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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、『招集』の使いどころを指示する

 レオたちはキイとクウの背中に分かれて乗ると、そのまま上空のゲートに突入した。


 通常より大きな時空の渦にドラゴンごと飛び込む。

 するとまずは天井の高い、広くてがらんとしたフロアに出た。どうやらランクSSSゲートでも、0階は存在するようだ。

 一同はそのフロアに降り立って、階下に降りる前の最終確認をすることにした。


「ユウト、もしフロア移動の際に俺たちとバラバラになったら、最初に探知を掛けろ」

「うん」

「他の者は魔石の欠片を確認。色が変わればまずはユウトのところに集うのが最優先だ」

「そうだね。敵のランクがかなり高くなってるし、個人での各個撃破はだいぶ骨が折れそうだもの。……そう考えるとこれ、他の仲間同士でも近くにいるか分かるといいんだけど」


 クリスが欠片を眺めながら独りごちる。

 確かに、ユウトと別のフロアに降りたとしても、他の誰かが一緒ならば合流できた方が進みやすい。

 何か、欠片を持つ者同士で互いの存在を知る手立てがあればいいのだが。


 そう思ってレオも欠片を眺めていると、ふと隣からユウトが覗き込んできた。


「あれ、レオ兄さんの持ってる欠片……。あ、もしかしてグラドニさんが……」


 何かに気付いたように、ユウトはネイやクリスの欠片も確認する。それから思考を反芻するようにふむふむと頷いて、やがて考えがまとまったのか、兄と視線を合わせた。


「みんなが僕以外のだれかと同じフロアにいた場合、居場所までは分からないけど、いるかどうかくらいは分かるようにできるかも」

「! 本当か!?」

「うん。この魔石の欠片、グラドニさんが僕の探知に必要な『印』を付けられるようにしてくれたんだけど、これを利用すればどうにかなりそう。……見て。僕の欠片以外、全部に水晶みたいな別の鉱石が埋め込まれてるんだ」

「……あ、この透明なやつか。魔石と同化して気付かなかった」


 ユウトに言われて魔石の欠片をよく見ると、確かに一部に水晶らしき透明な鉱石が埋め込まれている。

 同一体の魔石の加工はひとつ間違うと全部の欠片が砕けるために酷く難易度が高いとタイチ母が言っていたが、グラドニはこんなこともできるのか。


「この鉱石は何のために埋め込まれてるんだ?」

「おそらく魔石の色を制御する術式と、位置情報と識別情報を取得するための術式が入ってるんだと思う。探知魔法に反応すると僕との位置関係を割り出して、魔石の色の発現をコントロールするようになってるんだ」

「ああ、そうか。特上魔石自体はすでに『招集』の魔法が入ってるから、これ以上の改変ができないもんな。その欠片に後付けで追加情報を連携させるため、この鉱石を埋め込んでるってことか」

「うん、そういうこと。……ちなみに識別情報は主に僕が個人の居場所を追うために使うものだから割愛するね」


 レオの言葉に頷いたユウトは、兄の手のひらに乗っていた魔石の欠片を取り上げて水晶の部分に触れる。そしてゆっくり目を閉じて、ぶつぶつと何事かを呟いた。

 何かの魔法だろうか。

 そのまま様子を見守っていると、やがて弟は呟きを終えてぱちりと目を開けた。


「……ユウト、何をした?」

「グラドニさんの付けてくれてる位置情報を元に欠片同士の位置も割り出せないかと思ってさ。さすがに術式の書き換えとかは僕にはできないけど、追加の魔法を入れるくらいなら……どうかな?」


 そう言って、ユウトがレオの手に欠片を返す。

 それをよく見ると、鉱石の部分がルビーのような赤い色になっていた。


「ん、上手くいったかも」

「ユウトくん、これもしかしてマーカーかい?」


 横からのぞき込んだクリスがその変化の理由にすぐ気付く。

 レオにはあまり馴染みのない魔法だ。訳知り顔をしているクリスに、レオは怪訝な顔を向けた。


「……マーカーって?」

「探知とか捜し物魔法の一種だよ。マルセンくんがこれ系得意でよく使ってたからよく知ってる。持ち去られたら困るものに付けておいて、自分から一定以上距離が離れるとサイレンが鳴ったり盗人を捕縛したり、魔法反応が現れるようになってるんだ。彼はこれを逆手に取って、敵に持って行かせて距離が離れると爆発するようにしたりもしてた」

「あはは、もちろん今回は爆発もサイレンも付けないですけどね。マルさんは僕にもこういう魔法の応用の仕方をたくさん教えてくれてたんです」


 クリスの説明に苦笑しつつ、ユウトは他のみんなの分の欠片にも同様にマーカーを付けていく。

 すると結局ユウトを除く全員の欠片に、赤いマークが付くことになった。


「本来のマーカーだと僕からの距離しか測れないんだけど、グラドニさんの術式の位置情報を借りて、それぞれの鉱石同士をマーカーで繋げてみたんだ。このマーカーは、僕以外の誰かが同じフロアにいる時は常に赤い状態。同じフロアに誰もいないと無色透明になるようにしてみたよ」

「なるほど、周囲にマーカーの反応がなければ魔法反応自体を消してしまうということか。これなら追加の魔力消費も必要ないし、反応によって周囲の敵に覚られることもない。ユウトくん賢いなあ」

「今は確かめるすべがないけど、多分同じフロアにいる人数によって、赤の濃さも変わるはず。……ざっくりした効果だから、あんまりあてにしないで使って」

「いや、これなら十分役立つ。さすが俺の可愛いユウトだ」


 ユウトは謙遜するけれど、簡易な魔法を応用してこれだけ有益な効果を付けられるのは、兄の欲目を抜きにしても素晴らしいと思う。

 賢くて可愛くて可愛くて可愛いなんて、最強すぎる。とりあえず抱きしめておこう。


「じゃあ、ユウトが同じフロアにいなくて、他の誰かが同じフロアにいると分かった場合のことを決めておくか」

「敵と当たる前にどこかで落ち合いたいところだよね。でもここのゲートって私たちには未知の場所だし、それぞれのフロアがどうなってるかも分からないからなあ」

「だったらとりあえず、そのフロアで一番高い場所で落ち合うっていうのはどうです? キイとクウならひとっ飛びだろうし、俺たちも目印にしやすいし」

「そうだな……。ある程度近付けば互いの気配で居場所も分かるしな。もちろんどこかで誰かが敵と戦闘を始めたらそちらに向かうのを優先で」

「うん、それでいいんじゃないかな」


 フロア移動をした際の行動指針を決めれば、断然初動が取りやすくなる。皆が納得して頷いた。

 では次に、基準を明確に決めておかなくてはならないことがもう一つ。


「あとは『招集』の使いどころだな。キイとクウはいいとして、まず他のメンバーはゲートから排出された場合は即『招集』を使え。ユウトを含め100%ありえないというわけじゃないからな」

「そうですね。グラドニはユウトくんが排出されることは『まずない』って言ってたけど、絶対ないとは言わなかったですもんね。俺も確率が低いだけだし」

「排出された僕が『招集』使ったら、全員ゲートの外に投げ出されちゃうけど……?」

「その場合はキイとクウが全員拾ってくれるから問題ない。ユウトが外に出た時点で、どうせゲートは一から入り直しだしな」


 ユウトの幸運値で外に排出された時は、おそらくその方がユウトにとって良いことだという可能性が高い。ならば一度全員で出てしまうのは悪い選択肢ではないはずだ。


「全員肝に銘じておけ。『招集』を使う時は即使う。変に躊躇って、死なないまでも大怪我なんかされたら大迷惑だ。特にクリス、余計なこと考えるなよ」

「うん、余計なことは考えてないよ」


 その答えが不安でしかないのだが、この男に危険度を説得をしても無駄なことは分かっている。グラドニとの話がなおさらリスク上等主義に拍車を掛けたようで、本当に困った男だ。

 レオは眉間にしわを寄せつつ、話を進めた。


「あとは、出口のない空間に行ってしまった時だな。敵に見付かった場合は1対1だと不利だから即『招集』。見付からずに行けるようならフロアを全て探って宝箱を回収してから『招集』。脱出アイテムはキイとクウ以外リスクしかないから使うな」

「うんまあそれはそれとして、臨機応変に頑張るよ」

「俺もレオさんの言いつけを胸に、状況を見て頑張ります」

「チッ……お前ら、素直に従う気ねえだろ……」


 あからさまに舌打ちをしてみせたところで、クリスとネイには響きもしない。だがレオは、二人にそれ以上自分の指示に従うことを強要することはしなかった。

 レオが一応ここまで使用条件を明確にしておけば、この二人がそうそう判断を誤ることはないだろうと信用しているからだ。彼らの能力は疑うまでもないのだし、後は放っておいて問題ないだろう。


「他にもイレギュラーによって『招集』に頼るしかなくなったら躊躇せず使えよ。……それからユウト、お前はエルドワと一緒にできるだけ安全な場所を選んで動け。二人しかいない時に敵と当たってしまったら、必ず『招集』を掛けて俺たちを呼ぶんだ」

「うん、分かった。エルドワが道案内してくれるから大丈夫だと思うけど」

「エルドワはユウトを危ない目に遭わせない。任せて、レオ」

「頼んだぞ、エルドワ」


 こちらは年長二人と違って素直で良い子だ。思わずわしわしと二人の頭を撫でる。

 まあユウトとは通信機で連絡が取れるし、『招集』さえあれば何かあってもすぐに飛んでいけるのだ。もちろん心配ではあるけれど、離ればなれになる不安は幾分和らいでいる。

 キイとクウもレオに従順であるし、こちらは安心だ。


 レオはそうして全員に最低限の指示を終えると、左手を剣の鞘に掛けてゆらゆらと揺らした。これはレオが臨戦態勢に入る時の癖だ。それに気付いたクリスたちの意識がピッと鋭くなったのが分かる。

 ユウトだけがいつも通りにほにゃんとしているが、可愛いので問題ない。


「では、突入するか」


 レオは皆に一声掛けると、そのまま最初の階段に向かった。


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