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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、浄化の炎が効かない理由が分からない

「……『煉獄の檻』? それは何だ?」

『魂を閉じ込め、浄化の炎でその罪やけがれを焼くアイテムです。今、レオさんの近くに死んだ魔物がいませんか?』

「ああ、いるな」

『その魔物の魂が浮遊していて、たまたま檻に入ってしまったのだと思います。「煉獄の檻」は輪廻に戻ることのできない汚れたり壊れたりした魂を浄化して、この世界の輪廻に戻すアイテムだと言われていますから』


 つまり今レオの手元では、金剛猿の魂がこの世界の輪廻に戻るべく、浄化されているということか。

 と言っても、特別にこの魔物の魂が汚れていたとも壊れていたとも思わないが、おそらく世界の理から外れたものを、概念的にそう位置づけているのだろう。

 そう理解して、レオはヴァルドに問うた。


「……アイテムの正体は分かった。んで、ガンガン燃えてるこれはどうしたらいいんだ?」

『書かれている術式を見てみないと正確なことは言えませんが、少しすれば浄化が終わって勝手に消えると思います。輪廻に適合した形になれば、循環の流れに引き寄せられた魂が檻から出て行きますので』

「てことは、このまま放っておくしかないのか」

『そうですね。しばらく様子を見て下さい。……ところでレオさん、その炎は熱くないと言っていましたよね。今も変わりませんか?』


 まあ、放ったらかしでも勝手に消えるなら、それを待つしかあるまい。この現象の子細を知れば、もう慌てる必要もない。

 そうして落ち着いたレオに、ヴァルドが探るように訊ねてきた。

 この熱くない炎が、何かあるのだろうか。


「肘から先がぼうぼうと燃えているが、未だに全く熱くないな。だがこれは、通常の炎じゃないんだろう? 人間には影響がないんじゃないのか?」

『……レオさん、今はネイさんと一緒にいらっしゃるんですよね? ネイさんに炎を少しだけ近付けてみるとどうですか?』

「ああ……そういや狐は熱いと言っていたな」

『そう、ですか……』


 通信機の向こうで、またヴァルドが黙り込んだ。

 しかし今度は困惑や動揺からではなく、沈思からくる沈黙のようだ。このわずかに開いた間で、レオはヴァルドがもっと何か重要な情報を抱えているのだろうと勘付いた。

 だがそれを口にしないのは、まだ情報に確証が持てないのか、口にするのがはばかられる内容なのか、傍らにいるだろうユウトに聞かれたくないのか。


 おそらくその全てだろうと結論づけて、ならばここで待つより、後で直接話を聞いた方が早いとレオは会話を切り上げた。


「ひとまず細かい話は合流してからにしよう。あんたの召喚が切れる前にそっちに向かう」

『……そうですね、この状況で長話をするのはあまり賢い選択ではありませんし、その方が良いでしょう。……ところで』


 レオの言葉にヴァルドも同意する。

 しかし最後に、妙に真剣な声で忠告された。


『その炎ですが、他の人に移さないように重々お気を付け下さい。……おそらく、レオさん以外ですと肉体ごと魂を燃やされます』

「肉体ごと魂を燃やされる? 煉獄の檻は『汚れたり壊れたりした魂』だけを浄化するんじゃないのか?」

『煉獄の檻はそうです。しかし、浄化の炎は燃え移れば、魂を持つ全ての者を焼きます』

「魂を持つ全ての者……?」


 そう言われて、レオは困惑した。

 では自分は?

 未だに浄化の炎は煉獄の檻を覆っているが、それを持つレオを焼く様子はない。

 これはどういうことなのだろう。


『これ以上の話は、今ここでするのは不適当かと。……後ほど、合流できましたら私の持つ情報をお話ししましょう』


 話の続きはひどく気になるけれど、先に切り上げようとしたのは自分だし、こう言われてしまえば仕方がない。通信機とて、ユウトがいなくては魔力の充填もできないし、いつまでも使っていられないのだ。

 不可解ではあるものの、今緊急で必要な情報ではないのも確か。レオは努めて頭を切り替えた。


「分かった。では、後で」


 そう声を掛けて、通話を切る。

 そして通信機を再びポケットに突っ込むと、ネイがすかさず問いかけてきた。


「そのアイテム、『煉獄の檻』って言うんですか? どういう効果ですって?」


 レオ側の科白しか聞いていないネイは、断片的な情報を補完したいのだろう。相変わらずぐいぐい来る。

 いつものレオならそれを面倒臭がって適当にあしらうのだが、今はそうも言っていられないか。あまりにも不可思議なアイテム、情報は共有しておくべきだろう。


「この『煉獄の檻』は汚れたり壊れたり……いわゆる、この世界の輪廻の基準に合わない魂を浄化して、それに合うように作り替えるアイテムらしい。今はたまたま金剛猿の魂を捕まえてしまって、それが燃えているようだ」

「あー、煉獄って確か罪を浄化する場所のことですっけ。そういう意味のアイテムなんですね」

「一応、魂が輪廻に沿う形になれば、勝手に檻から出て行って炎は消えるらしい」

「あ、じゃあ特に問題なくただ待ってるだけで良いんですね」


 ただ待っているだけ、と言っても移動くらいはできる。

 そこまで話した二人は、再び出口に向かって歩き出した。


「……とりあえず、このアイテムは俺が専用で持つ。よく分からんが、貴様らがこの炎に触れると肉体から魂まで焼かれてしまうらしい」

「へっ? 俺たちが炎に触れると焼かれる……? レオさんは平気じゃないですか」

「……俺はなぜだが平気なようだ。ヴァルドも困惑していた。この浄化の炎は本来、魂を持つ全ての者を焼くものなのだそうだからな」

「そんなことを言ったら、レオさんに魂がない死人ってことになっちゃいません? ……え? まさかでしょ?」

「俺が死人に見えるか?」

「見えません。見えませんけども、……まさか、ね」


 これに関しては考えたところで分からない。

 確かに以前から、死人並みに体内魔力がないとは言われていたけれど、心臓だって動いているし怪我をすれば血も出る。体温だって人並みかそれ以上に高いのだ。

 ではなぜ浄化の炎が効かないのか。それを問われたところで、レオ自身には答えようもなかった。


「今はとりあえず、俺のことはどうでもいい。この檻が青い宝箱から出たということは、世界の存亡を担う重要アイテムとして役割があるということだ。その使いどころを考えねばならん」


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