを引いた。


「……とりあえず、行くしかないか」


 レバーのくっついていた壁の奥で、歯車の回転音とチェーンの擦れる音が響き渡る。どうやらこれが五階層目に行くギミックの最後の一つだったようだ。

 ネイはそのまま明かりだけ消して扉を閉めると、再び鍵を掛けた。


「五階層目に降りる階段は、父の部屋に出たはずです。行きましょ」

「結局、貴様の探していた物とは何だったんだ?」


 何事もなかったように歩き出すネイに、レオが問いただす。

 すると男はぴたと立ち止まり、数瞬の考え事をしてからこちらを振り向いた。


「……本です。魔族の封印書。……あれが解放される前の時間軸だったらと思っていたんですけどね~。もう解放された後みたいです」

「封印書から魔族が解放された……?」

「……多分の勘ですけど、五階層目にいる敵はそいつです。でなければ、このフロアが生成されるわけがない。……俺が再びこの時間軸の隠密ギルドに導かれた意味がない」


 どうやらネイには、下の階にいる敵のあたりが付いているようだ。

 そしてそれは、魔書に封じられていた魔族だという。

 ほぼ確信しているらしい男に、レオは首を捻った。


「その魔族ってのは?」

「グリムリーパー……魂を狩り死を司る悪魔です」

「封印されていた悪魔……それってつまり、普通に世界に実在する魔物じゃないのか? それがこのゲートにわざわざ複製されるとは思えんが」

「俺は複製されたというよりもこのフロアを再現するために、それ本体がゲートの磁場に引っ張って来られたのではないかと思っています。……こう言ったらおかしいかもしれませんが、『やり直し』を求められているのではないかと」

「やり直しだと? 何のために?」

「この悪魔の魂を、世界の輪廻に戻すためです。……レオさんがこのフロアで煉獄の檻を手に入れたことも、きっと意味があると思うんで」

「ふむ……」


 グリムリーパーを輪廻に戻す。ということは、この悪魔は今のままでは輪廻に戻れない魂の形をしているということか。

 だが、わざわざそれを正してやる意味があるのだろうか。……そうしないことで、世界に弊害があるとでもいうのか?


「……で、そいつは外の世界では、本来は死んでるのか?」

「ん~……どうかな? それは俺もよく分からないんですよね。ただ、そもそもの存在が正しくない状態にあるのだとは思います。このグリムリーパーに関する文献なんかは全部下の階にあるから、それに目を通せればいいんですけど」

「五階層目に降りたら、詳細を探る前に本体と戦闘になるだろ」

「そうなんですよね~。ま、でも詳しいことが分からなくても戦うことは可能ですから」


 ネイはへらりと笑うと、ポーチに手を突っ込んだ。


「一応俺が知ってることだけ伝えますが、奴は即死魔法を使ってきます。それから一撃必殺の首狩りのクリティカル精度はめちゃ高ですので気を付けて」

「魔法は耐性が付いてるからいいが……クリティカル精度は厄介だな」

「後はゲート仕様で俺が知らない複合属性が付いている可能性もありますけど、とりあえず不死者対策として、これを」


 そう言って漁っていたポーチから取り出してきたのは、ガラス瓶に密閉された、透明な液体だった。

 ……これは、ずいぶん昔に見たことがある。


「まさか超聖水か……? こんなものよく持っていたな」

「さっき俺が一人で取りに行った宝箱に入っていたんです。……ここで出るってことは、おそらく必要な場面があるんだろうなと思って」

「まあグリムリーパー自体が不死者なら、効果は期待できる。せいぜい有効活用させてもらおう」


 差し出された瓶は二つ。そのうちの一つだけを受け取ったレオは、その超聖水をポーチに入れて、ネイに向き直った。


「他には、何か言っておくことはないのか?」

「ええと……そうですね。レオさんなら多分大丈夫だと思うんですけど……必要なら躊躇わず俺を殺して下さい」

「……ん?」


 言われなくても大体いつもそんな心持ちでいるが、改めて告げられたことにレオは眉根を寄せた。

 敢えて口にするということは、この男自身が今回の戦闘でそうなる可能性があると分かっているということだ。その部分を説明しないのが解せないが、レオはネイが主人を害してまで生きながらえる気がないのを知っている。ひとまずは請け合うべきか。

 どうせ否定は望んでいないのだろう。


「……まあ、そういう状況になったらお望み通りにしてやるよ」

「はい、頼みます」


 主人の返事に、ネイはどこか安堵したように微笑んだ。


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