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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、勝手の違うゲートの仕様に戸惑う

 建物はだいぶ崩れているが、その痕跡は見て取れる。

 上下水道の設備の名残、舗装された通りに並ぶ街灯の残骸。さらに、潰れているがバイクのような乗り物。

 やはりエミナは少なくとも、今の王都エルダーレアと同等かそれ以上の生活水準だったようだ。


 レオたちはエルドワのあとに付いてその瓦礫の間を縫うように歩くと、まずは公園のような場所にたどり着いた。

 どうやらここが最初の目的地か。

 花壇があったと思われる場所には雑草が茂り、ベンチは崩れ、噴水の水も当然止まっている。殺風景でどこかもの悲しさを感じる場所。


 しかしその公園広場の中央、ひときわ目立つところに、場違いにも思える赤地にゴールドの金具が付いた派手な宝箱が置いてあった。


 ……何だこのどうぞ見つけて下さいと言わんばかりの色は。

 その露骨さにドン引いた一同は、一旦様子を見るために立ち止まり、遠巻きにそれを眺めた。


「……あれがランクSSSゲートの宝箱か……」

「何かすごい存在感。わざとかと思うような色味と置き方だよね」


 その異様な見た目の主張に、クリスは思わず苦笑し、一方でネイが顔を顰める。


「普通に考えたらあれ罠としか思えない……んだけど、このゲートには罠がないんだよね? でも逆に怪しすぎ……。罠がないのが罠なんてことない? 何だか必要以上に疑心暗鬼になる~」

「通常の罠はなくても、魔物が遠くから見張りやすくなっているのかもね」

「あー、今は近くに敵の気配がないけど、秒で飛んでくるとか? まだ魔物の索敵範囲が分からないから、ちょっと危ないなあ。……王都の方のランクSSSゲートの宝箱もこんな感じだったのかねえ」

「はい。向こうのゲートの宝箱も、見た目はこれと同じでしたよ」

「え?」


 宝箱の怪しさに二の足を踏むネイが、唐突に話に入ったユウトに目を瞬いた。その物言いの違和感に、レオも弟を見る。

 するとユウトがこちらの視線に気付き、はっとしたように言葉を続けた。


「……って、キイさんとクウさんに聞いたんです。こんな感じの、派手な宝箱だったって。ええと、近付いて開けてもいきなり魔物が襲ってきたりはしなかったみたいですよ」

「そうなのかい? ……でもまあ、このランクSSSゲート自体が攻め込まれることを想定した造りじゃないんだから、こんな無防備な宝箱もアリなのかなあ」

「この宝箱以外にも、青地にシルバーの金具の付いた宝箱があるみたいです。いくつも開けたわけじゃないので確証はないけど、赤い宝箱はアイテムクリエイトされた物が出て、青い宝箱は固定アイテムが出る……のかもしれないって、言ってました」


 ということは、どうやら今レオたちの目の前にある宝箱は幸運値によってアイテムクリエイトされる方の宝箱らしい。

 そういうことならもちろんユウトが開けるのが最善。

 しかしこれは、このゲートに入って最初の宝箱なのだ。どうしても警戒してしまう。


「う~ん、できることならこの宝箱は俺たちが開けるより、ユウトくんに開けてもらいたいけど……」

「はい、僕が開けますよ」

「いやいや、待て待て、ユウト。軽はずみなことをするんじゃない。キイとクウの時と同じとは限らんし、万が一魔物が襲ってきたらどうするんだ」


 深く考えずに安請け合いする弟に、レオは待ったを掛ける。

 けれど当のユウトの方は、特段気にすることなくけろりと言い切った。


「宝箱自体に罠さえなければ、突然襲われてもリガードさんの加護も付いてるし、何よりレオ兄さんたちがいてくれるから平気だよ。正直みんなに囲まれてる僕が、今世界で一番安全なところにいるんじゃない?」


 仲間に対する揺るぎない信頼。

 それを素直に表現するユウトに、一瞬目を丸くした大人たちはこれは敵わないと諸手を上げ、エルドワは嬉しそうに尻尾をぴるぴるした。


 この純粋な信頼を裏切りたくはない。そう思うからこそ、その期待に応え、護ってやらねばと思う。そして護る相手を大事に思っているからこそ、自分たちは実力以上の力を出せることもあるのだ。


 ユウトは護られることで周囲を強くする存在なのだと評されるけれど、まさにこれがそういうことだろう。

 弟が言うとおり、今この我らの中央を世界一安全な場所にするのだという使命感がわき上がる。


「……そうだな。ユウトのことは何があっても俺たちが護ればいいんだな」

「まあ、遅かれ早かれ敵の情報は欲しいですしね~。もしも敵に察知されても、それが今になるか後になるかって違いくらいですから」

「逆に考えれば、全員が揃っている今のうちに一度は魔物の戦闘レベルを確認しておいた方がいいかもしれないよね」

「アン!」


 ユウトの信頼を受け、全員の姿勢が前向きになる。

 それに伴って自分を引き留める言葉がなくなったことに、弟がぴょんと一歩前へ出た。


「じゃあ、宝箱開けてもいい?」

「ああ」

「よし、行こうエルドワ!」


 レオが短く許可を出す。するとユウトは、エルドワに先導を頼んで意気揚々と宝箱へ近付いていった。レオたちも周囲に気を配りながら、その周りを固めつつ宝箱に近付く。

 宝箱は公園のど真ん中にあるせいで、付近には身を隠す場所もない。魔物からはさぞかし見つけやすかろうと思うけれど、しかし特に今のところ近寄ってくる敵はいないようだ。


 なるほど、先に聞いていたように地面にも罠はなく、宝箱には鍵も掛かっていない。ある意味楽と言えば楽なゲートだ。

 しかしそれが逆に違和感だらけで、この場所はレオを落ち着かない気持ちにさせた。


「……うわあ、慣れないなあ」


 後ろでネイも小さく独りごちる。神経質なこの男は特に、セオリー通りでないこの状況にもやもやしているだろう。

 本来ならどう見ても罠があってしかるべき状況。ここではそれがないと分かっていても、警戒してしまうのは職業病だ。罠を見つけて解除すれば緊張を解くこともできるのに、ない罠を常時探してしまうからずっと警戒している。


 この男自身、ここに来る前は罠がないと分かっているなら楽だと言っていたけれど、どうやら却って精神的に摩耗するようだ。


 一方でクリスは落ち着き払っている。こちらは見た目に反してかなり図太い神経をしているからだ。元々彼自身がセオリーを破りがちな性質だし、割り切りが早く、万が一罠があったらその時はその時だと大きく構えている。

 まあ、不幸慣れしているせいで肝が据わっているともいえるか。得な性格だ。


 そして動じていないという点ではエルドワも同様。

 ただこの子犬は人間である大人たちと違い、セオリーなど関係なく自分の鼻と感覚に絶対の自信があるからこそぶれない。

 この宝箱も、エルドワの鼻には無害なものとして知覚されているのだろう。ユウトを導く歩みに迷いはなかった。


 結局何事もないまま宝箱の前までたどり着いたユウトは、その真ん前にしゃがみ込む。

 そして何の頓着もなく、やにわにぱかりと宝箱のふたを開けた。


 ……罠がないと分かっていても、肝が冷えるから止めて欲しい。

 この大胆さは度胸云々というよりも、単にこの状況でも自然体なだけだ。ユウトは信頼する人と一緒にいると、警戒心が抜け落ちるきらいがある。だからこそ、すぐに護れる場所に置いておかないと心配なのだ。

 まあ、そういう少々危なっかしいところも、皆の庇護欲をそそる一因となっているのだが。


「……ユウト、罠は本当に何もないか?」

「うん、大丈夫みたいだよ」

「中には何が入っているんだい?」

「えっと、宝箱は大きいけど中身は小さいですね。何だろ、これ」


 宝箱の中身を覗いたユウトはそのまま手を伸ばして、手のひらに乗る程度の大きさのケースを取り出した。その他には何もないようだ。

 つまりこれが、ユウトの幸運に引き寄せられてきたアイテム。


「ユウトくん、そのケースの中身は何?」

「ちょっと開けてみます。……あ、眼鏡ですね」

「眼鏡だと?」


 どうやらこれは眼鏡ケースだったようだ。

 ユウトはそれを取り出し、やはり無頓着に装備してみる。レオとネイがその無警戒さにひやりとしたが、考えてみればユウトがアイテムクリエイトで引き寄せたアイテム、呪いや悪い効果が掛かっているわけがないのだ。それに思い至って、どうにか心を落ち着けた。


「……どんな効果があるんだ?」

「ん~、よく分かんないな……別に度が入ってるわけでもないし、レオ兄さんが持ってたみたいな伊達眼鏡と同じなんだけど……」


 銀のフレームの眼鏡はちょっとクールな印象だ。眼鏡のユウトも可愛いが、残念ながら弟の雰囲気にはあまり似合わない。

 もちろんこれがただの伊達眼鏡だとは思わないし、似合う似合わないの話ではないと分かってはいるけれど。

 とりあえず、ウィルに鑑定してもらうまではもうこの眼鏡をユウトに掛けてもらう必要はないだろう。


 ……ただそうは言っても、眼鏡ユウトは新鮮で良い。王都に戻ったら弟に似合うファッション眼鏡を探して掛けさせたい兄心だ。


 そうしてユウトにはどんな眼鏡が似合うだろうか、などとレオが考えている間、弟は眼鏡を掛けたまま周囲をきょろきょろと見回していた。

 仲間の顔を見たり、空を見たり自分の手を見たり地面を見たり。

 そうして巡っていた視線が、不意に公園の出入り口付近でぴたと止まった。


「……あれ?」


 一度眼鏡を外して何かを見、それからもう一度眼鏡を掛けて見る。

 そこで何かを確信したように、ユウトは「ああ!」と声を上げた。


「レオ兄さん、この眼鏡を通すと公園の入り口の看板の字が読めるみたい! 崩れてるから『園』の字しか見えないけど!」

「……何? それはつまり……」

「その眼鏡を通すと、この国の言葉が翻訳できるってこと!?」


 レオの言葉尻を、ユウトを挟んだ向こう側の男が勢いよく掻っ攫っていく。

 見ればクリスの瞳がらんらんと輝いていた。


 ……これは、面倒なアイテムを引き当ててしまったかもしれない。


現在誤字修正のために一話から読み返しをしているので更新が遅れています。

今後ちょこちょこ過去話が更新されますが、誤字直すだけですので(多分)見なくて大丈夫です。


感想も誤字脱字指摘もブクマも評価もとてもありがたいです!

今後ともよろしくお願いいたします。

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