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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、トレントの水源を潰す

「ガウ!」

「どうした、エルドワ!?」


 レオたちと別に走り回っていたエルドワが、不意に吠えてこちらを呼んだ。

 足下に注意を払いながら急いでそちらに向かうと、一本の根っこを掘り出そうとしているのが分かる。攻撃は二の次と言ったレオの言いつけを守って、牙を向けてはいないようだ。


「ガウ、ガウ!」

「何だろうな、エルドワが掘ってるこの根っこ、他のとちょっと違う気がするけど……いや、根っこというより、周りの土が違う……?」

「確かに、周囲の土が少し固いな。つまり、他の根よりも動いていないということか?」

「ガウッ!」


 二人の疑問に対し、エルドワが何かを指すように鼻先を後ろに向けた。その示す先を追ってレオとネイも振り返る。

 するとそこには、倒れた立ち木に隠れて、人工の池のような水場があった。


「水場……周りの花壇とかはぐちゃぐちゃなのに、あそこだけ無傷ですね」

「……そうか、あそこがトレントの取水場か! この根だけ動きが少ないのは、あの水場に繋がっていて水を取り込んでいるからなんだな!」


 なるほど、取水場があそこなら、これだけ地面が掘り起こされて揺すられているのに、地表に地下水がしみ出して来ないのも当然か。

 多くの砂岩を含むこの地盤では、浅いところに地下水があると液状化もあり得るし、そうなればトレント自身も身体の支えを失う。だからこそ地下水でなく、独立した水場が必要だったのだろう。


「エリアを切り取っているからこそ、その範囲内に水を確保できる場所が必要だったんですね。この広場が不自然に整っていたのは、あの水場を違和感なく景色に溶け込ませるためだったのかも」

「だろうな。あの立ち木の配置や倒れ方も、計算尽くだったのかもしれん。この状況では、エリアの外周付近になど注意が向かないからな」


 実際、レオたちだけではその注意はトレントばかりに向いていただろう。気付くとしてももっと後だったはずだ。

 しかしエルドワはおそらく、水の匂いや地面の違和感でそれに気が付いた。さすがはグラドニに認められた優秀な子犬だ。……まあ、今は超大型の成犬だけれど。


「クウ!」


 とにかく、そうと分かれば対策もできる。

 レオはキイと共に上空から枝を攻撃しているクウを呼んだ。


「そこの水場の水を一気に凍らせてくれ! 最大出力で中の方まで全部だ!」

「クゥ!」


 そう命じれば、クウはすぐさま水場に向かう。

 キイを向かわせて炎のブレスで干上がらせてもいいのだが、今回はクウだ。当然レオには思惑がある。


「エルドワ、その根に変化があったらすぐに攻撃しろ!」

「ガウ!」

「レオさん、俺は?」

「クリスのところで憎悪の大斧(ヘイトアックス)の状況を確認してこい。おそらく水源をつぶすと樹液が生成できなくなって、トレントは次の攻撃フェーズに入る。そこでいきなり斧が使い物にならなくなったらまずいからな。ヘイトが溜まりきりそうなら得物を替えろと伝えろ」

「了解です」


 ここまでは水場があるおかげで回復に事欠かず、こちらの様子を見ていたトレントだが、その供給が絶たれたとなれば間違いなく本気になる。

 つまりここからが正念場だ。

 どんな攻撃が来るか分からない状況で、クリスが戦闘不能に陥ったら洒落にならない。斧の持つ特攻は惜しいけれど、今回はやむなしだろう。……ただ、本人が素直に従うかどうかが問題だが。


「クゥゥ!」


 ほぼ間を置かず、クウが一声鳴いた。

 氷のブレスを吐く合図だ。

 クウは一度息を吸い込むように上体を反らせると、一拍溜めて、そこから前方に頭を振って勢いよくブレスを吹き出した。


 瞬時に水場だけでなく、周囲を覆っていた立ち木まで凍り付く。

 溜められていた水は一気に凍ったせいで体積を増やし、その膨張に耐えきれずに内側から水囲いが壊れた。これでここに水を溜めるのはもう無理だろう。


 同時にトレントにも変化が現れる。

 水場の方に向かっていた根が、慌てたように地中から引き抜かれたのだ。その根の先端から三分の一ほどが裂けている。

 クウの氷のブレスによって、水場から水を吸い上げていた根の導管の中の水分まで一気に凍らされ、体積が膨張することで内側から破壊されたのだ。

 さらに氷によって樹液の通り道を阻害されているから、修復もままならない。


「よし、エルドワ! 噛み切ってやれ!」

「ガウ!」


 これこそがレオの思惑通り。

 思わずといった態で地表に全貌を現した根っこに、エルドワをけしかける。

 それに即応した子犬は、その隙を逃さず根元に齧り付き、バリバリと噛み砕いた。


 とりあえず、これで二本目の根を潰すことに成功したことになる。

 その上で今後の樹液の生成も阻止できたのだから、これは大きな成果と言えよう。

 しかしもちろん、これで安心はできない。

 生命線とも言うべき水源を絶たれて、トレントは更に殺気を増大させた。


「ギュワ、ギュワ、ギュワ!」


 二つのウロに、木魂の明かりが灯る。……その色は紫色。今まで見たことがない色だ。だがレオはすぐにピンと来た。

 これは赤と青を混ぜた色なのだと。


「こいつ、魔法反射と物理反射を重ねられるのか……!」


 こうなると、ウロを狙うのはほぼ不可能だ。本来ならどちらかにスイッチする瞬間を狙うのだが、両方に対応されているのではやりようがない。


 やはり地道に根を攻略していくしかないか、と思った矢先。

 地表近くにあった側根の残り七本が、ウネウネとした動きで地上に立ち上がった。見ればその先端が、鋭利な棘のように尖っている。

 そこに乗った殺気に、即座に身体が反応した。


「来るぞ!」


 そう口にしたと同時に凶器と化した根がレオに向かって振り下ろされる。もちろんレオにだけではない。クリスたちにもだ。

 だがこちらは前衛の全員が、攻撃を反射的に躱す身体能力を持っている。どうにか対応は可能。

 それぞれが間一髪で棘の切っ先から飛び退いたところで、今度は突然その着地点の地面が崩れた。


 落とし穴だ。

 いきなり陥没した足下を見れば、三メートルほどの深さの縦穴の底に、剣山のようにこちらに切っ先を向けた根が潜んでいた。先ほどまでとは明らかに凶悪さが違う。沈下無効がなかったら、危うく串刺しになるところだった。


 そこでレオははたと一人だけ沈下無効を持っていなかったことを思いだし、そちらを見る。

 足場の上に人影はない。今の攻撃からの緊急回避のため、地面に降りたのだろう。


「クリス! 無事か!?」


 ぱっと見る限り、エルドワとネイの足下にも大穴が開いている。二人も沈下無効持ちだから穴に落ちることはなかったが、クリスだけは落とし穴にはまれば落下不可避だ。

 レオは慌てて確認の声を掛けた。


現在体調不良のため更新が滞っております。

もうしばらくの間スローペースです。徐々に回復しているのでそのうち元に戻ります。


誤字脱字報告下さった方、ありがとうございました!

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