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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、隠密ギルドの成り立ちを知る

「ある時を境に、貴族の立場がかなり危うくなってきたのです」

「……仕えていた名君が暗殺された時だな」


 おそらくそれ以前は、正義感の強い貴族は王に重用されていただろう。しかし次の暴君は、そんな貴族を目障りに思ったに違いない。

 ……自身の兄を暗殺ギルドに殺させた男なら、次はその重臣に矛先を向けたはずだ。


「国王自ら貴族に暗殺者を差し向けたのか」

「暗殺者を雇うのは一回限りでもかなり高額で、普通の貴族では一人二人がせいぜいですが、さっき言ったように国王は暗殺ギルドを丸ごと雇う契約をしたんです。暗殺ギルドの連中も、曾爺さんに一対一では勝てなくても、一対二十なら行けると踏んだんでしょう」


 ギルドから足抜けして暗殺対象者側に付いた男は、他の暗殺者たちにとっては邪魔でしかなかったはずだ。それも簡単に倒せない強さを持つならなおさら。

 だからこそ、それを始末するために数で対抗しようとしたわけか。


「だが、それを撃退したんだろ?」

「撃退したというより、敵が貴族のところに攻めてくる前に一人で本拠に乗り込んで行ったみたいです。ギルドの建物なら内部構造は熟知していますし、どこに罠を張れば効果的か、どこが死角でどこに視線を誘導できるかが分かってますからね。だから、敵を上手く分散して各個撃破で、全て計算ずくで倒しきったらしいですよ」

「……なるほど。そうやって一人の貴族のために、暗殺ギルドを潰したのか」


 国のためや民のためではない、自分のお気に入りのため。何とも私的な理由だが、まさしくネイの血縁らしい。


「突然暗殺ギルドの動きがなくなって、国王は慌てただろうな」

「そうですね。力による圧政を敷く上で、だいぶあてにしていたでしょうから。かと言ってその動向を知りたくても、暗殺ギルドは完全秘密主義でしたんで、この隠れ家にたどり着くことはできなかったんです。おかげで当時は、国王が暗殺ギルド壊滅の事実を受け入れるまで結構掛かったみたいですよ」

「その間に、こっちは密かに隠密ギルドを立ち上げたわけか」

「ええ。ギルドの土台は整っていたので」


 元々暗殺ギルド内には職人や商人がいた。土台とは、組織を形成する彼らのことを指しているのだろう。どうやらネイの曾祖父が殺したのは暗殺者のみで、他には手を出さず、そのまま隠密ギルドに住まわせたようだ。

 仲間を殺したような男に従うのかと思ったが、そもそも彼らはどこかしらから無理矢理連れてこられて強制的に働かされていた者ばかりで、逆に暗殺ギルドの壊滅を喜んでいたらしい。

 その上で、ネイの血縁だけあってかなりのコミュ強だったらしい男は、全員をそのまま隠密ギルド下に置いたのだ。その時のエルダールが暴君に支配されていて、戻るに躊躇う環境だったことも影響したようだが。


「だが、なぜ隠密ギルドだったんだ? それなりに秩序立てれば、暗殺ギルドでも良かった気がするが」

「無理ですよ。暗殺者の適正がある奴なんて頭おかしいのばっかりですから、そんなの集めて来たってまとまりませんって。実際、当時の暗殺ギルドは仕事を仲介するだけの存在でしたし」

「ふむ、確かに暗殺者は頭がおかしいな」

「真っ直ぐ俺を見ながら深く頷くのやめて、レオさん。……とにかく暗殺者は扱いづらいし、安易な殺しは貴族が許さなかったので隠密ギルドにしたそうです」

「安易な殺しは許さない……なるほど、ルウドルトの一族なら言いそうだ」


 つまり、暴君と同じ次元には立ちたくなかったということだろう。主君を暗殺された後なら、ことさらその思いは強かったはずだ。

 そこで代わりにネイの曾祖父が作ったのが、隠密ギルドだったらしい。


 隠密ギルドは汚職や悪だくみの情報を仕入れ、裏から手を回してそれを失敗させたり、先回りして不成立にしたりと陰で暗躍していたようだ。

 特に国王を筆頭に、彼らが仕えていた貴族や国を憂うその仲間を陥れようとする狸貴族は多かったから、隠密たちの働きは非常に重要だったという。


 仕事の依頼は基本的に貴族と繋がりのある真っ当なところからしか受けず、交渉や連絡はネイの曾祖父が請け負っていたらしい。おそらく今のネイのように、いくつもの通り名を使い分けていたのだろう。


「あちこちの狸を見張るとなると、結構人数が要るよな。隠密ギルドのメンバーはどうやって増やしたんだ?」

「基本はスカウトして育てたらしいです」

「スカウト?」

「当時は暴君の機嫌を損ねると、難癖を付けて家を取り潰されるなんてことがよくあったらしくて。そこからどうにか助け出せた者を、貴族が屋敷に匿っていたんです」


 貴族に救われた者は当然彼に感謝をし、彼を害しようとする者に敵意を抱く。彼のために何か恩返しをしたいと思う。

 そういう思いを持つ者の中から、特に隠密として適正のありそうな人間に声を掛けたのだ。


 とはいえ、隠密として適正のない者も、コミュ力さえあれば情報屋として使える。商才があれば物資の調達役に使える。臆病者ならリスクマネジメントに役立つ。そうしてあらゆる人間を引き込んで隠密ギルドに参加させた結果、組織として大きくなったらしい。


「……その流れが最近までずっと、破綻することなく続いていたわけか」

「そうですね……。最近と言っても十数年前で、今はもう見る影もありませんが。こうして以前のままのギルドを見ると、つい感傷的になってしまいます」


 現在の隠密ギルドの話になると、途端にネイは会話を切り上げようと、あからさまに視線を逸らす。

 そしてふいと前を向いて、無言で再び歩き出した。


 上層部やギルド長の部屋のある四階層目に降りるのは少し複雑なようだ。ネイは壁にあるいくつかの燭台を傾けていく。そのギミックを解くと、壁の一部が動いて下り階段が現れた。


「さて下に降りましょ、レオさん。……五階層目に降りる前にちょっと四階層目で捜し物をしたいんですけど、いいですか?」

「捜し物? ……最初に言ってた貴様の行きたいところというのは、ここだったのか?」

「そうです。敵を殲滅してからと思ってましたけど、通りがかりですからついでに」

「まあ、構わんが……すぐに見付かるものなのか?」

「どうかな……何の問題もなければあそこにあるはずなんですけど」


 とりあえず捜し物のある場所は分かっているらしい。ならばまあ、特に問題はないだろう。

 レオが了承すると、ネイはすぐにそわそわとした様子で階段を降り始めた。


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